大自在(9月27日)民主主義

 2018年に亡くなった絵本作家かこさとしさんのデビュー作「だむのおじさんたち」(1959年)は、佐久間ダムの建設現場が物語の下敷きになっている。4日まで東京・渋谷で開かれた回顧展で知った。
 「だるまちゃんとてんぐちゃん」「からすのパンやさん」など数々の人気シリーズで知られるかこさんは、600以上の作品を残した。愛らしいキャラクターが活躍する童話だけではない。東西の歴史や民話、科学、社会など扱ったテーマは幅広い。情報の正確さもまた、この作家の矜持[きょうじ]である。
 83年の「こどものとうひょう おとなのせんきょ」では、町の児童広場の使い方を巡り、子どもたちが紛糾する。野球をやりたい。サッカーだ。いや、鬼ごっこだ。じゃあ、投票で決めよう-。
 ところが、小学6年生のトキあんちゃんがこんなことを言い出す。「かずがおおかったら、なんでもやっていいなんて、いったい、だれがきめたんだ」
 民主主義の仕組みを伝えるこの本の後書きで、かこさんは「数の論理」ばかりが幅を利かせる世の中を憂えた。「狭い利害や自己中心になりやすい多数派」が、少数派の知恵を省みることの大切さを説いた。「『民主主義の真随』をとりもどしたいという願いでかいたものです」と言い切る。
 今日、安倍晋三元首相の国葬。閣議決定は、多数派の自己中心に陥っていなかったか。銃撃事件の震撼[しんかん]の中、利害が先走ってはいなかったか。岸田文雄首相の「民主主義を断固として守り抜く」との言葉が宙に浮く。国会での検証を忘れてはならない。

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