遊女普賢菩薩 松崎で展示中 鏝絵の傑作、触れる好機 伊豆長八作品保存会長/近藤二郎氏【本音インタビュー】

 松崎町出身の左官職人・入江長八が築いた独自の芸術分野「漆喰鏝絵[しっくいこてえ]」。幻の作品「遊女普賢菩薩[ふげんぼさつ]」の展示が今秋、同町の伊豆の長八美術館で始まった。発見経緯や見どころを聞いた。

近藤二郎氏
近藤二郎氏


 -作品の概要は。
 「江口の里(現大阪市)の遊女が普賢菩薩に化身したのが、遊女普賢菩薩。能の謡曲『江口』の一場面を描いている。制作されたのは明治初期で、当時流行していた浮世絵に影響を受けている。長八と親交のあった男性の守り本尊・普賢菩薩の制作を依頼されたが、しゃれを効かせて遊女普賢菩薩にしたという逸話もある。長八研究のバイブル『伊豆長八』では、傑作と評された。江戸に住んでいた長八の作品の多くは、震災や空襲で失われたと考えられていた」
 発見の経緯は。
 「2020年に関東に住む所有者から『長八作品がある。見てくれないか』と手紙が届いた。所有者宅を訪れると、大きくて立派なキリの箱に入っていた。傷んでいたものの、この世にはない作品だと思っていたので驚いた。所有者に管理できないので預かってほしいと伝えられ、町を通じて交渉した。作品修理のため21年、伊豆の長八美術館に寄託された。修理を経て今秋ようやく公開されたので、多くの人に見てもらいたい」
 -見どころは。
 「六牙[ろくげ]の白象の背に乗った遊女普賢菩薩が長巻物を読む様子を描いている。本来は、遊女普賢菩薩が鼓を打っているはずの場面。恋文を読んでいると解釈されることもあるが、鼓の音が描けないので代わりに巻物を描いて文字が読めるという普賢菩薩の高貴さを表したのではないか。気品あふれる長八らしい作品。昨今、芸術品は資産的な価値で判断されるが、本来は作品そのものの文化財的な価値を認識することが重要だと思う」
 -保存会の今後の展望は。
 「長八作品はこのままだと廃れてしまう懸念がある。こてで何層もしっくいを塗りつけるので表情などの細かい描写は苦手。でも、晩年は写実的に表現しようと懸命に作られている。作品の魅力を伝えるため、子どもにこてを使う機会を提供し、将来は町外に発信してもらいたい。美術館の誘客につなげるため、収蔵品を定期的に入れ替えて見てもらうのもいい。公開を機に長八作品にスポットが当たればうれしい」

 こんどう・じろう 中学校の教員などを経て現在まで約20年間会長を務める。長八作品の普及や調査研究を行っている。松崎町出身。87歳。

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