マメザクラ 富士山麓で可憐に咲く【しずおかに生きる植物 春②】
富士山、箱根、伊豆半島に春を告げるのはマメザクラである。ソメイヨシノや河津桜のような華やかさには欠けるが、野生のマメザクラは、つつましやかな気品を備えている。花の大きさは約2センチで、ソメイヨシノの半分ほど。名前のごとく、可憐[かれん]で小さいことから豆に例えられ、富士山やその周辺にだけ自生するため、フジザクラの名もある。
日本列島は、中部日本で大きく折れ曲がり、東北日本と西南日本に分かれる。この境目は大地溝帯で明治初期に招かれた地質学者E・ナウマンによって「フォッサマグナ」(大きな割れ目)と名付けられた。この地溝帯の南東部には火山が連なる。浅間山、富士山、箱根、さらに伊豆諸島へと続く。
植物はそれぞれ異なった分布域を示し、日本中どこにも分布する種はむしろ限られている。北海道にはエゾマツやトドマツが、雪国にはユキツバキやヒメアオキが、高温で温暖な琉球列島にはガジュマルやオヒルギが、特徴的な植物として挙げられる。
フォッサマグナの南東部に位置するこの地域に限ってフジアザミ、サンショウバラ、イソギク、ハコネウツギなどが分布し、「フォッサマグナ要素の植物」の名で呼ばれている。
野生の桜が多く花開くのも特徴だ。海岸の森にオオシマザクラ、山地にはマメザクラ。この2種類も代表的なフォッサマグナ要素の植物。加えて分布の広いヤマザクラ、エドヒガン、オオヤマザクラが咲き、富士山の5合目にはタカネザクラが咲く。
この地域は、さまざまな桜に出合える恵まれた地である。早春から初夏まで、それぞれの桜を楽しんではいかがだろう。
(文と写真・菅原久夫=富士山自然誌研究会長、長泉町)