大自在(11月15日)ティッピング・ポイント

 気候変動関連のニュースで「ティッピング・ポイント」という言葉を耳にした。「少しずつの変化が急激な変化に変わってしまう転換点」の意で、「人為起源の変化があるレベルを超えると、気候システムにしばしば不可逆性を伴うような大規模な変化が生じる可能性があることが指摘されている」。2020年版環境白書にそうあった。
 現在、国際的な温暖化対策の指針とされるのは15年末、気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定。産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える目的を掲げ、1・5度に抑える努力も記す。
 だが、2度未満でもグリーンランド氷床の融解などは限界点を超える可能性が高いと海外のチームは分析する。1・5度は努力ではなく、必達と考えた方がいい。
 先日公表された研究推計では、化石燃料に由来する世界の二酸化炭素排出量は今年、過去最多の375億トン。今のペースだとあと9年で1・5度は達成不可能になるという。
 国際社会の結束は危うい。エジプトで開かれたCOP27では発展途上国の被害支援を巡り、先進国との対立が鮮明化。ロシアによるウクライナ侵攻は協調への逆風というだけでなく、エネルギー危機を招いて石炭利用の増大が懸念されている。
 1997年12月、COP3で採択された京都議定書は温室効果ガス排出量の削減を先進国に義務付け、国際社会が危機に相対する一歩となった。あれから四半世紀。国際協調の進展に関して言えば、ティッピング・ポイントはいまだ彼方にあるようだ。

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