問われる所有者責任 法的手段、住民対応の鍵に【絶えぬ残土崩落 熱海の教訓から㊤】

 台風15号の記録的豪雨で住宅地の斜面が崩れ、その下にあった住宅3棟が損壊、3人がけがを負った浜松市天竜区緑恵台。家屋と住民を襲った土砂の正体は、閑静な住宅地の一画に長年積み上げられた無届けの盛り土だった。取材で浮かび上がったのは、土地所有者が崩落の危険性に無自覚なまま残土を搬入させてきた経緯。周辺住民による再三の訴えや行政の警告も、歯止めにならなかった。

崩落した残土は急斜面下の住宅を襲い、道路に押し出された人家もあった=9月、浜松市天竜区緑恵台(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
崩落した残土は急斜面下の住宅を襲い、道路に押し出された人家もあった=9月、浜松市天竜区緑恵台(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
残土崩落が発生する前の浜松市天竜区緑恵台の住宅地(グーグルアースから抜粋)
残土崩落が発生する前の浜松市天竜区緑恵台の住宅地(グーグルアースから抜粋)
崩落した残土は急斜面下の住宅を襲い、道路に押し出された人家もあった=9月、浜松市天竜区緑恵台(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
残土崩落が発生する前の浜松市天竜区緑恵台の住宅地(グーグルアースから抜粋)

 「残土を捨てる場合は地主までご連絡ください」―。2015年3月、住宅地に囲まれた空き地の入り口には奇妙な看板が掲げられていた。所有者は近くに住む高齢の女性。残土を投棄するダンプカーが周辺住民に頻繁に目撃されていた。近隣住民(81)は「中型のダンプカーを何台も見た。いつも土を捨ててそのまま帰っていった」と振り返る。
 看板には「ここは残土のみ埋立て可能です(産業廃棄物場ではありません)」との注意書きもあった。その半年ほど前、所有者は土砂に廃棄物が交じっているのを見つけた市職員から、不法投棄だと指摘されていた。しかし、この所有者は「草木の手入れに困り、03年ごろから(土砂の)埋め立てを頼んでいる。自分の土地に何を埋めようと問題はない」と弁解した。
 業者側も悪びれる様子はなく、廃棄物混じりの土砂を積んだトラックの運転手は「所有者から依頼を受けて埋め立てている」と市職員に説明していた。廃棄物は直後に撤去されたが、その後も土砂の搬入は続けられた。
 昨年末には事態を危惧した緑恵台の自治会幹部が天竜区役所に相談。健康上の理由で連絡が取れない所有者に代わり、別居する親族にも対応を促した。しかし、斜面に盛られた土砂は撤去されず、8カ月後に崩れた。積まれた土砂は8100立方メートルに膨れ上がっていた。
 静岡産業大の小泉祐一郎教授(公共政策学)は「そもそも所有者は自分の土地を適正に管理する民法上の責任を負っている。『自分の土地だから好きにしていい』という考え自体が通らない」と所有者が責任の重みを自覚すべきだと強調する。来年5月にも施行される盛り土規制法では造成時の所有者責任が明記された。「住民は始めから告訴などの法的手段に訴えることを検討すべき」とも指摘する。
 なぜ危険な斜面に残土を搬入させたのか。所有者の親族は本紙の取材に「勘弁してほしい。本人とは会っていない」と口を閉ざし、被害に遭った周辺住民にも説明していない。
       ◇ 
 静岡県内各地で残土の山の崩落が相次いだ台風15号から、まもなく2カ月。昨年7月に大惨事を招いた熱海市伊豆山の土石流の教訓は生かされたのか。再発防止に向けて何が必要か、背景を探った。

 ■伊豆山の悲劇 生かせるか 新法令で現場確認を義務付け
 熱海市伊豆山の大規模土石流の起点になった逢初(あいぞめ)川上流域は神奈川県小田原市の不動産管理会社が2006年9月に開発目的で取得。09~10年頃には残土処分場として使い、大量の残土を急斜面に搬入した。搬入業者は複数いて、土地所有者と別だった。上流域は11年2月、現在の所有者である事業家の男性に売却された。
 従来の法令に所有者の責任は明記されていなかったが、熱海土石流を機に制定された県盛り土規制条例は盛り土造成時に所有者の同意取得を求め、所有者に毎月の現場確認を義務付けた。来年施行される盛り土規制法も造成地を常時安全な状態に維持するよう所有者に要請し、土地の売買後も造成時の所有者の責任を問えるようにした。

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