【ボカロPは「やる気があれば誰でもなれる!?」】 薬剤師が本業のボカロP・TakoyakiKZYさんに訊く創作のリアル

    静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回はボカロPのTakoyakiKZYさんを題材に。
    (文・写真/経営戦略室・天野大輔)


    2026年5月中旬、SBSラジオで月~木曜の午後1時から生放送されているワイド番組『ゴゴボラケ』に、ボカロPのTakoyakiKZY(タコヤキカズヤ)さんがスタジオ生出演しました。「ボカロP」とは、初音ミクなどに代表される音声合成ソフト(※)を用いて楽曲を制作し、動画共有サイトに投稿する音楽クリエイター(プロデューサー)のことです。

    自身で歌唱するアーティストに比べ、ボカロPがメディアに顔出しして表舞台に登場するケースは決して多くありません。ライブや即売会などのイベント以外でその姿を見る機会は限定的であり、SBSラジオのスタジオにボカロPが生出演するのも、極めて珍しい例となりました。

    ※「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標ですが、現在は音声合成ソフト全般の代名詞としても広く使われています

    ボカロPの登竜門ともされる「ボカコレ」

    ボカコレ2026冬のキービジュアル


    TakoyakiKZYさんは、今年2月に動画共有サイト「ニコニコ動画」上で開催された、各種音声合成ソフトやキャラクターを軸としたインターネット上の創作の祭典「The VOCALOID Collection ~2026 Winter~(ボカコレ2026冬)」に参加。総投稿数が6400曲を超える中、楽曲『赤血球』が、ボカコレのメイン部門である「TOP100部門(投稿数2000曲超)」で73位にランクインしました。年2回開催されるボカロPの登竜門とも言われるこの祭典において、毎回上位に名を連ねる、実力派ボカロPです。

    実はSBSは、2025年から「ボカコレ」のメディアパートナーを3回務めており、今回の『赤血球』は「SBS賞」の受賞曲でもあります。そんな縁もあり、番組ではパーソナリティーの山田門努さんを聞き手に、知られざるボカロPの実態についてTakoyakiKZYさんに迫りました。

    社会人からボカロPに


    TakoyakiKZYさんがプロフィール等で使用しているアイコン


    <TakoyakiKZYさん>
    中学生ぐらいから曲を作っています。バンドの日本のロックとかを聴いて、自分でギターを弾いて曲を作るっていうのを、ずっとやっていました。2021年、社会人になったタイミングでボカロPになりました。昔からボカロPになりたかったんですけど、いろいろと機材をちゃんと揃えてから始めたいなと思っていて、社会人になって給料が入った段階で、機材を買って始めたって感じです。

    ボカロPになるきっかけや動機は人それぞれです。TakoyakiKZYさんは、もともとバンド活動をしていましたが、社会人になったことを機にボカロPとしての活動を始めたといいます。

    趣味の一環としてマイペースに楽しむ人がいる一方で、ボカロPとしての活躍をきっかけにプロのミュージシャンへステップアップするケースも近年は珍しくありません。かつて「ハチ」名義でボカロPとして活躍した米津玄師さんのように自身でシンガー・ソングライターになる例をはじめ、自身では歌わずに歌い手とユニットを組んだり、さまざまなアーティストへ楽曲提供を行ったりと、その活躍の幅は多岐にわたります。

    楽器ができないボカロPも?


    ボカロPをスタジオに迎えた放送中のスタジオ


    <TakoyakiKZYさん>
    ギターは中学校からやっています。ベースとかドラムもちょこっとだけできるんですけど、でも、周りのボカロPには、楽器が全然できない方もいます。「こんな音にしたいな」っていうので打ち込んでいく。パソコン内で良い曲を作っている方もいるので、楽器ができなくても大丈夫かなと。誰でもなれると思いますね。やる気があれば。

    TakoyakiKZYさんが語るように、ボカロPになるきっかけや制作スタイルは人によってさまざまです。バンド活動を経てボカロの世界に入るプレイヤー気質の人もいれば、楽器演奏を介さず、パソコン上での「打ち込み」だけで名曲を生み出すクリエイターもいます。

    「自分が歌わない(歌えない)からボカロに歌わせる」という選択が楽曲制作のハードルを下げたのはもちろん、近年は技術の進歩により、メロディーや伴奏の制作ハードルもさらに下がっています。中にはスマートフォンアプリだけで全工程を完結させるボカロPもいるほどです。その一方、すでにプロのミュージシャンとして第一線で活動しながら、ボカロPとしての顔も持つクリエイターも広く知られており、その門戸はかつてないほど多様に広がっています。

    薬剤師ならではの視点から生まれた楽曲

    ボカコレ2026冬SBS賞受賞曲『赤血球』

    <TakoyakiKZYさん>
    本職は薬剤師です。音楽をするならお金は必要になってくるかなと思って、安定してそうな薬剤師を選んだ感じですね。薬剤師の仕事は、自分的にはまだそこまで大変じゃないなって思っていて、残業もそこまでないんですよ。家に帰ったら寝るまで作業。好きなことなので、全然苦ではないですね。

    プロのコンポーザーやアーティストとして活躍するボカロPがいる一方で、実際にはTakoyakiKZYさんように本職を別に持っているクリエイターが大半を占めると言われています。中には社会に出る前の学生や高校生というケースも珍しくありません。

    多くのクリエイターが自身の職業を明かさない中、TakoyakiKZYさんはSNSなどで薬剤師であることを公表しています。先述のボカコレTOP100ランクイン曲『赤血球』は、まさに人体や医療に関わる薬剤師だからこそ生み出せた1曲と言えるでしょう。このように、多様なバックグラウンドを持つ人々がそれぞれの視点で楽曲を投稿していることも、現代のボカロ文化の大きな魅力です。

    楽曲だけでなく動画を手掛けるボカロPも


    TakoyakiKZYさんはほとんどの楽曲でMVも自ら手掛ける(「ボカコレ2025夏」投稿曲)


    <TakoyakiKZYさん>
    今、手が込んだミュージックビデオが多いです。今回は自分で描いてるんですけど、“1枚絵”っていうほぼ動きのないミュージックビデオで、あんまり注目されないのかなって思っていたんですが、こうやってピックアップしていただけて、とてもありがたいと思っています。普通はミュージックビデオを撮影してもらってとかあると思うんですが、僕は大体、全部の曲は自分でやっています。今回だったら“絵”ですが、アニメーションも描いたりして。動画も実写の動画を撮影したりもしています。

    ボカロの世界では、楽曲だけを自身で作り、演奏やイラスト、動画制作は他のクリエイターに依頼・コラボして一つの作品を完成させるケースが一般的です。誰にどんな依頼をして作品をプロデュースするかは、まさに「ボカロP(プロデューサー)」としての腕の見せ所と言えます。

    一方、イラストや動画まで全てを一人でこなすマルチクリエイターも少なくありません。TakoyakiKZYさんも、デビュー時からほとんどの楽曲でそのスタイルを続けています。米津玄師さんも「ハチ」名義の時代、多くの楽曲でミュージックビデオを自身で手掛け、初期はマウスで手書きしたイラストが話題でした。

    ボカロPと薬剤師を両立していきたい


    記念撮影する山田門努さん(左)とTakoyakiKZYさん(右)


    本業である薬剤師としての知見をも音楽に昇華させ、作詞作曲から動画制作までを一人で完結させるTakoyakiKZYさん。一見すると対極にある「医療」と「クリエイティブ」を軽やかに両立させるその姿は、インターネット時代の新しいアーティストのあり方を体現しているようでした。

    最後に「今後もボカロPと薬剤師を両立しつつ、色々な曲を出してもっともっと有名になっていきたい」と笑顔で語ってくれたTakoyakiKZYさん。インターネットを通じて世界へと響く彼のメロディーに、これからも注目が集まりそうです。
     

    静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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