社説(12月16日)JAXA実験不正 緊張欠く組織検証せよ

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の古川聡飛行士が研究全体の責任者を務めた実験で、同僚の研究者による不正行為が発覚した。火星などの遠い惑星を探査する飛行士が受けるストレスを探る実験データが捏造[ねつぞう]、改ざんされた。
 JAXAは古川氏を含む関係者を処分する方針だが、2023年ごろに予定している古川氏の国際宇宙ステーション(ISS)滞在計画の変更はないとしている。ただ、不正が発覚するきっかけになったミスが判明した際、古川氏が報告を受けたのに、実験のスケジュールを優先し、不正問題を担当するJAXA倫理審査委員会への報告を遅らせようとしたとの関係者の証言も出ている。古川氏の直接の関与はないとされるが、公的な研究との認識や自浄能力の不足を露呈したと言える。
 JAXAを巡っては最近、小型固体燃料ロケットイプシロン6号機の衛星打ち上げ失敗、超小型探査機OMOTENASHI(オモテナシ)の月着陸断念と残念な出来事が続いている。今回の実験データ不正との直接の関連性はないが、緊張感の欠如が宇宙開発の停滞の土壌になっていないか。組織の在り方の検証が必要だ。
 不正があったのは茨城県つくば市にある宇宙基地を想定した閉鎖環境施設で16~17年に行った実験。計40人の成人を約2週間滞在させ、精神的なストレスなどを評価した。費用は文部科学省の科学研究費も含む約2億円に上った。研究者2人が精神状態を聞き取る面談を実施したが、いないはずの研究者が参加したように記録したり、データを書き換えたりしていた。
 不正に及んだ研究者は「忙しくて研究に専念できなかった」と理由を説明しているというが、日本の宇宙開発の中核を担う組織に身を置いているとの自覚に欠けると言わざるを得ない。飛行士の生命に関わる研究に携わっている責任感もうかがえない。
 片道で数カ月以上かかるとの試算もある火星への行程では、通信状況が不安定な中、滞在長期化による飛行士のメンタルケアの重要性が高まる。飛行士のストレスを評価しようとした実験の狙い自体は理解できる。だが、データの取り扱いは極めてずさんで、内容も科学的合理性を欠いて稚拙だった。
 JAXAは、論文発表など一般への結果報告がされておらず、文科省が定義する「特定不正行為」(研究不正)には当たらないとして詳細の説明には及び腰だ。しかし、科研費を用いたため、文科省への報告書は公表されている。結果報告が行われたと同然と捉え、真摯[しんし]に対応すべきだ。

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