避難の数分後、一家を襲った大量の土砂 元川根本町長・杉山嘉英さん「九死に一生」震える声

 台風15号が本県に接近した24日未明、記録的豪雨により川根本町文沢地区で土石流が発生し、元川根本町長の杉山嘉英さん(68)宅を一瞬にしてのみ込んだ。発災から1週間経過した今なお、杉山さん一家は現場で泥まみれになりながら片付けに汗を流す。孤立集落となった同地区の杉山さんら5世帯13人は今後の大雨で二次災害も懸念されるため、1日から町営住宅などに一時避難する。

土砂にのまれたタンスや畳などのがれきが離れ2階部分を埋め尽くした=30日午後、川根本町文沢
土砂にのまれたタンスや畳などのがれきが離れ2階部分を埋め尽くした=30日午後、川根本町文沢
土砂に押しつぶされ、1階部分が全壊した離れ
土砂に押しつぶされ、1階部分が全壊した離れ
長男の文啓さん(右)と自宅に流れ込んだ泥をかき出す杉山嘉英さん
長男の文啓さん(右)と自宅に流れ込んだ泥をかき出す杉山嘉英さん
土砂にのまれたタンスや畳などのがれきが離れ2階部分を埋め尽くした=30日午後、川根本町文沢
土砂に押しつぶされ、1階部分が全壊した離れ
長男の文啓さん(右)と自宅に流れ込んだ泥をかき出す杉山嘉英さん

 「九死に一生を得た」
 杉山さんは声を震わせながら発災当時を振り返った。24日は杉山さんのほか、妻勤子さん(65)、母芳子さん(97)、長女夏実さん(31)が在宅。強まる雨脚を心配して寝付けずにいた勤子さんと夏実さんが午前1時過ぎに、裏山から寝室に黒い水が流れ込んでいるのに気付いた。杉山さんらは離れにすぐさま移動し、離れの1階で寝ていた芳子さんを連れて4人で2階に避難した。
 その数分後、「ドォーン」というごう音とともに、大量の泥水が離れの2階を襲った。幸い4人は無事だったが離れの1階部分は土砂でつぶれ、建物全体は10メートルほど移動していた。「早めに異変に気付いていなかったら、母の命はなかった」
 夜が明けると、自宅1階のほとんどが泥で埋まり、離れの2階は土砂にのまれたタンスや障子などが散乱。道路は土砂崩れや倒木が相次ぎ、アクセスが寸断され、停電と断水が発生した。
 発災から3日目には町から第一陣の支援物資が届いた。「行政と常に連絡を取り合いながら過ごせていたので心細くはなかった」と杉山さん。
 発災直後から県内外に住む家族が駆け付けて連日、ぬかるんだ家屋で泥のかき出し作業を続けた。泥の中から貴重品を探すのに丸2日ほど費やした。30日に給水が始まるまで、水が十分に確保できない状況での片付け作業は一苦労だった。
 1日から地区の住民と一緒に町営住宅に一時避難する。長男文啓さん(35)は「家族が安全な場所に避難できるのは安心」と話す一方、「片付け作業が今後どのように進むのか心配な面もある」と不安を打ち明けた。

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