知事との関係悪化 総括なく終幕の様相【政令市長 成果と課題⑥完/静岡市㊦】

 静岡市の田辺信宏市長が49歳で市長選に初当選した直後の2011年4月。「若く、人柄も誠実。早大卒で在野精神を持っている人に違いない」。川勝平太知事は同門の後輩に当たる田辺市長を評し、田辺市長も知事を「先輩」と持ち上げた。不協和音が生じる今の2人の関係からは想像しがたい光景だった。

G3サミットで川勝平太知事に政令市の失敗事例と言われ、語気を強めて反論する田辺信宏市長(左)=2016年12月、静岡市内
G3サミットで川勝平太知事に政令市の失敗事例と言われ、語気を強めて反論する田辺信宏市長(左)=2016年12月、静岡市内

 田辺市長による3期12年の市政運営。「知事との関係が良好だったのは、市長1期目の途中まで。それ以降は常に知事の“口撃”にさらされた」と市幹部は苦り切る。三保松原(同市清水区)の松枯れや御幸通り(同市葵区)の景観、JR東静岡駅北口周辺整備、桜ケ丘病院(清水区)の移転問題―。川勝知事は田辺市政に不満を持つ勢力と結びつき、市の対応を相次ぎ批判した。
 決定的な亀裂が生じたのは、県と静岡市の二重行政を是正するとして川勝知事が15年に提唱した「静岡型県都構想」とされる。田辺市長は15年6月の記者会見で「思いつきの域を出ない」と痛烈に批判。再選を果たした同年4月の市長選で、対立候補を推した川勝知事への遺恨があったとの見方がある。
 「事務レベルでは県と市の連携は取れている」。田辺市長は川勝知事の市政批判をかわし続けたが、堪忍袋の緒が切れる場面も。県と静岡、浜松両市の首長による16年12月のサミット(G3)で「静岡市は政令市の失敗事例」と発言した川勝知事に対し、「看過できない」と色をなして反論した。以降、G3開催は途絶えた。
 東京一極集中や人口減少など重要な共通課題がありながら、協調の姿勢は双方うかがえずじまい。没交渉の状態で、感情的と映る応酬ばかりが目立った。
 トップ同士の不健全な関係は有事にも露呈した。22年9月に県内を襲った台風15号。自衛隊の派遣要請を巡り、川勝知事との連携不足をただす報道陣の質問に、田辺市長は「知事の携帯番号を知らない」「じりじり待っていたのならば知事から電話1本ほしかった」と釈明し、溝の深さを際立たせた。
 市は1月下旬、台風15号の災害対応について、課題や問題点を検証した中間報告を公表した。田辺市長が今期限りで退任する要因になった事象にもかかわらず、市長を検証の対象外とした。当然ながら川勝知事との連携不足に関する顚末(てんまつ)の記載もない。関係のまずさを次代の教訓とする総括がないまま、田辺市政は幕引きを迎えそうだ。
 (統一地方選取材班)

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