侵攻前の貧村「息吹」鮮明に ウクライナ出身写真家が来日個展
ウクライナ・マリウポリ生まれで現在はドイツ・ベルリンを拠点に活動する写真家ビクトリア・ソロチンスキーさんが、旧知のキュレーターで映画監督の渡辺真也さん(沼津市出身)の招きで来日。東京・渋谷でチャリティー展覧会「生命[いのち]を夢見て:ウクライナと共に」を開いている。首都キーウ近郊の貧村を捉えたシリーズは図らずも「失われた風景」の記録となってしまった。「ロシア軍の侵攻は、ウクライナの文化を破壊している」と訴える。
世界23カ国で展覧会を開いている。日本での個展は2017年に京都で開かれた「Anna&Eve」展以来。自身の内部を戯画的に映し出すポートレートでも知られるが、今回展ではドキュメンタリータッチの「Lands of No-Return(帰らざる国)」が強いインパクトをもたらす。
「子供の頃、キーウ近郊の村に祖父母が住んでいて、自分には明るく美しい記憶があった。でも久しぶりに訪れたら、貧しい村には高齢者しか住んでいない。消えてしまいそうな印象だった。最後に残されている者を記録するのが使命だという気持ちになった」
05年から現地に通い、09年から18年までの写真を作品としてまとめた。すすけた壁の民家、古ぼけた家具や調理器具、使い古された食器-。こちらを見据える高齢者たちの顔や手には、人生の刻印たる深いしわが目立つ。だが、ベッドカバーや衣服は青や赤が映え、一つ一つの写真は鮮明で親密な印象を残す。貧しさよりも、そこに生きる者たちの息吹が強く伝わる。
「写っている方々は、何世代も前からの文化を受け継いでいる。土地に根付いて生きてきた高齢者の美しさを、私が手を加えずに、言葉を抜きにして語ることに意味がある。人間同士のつながりを表現したかった」
ことし2月のロシアの侵攻ではキーウ近郊も戦場となった。
「残念なことだが、この作品は必要以上に歴史的な意味を持つようになってしまった。撮影した村々は、(侵攻で)大きな影響を受けている。爆撃で破壊されたところもある。もともと手厚い公的保護を受けていた場所ではないが、いまはもっと状況が悪くなった。とても悲しい」
故郷で戦闘が続く。
「ウクライナとロシアは兄弟のような国と感じていただけに、ショックで壊滅的な気持ちになっている。気持ちを表す言葉を正しく選ぶことができない。『悲しい』すら適切とは思えない」
ウクライナの人々の団結に思いを寄せる。
「ロシアの人たちはウクライナの食べ物、歌、文化の全てが好きなはず。それを壊してしまっている。一方でウクライナの人たちは力を合わせることにたけている。こうした傾向は、悲惨な状況下で一層強まっている」
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個展は29日まで、東京都渋谷区の「ギャラリーTOM」で。