LGBT理解増進法成立「人権制限の恐れ」「誰のため」 静岡県内当事者、寄り添う社会切望

 16日に成立したLGBT理解増進法は、性的少数者だけでなく多数派にも配慮して「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との条項が設けられた。静岡県内のLGBT当事者らには「法成立でかえって人権が制限される恐れがある」と懸念が広がる一方、「差別のない社会を作るには一人一人の意識を変えていくしかない」と冷静な受け止めも聞かれた。

LGBTなどの性的少数者らへの差別や偏見がない社会の実現を訴えるパレード=11日、浜松市中区
LGBTなどの性的少数者らへの差別や偏見がない社会の実現を訴えるパレード=11日、浜松市中区


 出生時の性と性自認が一致しないトランスジェンダー当事者で、支援団体「浜松TG研究会」代表の鈴木げんさん(48)=浜松市天竜区=は「全ての国民が安心」と明記した条項について「多数派の理解の範囲でしか少数者の人権を認めないような印象も受けてしまう。理解促進する本来の趣旨をしっかりと運用に生かしてほしい」と注文を付けた。「全ての国民が安心」との文言は、皆が安心できないことは認めるべきではない―と解釈される恐れもある。鈴木さんは子どもの環境についても「安心・安全な場所を確保できるのか心配」と指摘した。
 「不当な差別はあってはならない」との基本理念に違和感を訴える声もある。性同一性障害(GID)の当事者で県内外の学校で講演を続ける家具メーカー社長安池中也さん(53)=静岡市駿河区=は、知らない人から中傷を受けた経験もあり「『不当な』は不要なのでは。明確に差別禁止を打ち出してほしかったが、当事者は『理解増進法』で我慢すべきなのだろうか」と複雑な胸中を語った。
 静岡市で運転手として働く30代のトランスジェンダー男性は「今回の法律は一部の保守派に配慮しすぎ。誰のための法律なのか」と不満を訴えつつ、「法律がゼロ(ない状態)から1(ある状態)になったのは大きい。法成立をきっかけに少数者に寄り添う社会を期待したい」と希望も抱いた。
 県東部の支援団体「IZU PRIDE」メンバーの女性も「私たちは決して特別なことを求めているわけではない。苦しんでいる人がいる現状を人権問題ととらえ、しっかり向き合ってほしい」と切望した。
 静岡大情報学部の笹原恵教授(ジェンダー論)は「当事者内でも賛否が分かれる法案」との見方を示す。本来の趣旨である「差別をなくす」というメッセージ性や意志が薄れた一方、今まで性的指向などを条文に入れた法律はほぼなく、前進との受け止め方もあるとする。法の成立によって性的少数者への理解を抑制することはあってはならないと強調し、「国や地方自治体、事業者などは性の多様性を理解し、何が差別であるかを認識するところからが一歩だろう」と語る。
 (浜松総局・金沢元気、社会部・瀬畠義孝)

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