エコで経済的「量り売り」に注目 調味料やスパイス、洗剤も必要な分だけ 脱プラスチックにも

 必要な分量だけ商品を購入できる「量り売り」の店が注目されている。客が持参した袋や容器に商品を入れてもらうことで、ビニールやプラスチックのごみを出さず「ゼロ・ウェイスト」(ごみを出さない活動)につながる。環境に配慮し、消費者の財布にも優しいことから「エコで経済的」とじわり人気が広がっている。

常連客が持参した容器にスパイスを入れ、商品の特徴や使い方を伝える店主の伊藤美佳さん(左)=藤枝市藤枝のはかりうりtoi tou
常連客が持参した容器にスパイスを入れ、商品の特徴や使い方を伝える店主の伊藤美佳さん(左)=藤枝市藤枝のはかりうりtoi tou

買い物 おのずと能動的に
藤枝市 はかりうり toitou

 藤枝市の蓮華寺池公園南側の路地裏に立つ古民家をリノベーションした複合施設「nicica(ニシカ)」。1階の「はかりうりtoi tou(トイトウ)」(同市藤枝)は無添加調味料やオーガニック食材が店頭に並ぶ。スパイスや塩、しょうゆ、米、雑穀、豆、ドライフルーツ-。さらに1枚から買えるパンやグルテンフリーのパスタなど商品は食品だけでも約30種類。調味料は1グラム単位で購入できる。
 店主の伊藤美佳さん(50)はオーガニック商品を扱う全国展開のスーパーに約20年間勤務した。当時から、消費者が必要な分量をぴったり買えないことを残念に思っていたという。

photo03 フェアトレードのチョコレート、ナッツなどは欲しい分だけ商品を皿に取る

 例えば豆が100グラムだけ欲しいのに300グラム入りで包装された商品しか売っていない場合。「余った分が気付いたら消費期限切れだったという経験は誰にでもあるのでは」。一人の消費者として、量り売りの店があればいいと思い続けたことが開店につながった。
 「おいしい食べ方や使い方を店主に教えてもらい、少しずつ味を試せるのがうれしい」と話すのは、焼津市から訪れた小田麻紀葉さん(35)。5度目の来店というこの日は、クミンなどスパイス3種と栄醤油醸造(掛川市)のしょうゆを購入した。スパイス用にはタッパーを、しょうゆは一升瓶からじょうごで注ぎ入れてもらうため、自宅から細長い瓶を持参した。
 「量り売りの場面では、既製品を買う時よりも消費者が能動的になる。どんな容器が合うのか、量はどのくらいが適切かなど、自ら考え、選択する行為が自然に繰り返されている」と伊藤さん。
 今後はリンスやトリートメント不要で水の使用量を減らせる弱酸性のシャンプーなど、食品以外の品ぞろえも充実させる方針だ。

脱プラや自然派に共感
御殿場市 コスメキッチンビレッジ

  photo03 「容器は市販の使用済み洗剤容器やペットボトルなどでもよい」と話す加藤千帆店長=御殿場市深沢のコスメキッチンビレッジ御殿場プレミアム・アウトレット店  

 気に入った洗剤に詰め替え用レフィルがない場合、プラスチック容器を廃棄するのに罪悪感を覚える人は少なくないだろう。オーガニック化粧品・洗剤などを販売するコスメキッチン(本社・東京都)が展開する「コスメキッチンビレッジ」御殿場プレミアム・アウトレット店(御殿場市深沢)は、脱プラスチックを心がける消費者に訴求するため、精油由来のほのかな香りが特徴の洗剤を量り売りしている。
 商品はニュージーランドのブランド「エコストア」。オーガニック先進国である同国の「信頼度の高い調査で『サステナブルなブランド』に7年連続1位に選ばれている」と店長の加藤千帆さん(26)は説明する。二酸化炭素(CO2)排出量を削減した製造過程や動物実験の不実施など、環境に配慮した企業姿勢も評価されている。
 量り売りするのは洗濯用洗剤と柔軟剤、食器用洗剤で100ミリリットル単位で購入できる。顧客は若いファミリー層が中心で、富士山麓のキャンプ場帰りに寄る人も多いという。
 界面活性剤が植物由来で子どもの肌にも優しいことから「少しだけ買って試してみたい」との声が寄せられる。加藤さんは「オーガニック系の洗剤は高いと思われがちだが『エコストア』は価格が良心的。使い続けやすい」と力を込めた。

人と人を結び付ける
浜松市浜北区 The Tiny Seed

  photo03 客とのコミュニケーションを大切にしたいと話す店長の漆原由己さん=浜松市浜北区本沢合のThe Tiny Seed  

 浜松産食材に力を入れる量り売りの店もある。2001年に店名「すいーと・まむ」として開店した自然食カフェ「The Tiny Seed(ザ・タイニー・シード)」(浜松市浜北区本沢合)は、11年から店の一角で量り売りを実施している。
 「おいしくて安心・安全な農産物を育てる生産者を応援したい」と店主の漆原由己さん。地元産のオーガニック食材や調味料がカラフルなはかりと共に並ぶ。浜北産のバジル茶や大豆、黒豆のほか、国産のヒジキや昆布、姫リンゴなど「生産者の顔が見えるもの」を厳選する。量り売りを始めた原点は「子どもの頃、量り売りの店で楽しく店の人と話をしながら買い物をした記憶」と振り返る。
 ネットショップやセルフレジが浸透し、スーパーで誰とも会話せずに買い物が完結する時代。漆原さんは「手間がかかるけれど量り売りはコミュニケーションを生み、人と人を有機的に結び付ける。それを大切にした暮らしを提案したい」と語った。

 海外で定着、環境整備に期待

 量り売りの店が注目されている背景や今後について、県立大食品栄養科学部で食品ロスを研究する大槻尚子助教に話を聞いた。

photo03 大槻尚子 県立大学食品栄養科学部助教

 量り売りは食品ロス削減、脱プラスチックなどの点で環境に配慮した方法だと感じている。
 日本では高度経済成長や女性の社会進出に伴い、各家庭で食の在り方が変わった。冷蔵庫の普及などから昭和30年代半ばごろまでよく見られた量り売りは徐々に減ったが、海外では今も多くの商品が量り売りされている。衛生管理が徹底され、優れた個別包装での販売が当たり前の日本では、今後どこまで定着するかは未知数だ。
 環境問題に敏感な人だけでなく、興味のない人をいかに上手に引きつけられるか、いつでも量り売りを利用できる環境を整えられるかが定着の鍵になるだろう。

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