大自在(12月3日) W杯 勝敗左右する「かんじんなこと」

 白々明けゆく曇天の下、朝刊を取ろうと宅を出たら隣家の庭から声がかかった。「勝ちましたね」。はつらつとした声のおばあちゃん。「家族の大きな声がして起きちゃった」。サッカー・ワールドカップ(W杯)で日本がスペインを破った。多くの家庭で「暁[あかつき]の咆哮[ほうこう]」が響いたことだろう。
 森保一監督の試合後のコメントは、いつもチームの一体感が強調される。昨日も「自分たちができると信じてチーム一丸で戦ってくれた」と選手をたたえた。
 永遠にも思えた追加時間7分。ベンチの選手たちは肩を組んで攻防を見詰め、終了のホイッスルと同時に全速力で仲間に駆け寄った。26人の結束が1次リーグ突破をもたらしたと、はっきり分かる場面だった。
 ここまで出場機会がないのはベルギーリーグで活躍するGKシュミット・ダニエル選手、J1湘南のFW町野修斗選手ら4人。プレーする姿を見せない彼らも「戦力」であり、日本で観戦している私たちにはうかがい知れない役割がある。スポーツのチームとは、そういうものだ。
 サンテグジュペリの小説「星の王子さま」にこんな一節がある。「かんじんなことは、目では見えないんだ」(三田誠広訳)。日本代表にぴったりなフレーズと感じる。
 堂安律選手のシュートに度肝を抜かれ、三笘薫選手のドリブルに目を奪われた。吉田麻也選手の鼓舞には勇気をもらった。だが、勝敗を左右する「かんじんなこと」は私たちの目には見えない「結束力」ではないか。ドイツやベルギーが敗退した今、W杯はそれを競う場に思えてならない。

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