大自在(3月8日)H3打ち上げ失敗

 落語家の桂文珍さんはメカ好きで知られる。シンセサイザーを取り入れた「ニューウエーブ落語」が注目されたころ、「宇宙音」をつくろうと、電子機器を滞在先のニューヨークで衝動買いした。当時の値段で450万円。ところがテクノロジーは日進月歩。数年後には大阪の電気街で5千円ほどで売られていた。
 操縦資格を持つほどの飛行機好きは宇宙への夢につながり、30年ほど前に米国の会社が宇宙旅行を売り出すと即座に手付金約300万円を払い込んだ。
 会社から入金確認の手紙には「あなたの席は窓際です。チケットは往復になっています」と。「往復って、当たり前やがな」。後に、詐欺だったと分かる(「わたしの失敗」文春文庫)。
 だれにも大小の失敗はある。高い授業料を払う羽目に陥ることも。「失敗は成功のもと」となぐさめてくれる人もいる。このことわざは英語の「Failure teaches success.」の翻訳らしい。だが戦前の辞典には収載されず、一般化したのは昭和40年代以降というのは興味深い。日本人が失敗に対して寛容になったのは高度経済成長も一つの要因か。
 同じ発想のことわざは世界各地にある。「不幸も何かの役に立つ」(フランス)「苦労のたびに理解は深まる」(チベット)。
 H3ロケットの打ち上げ失敗は残念だ。損失は多大。しかし、「何もしない者は誤りも犯さない」(ジョージア)「つまずきは転ぶことではない」(アフリカ)。しっかり反省することが成功につながるという教えは、どのことわざにも共通する。

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