市町の決断(上)御殿場市 休業要請、補償 迷いなく【新型コロナ 検証第1波】

 新型コロナウイルスの感染拡大は静岡県内の自治体に未知の対応を迫った。市町のトップは何を優先し、行動したのか。内幕を追った。
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 「決断から発表までは数日だった」-。新型コロナウイルスの感染拡大で政府の緊急事態宣言が発令された翌日の4月8日。御殿場市は「3密」が指摘されたバーやナイトクラブに補償を伴う休業要請を行うと発表した。全国初として一躍注目された試みを打ち出した若林洋平市長が舞台裏を明かす。
 都心から約100キロ、アウトレットモールがあり、高速道などを使って多くの人が訪れる同市。市長として問題意識を持ち始めたきっかけは「北海道の動きだった」という。3月中旬、道が独自の緊急事態宣言を終了すると、街ににぎわいが戻る様子がテレビに映った。
 「まずい」。人々が行き交う御殿場市内の様子を見て危機感を強めた。同じころ、既に感染が拡大していた首都圏から市内の繁華街に人が流入する懸念も浮上していた。地元の店舗経営者らに、感染防止に懸ける市の姿勢を示す必要がある-。それが独自の休業要請だった。
 財源は残高約9億7千万円の財政調整基金を充てると決めた。「緊急時のための貯金。今使わずしてどうする」と迷いはなかった。補償額は上限100万円とするなど制度が固まったのは発表前日。一部議員に概要を伝え、臨時記者会見でこう発信した。「御殿場は避難地ではありません」
 県内では伊東市や西伊豆町などが御殿場市の動きに追随。対象業種を段階的に拡充するなど柔軟さを見せた自治体もあった。
 一方で対応を巡り批判されたのは川勝平太知事だった。4月17日、法律を根拠とした休業要請の権限を行使せず、救済措置を講じる市町に財政支援すると表明。県内の感染状況について「今のところ安全」との認識も示し、たちまちネット上に「理解できない」「責任放棄」などの書き込みが相次いだ。
 結局、市町長の“直談判”を受けて22日に県としても休業要請すると方針転換。知事は「県と市町の二段構えで事業者を支援する仕組みができた」と強調したが、ある市長は「後手後手感は否めなかった」と振り返る。
 危機状況下となった4月、県民は国や県、居住市町がいつ、どんな対策を打ち出すか注視した。別の首長は当時を「政治にスピード感とリーダーシップを求めていた」と表現。その上でこう指摘した。「少なくとも『何もしない』という選択肢はなかった」

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