市町の決断(下)富士宮市 独自の検査場 いち早く【新型コロナ 検証第1波】

 「開設手続きを急いでほしい」。3月26日、富士宮市の須藤秀忠市長は保健所を持たない自治体で前例のなかった独自のPCR検査場設置を職員に指示した。新型コロナウイルスの感染が大都市で広まっていたが、県内の感染者は3人、市内ではまだ一人も出ていない段階だった。
 なぜいち早く判断できたのか-。市長は「集団感染のあったクルーズ船に市民が乗っていたと分かり、当事者意識があった」と明かす。スペイン風邪やペストなど未知のウイルスと同様の危機感を持ち、高校生の交流派遣を予定していた中国・紹興市から現地情報の収集に努めた。
 市長が検査場開設を指示した前日、市は市医師会、県富士保健所の幹部らを集めた会合を開催した。鉄治保健所長が医師会主体で検体採取を行えないか相談すると、永松清明医師会長は応諾し「救急医療センターが適地では」と提案。具体的な議論が進んだ。市福祉企画課の稲垣康次課長は「市内に感染者が出るのは時間の問題だった」と振り返る。
 PCR検査で最も懸念されるのが検体採取時の感染。予防策としてドライブスルー方式も視野に入れながら、よりリスクの低いウオークスルー方式導入を模索し、ボックス型検査装置の確保を急いだ。ウオークスルー方式導入を実現させたことで検査には医師会所属の医師41人の参加が決まった。PCR検査場開設の動きはその後、富士宮市の事例をモデルに県内各地に広がった。
 ウイルス検査の体制拡充では存在感を見せた須藤市長だったが、富士山5合目につながる県道の閉鎖を巡っては方針転換を繰り返した。弾丸登山やし尿処理の懸念から閉鎖するよう当初は周辺2市町とともに県に要望したが、自身だけ開通を求める立場に転換し、再び閉鎖方針に着地した。市トップが招いた曲折は地元関係者を困惑させた一方、「市民の声に応えようとした結果」と理解を示す声も上がった。
 新型コロナの感染拡大は、経済や教育を含めあらゆる日常生活に大きな影響を及ぼし、自治体の首長は政治判断を繰り返した。須藤市長は「決断後に軌道修正していい案件とそうでない案件がある。情勢に合わせた柔軟な判断こそ大切にしていきたい」と語った。

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