対談出席者:(左から)静岡県健康福祉部健康増進課 松島明子課長、アクサ生命保険静岡支社 大森賢二支社長、全国健康保険協会(協会けんぽ)静岡支部 安田剛支部長、浜松市ウエルネス推進事業本部 里見陽祐副本部長
厳しい経営環境の中、健康経営が課題解決の手段に
ー健康経営への関心が年々高まっていますが、その背景や取り組みの意義についてどのようにお考えですか。大森支社長:健康経営は、従業員の健康を経営的観点から推進し、その成果を企業の持続的成長につなげていく考え方です。関心の高まりの背景には、生産年齢人口の減少、従業員の高齢化、深刻な人手不足、国民医療費の増加といった社会課題があります。
さらに近年では、求職者が企業の健康配慮を重視する傾向も顕著です。そうした中、企業は組織力強化や定着率向上、生産性向上などさまざまな課題を抱えていますが、健康経営はこうした課題解決の有効な手段と考えています。
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松島課長:企業側には労働生産性の向上のほか、事故防止、休業損失の軽減といったさまざまなメリットが見込めます。従業員にとっても、若いうちから健康意識を獲得することが将来の健康長寿につながることが期待でき、双方にとって意義深い取り組みです。
里見副本部長:特に中小企業においては、人手不足がますます深刻化しており、従業員の健康意識の高まりも経営に大きな影響を与えています。企業の持続的発展には「働く人に選ばれ、長く働いてもらえる企業」になることが不可欠です。
昨年度の市の調査では、健康経営は生産性向上や離職率低下に加え、継続して取り組むほど従業員のコミュニケーションの活発化や組織風土の醸成につながることが分かっています。
安田支部長:協会けんぽが県と進めている健康宣言に取り組む事業所は年々増え、現在静岡支部で7610事業所が宣言を行っています。これは県内の協会けんぽの加入事業所のうち10%超にあたり、全国第2位の高水準です。地域全体で企業の健康経営を支える仕組みができている結果だと受け止めています。今後は加入者数が10人未満の小規模事業所への普及が課題と考えています。
アドバイザー配置、健康宣言や褒賞制度、補助金など支援策多様に
ー健康経営に取り組む企業に対し、具体的にどのような支援を行っていますか。大森支社長:静岡県内に約130名の「健康経営アドバイザー」を配置し、健康経営の啓発から優良法人取得まで伴走型支援を行っています。健康習慣に関する従業員アンケートを活用し、企業ごとの課題を可視化した上で、具体的な取り組みを提案しています。県内で今年3月に優良法人の認定を受けた882社のうち161社をサポートし、そのうち58社は初めて認定を取得した企業です。
松島課長:協会けんぽと連携して企業の健康宣言事業を推進し、「ふじのくに健康づくり推進事業所」の認定証を交付しています。また、保健師や健康運動指導士の無料派遣、模範企業への知事褒賞でモチベーション向上を図っています。働き盛り世代の健康増進のため、企業の社員食堂への「しずおか健幸惣菜」の普及にも努めています。

里見副本部長:浜松市は、中小企業の健康経営に関する新規の取り組み経費を補助率2分の1、最大50万円補助する「健康経営促進事業費補助金」や、専門職を派遣する「職場で健康講座」を実施しています。そのほか、健康経営セミナーの開催や、支援ノウハウを持つ企業と課題を抱える企業をマッチングする仕組みの提供など、幅広い支援メニューを用意しています。
安田支部長:健康宣言事業所に対して、健診データの結果を分析した「事業所カルテ」を用意し、目標設定を支援しています。メンタルヘルスや運動セミナーを実施し、喫煙対策ではオンラインプログラムの費用補助を行っています。今年度は受動喫煙に注目したセミナーも実施予定です。禁煙はなかなかハードルが高いですが、地道に取り組んでいきたい事業でもあります。
アンケート活用で課題を可視化、手が届きやすい目標からステップアップを
ー導入時に「何から始めていいか分からない」「経費がなく担当者を置けない」という声をよく聞きます。こうした課題を乗り越え、取り組みを継続していく秘訣を教えてください。大森支社長:先ほど紹介した従業員向け健康習慣アンケートを活用することで、負担が少なく従業員の健康課題を可視化し、目標設定することが可能です。全国平均との比較で自社の立ち位置を把握できるため、動機づけにもつながります。定着には、経営者が健康経営は「幸せな人生を送る手段」であることを伝え続けることが重要です。4月からは、弊社が東京大学と開発した、働きがいなどを数値化する「ウェルビーイングスコア」もアンケート分析に導入し、効果の可視化に役立てています。
松島課長:まずは健康宣言時に提供されるチェックシートを活用し、健診の受診状況など簡単な項目から現状を把握してみるといいと思います。県のホームページで紹介している好事例も参考になります。ふじのくに健康づくり推進事業所宣言は、認定区分がステップアップする仕組みですので、更新のタイミングで取り組みを振り返りつつ、成果を実感してほしいと思います。
里見副本部長:情報をどこで得たらいいか悩まれる場合は「浜松ウエルネス推進協議会健康経営部会」に参画してはいかがでしょうか。市から定期的な情報提供があるほか、企業同士の横のつながりを作ることも可能です。また市からの支援としては、経費に対する補助金、公共調達での優遇措置などもあります。始めた取り組みを定着させるためには、施策を粘り強くアップデートし、結果を経営方針と結びつけた「ストーリー」として発信することが重要だと考えています。

安田支部長:「何から始めていいか分からない」という企業向けに、今年度から、健診結果が治療につながっていない未治療者の対策として、専門的なフォローを行う事業を開始します。健康経営の取り組みを長続きさせるには、従業員の家族も巻き込んで成果を共有することが大事です。「休暇が取りやすくなった」など生活に直結する成果は、家族も実感しやすい。経営者自身が高い意識を持ち、率先して社内を引っ張っていくことも大切です。
企業選びの指標として浸透、全社一丸で成果、食への関心高く
ー最後に、最近の健康経営の取り組みの傾向や顕著な成果、成功している企業の特徴を教えてください。大森支社長:成果としては、優良法人の認定を取得した企業で「求人の応募数が増えた」という声をよく聞きます。健康経営が、仕事を求める人にとって企業選びの重要な指標として浸透し、人手不足の解消に直結しているという実感があります。
松島課長:成功している企業は、経営層だけでなく現場の社員も健康経営の趣旨や内容を理解し、全社的に一丸となって取り組んでいます。自分ごととして意識することで、施策がしっかり浸透し、実効性を伴っていくのだと思います。
里見副本部長:昨年度の市の調査では、従業員の状況把握や仕事と育児・介護の両立支援に取り組む企業において、離職率が低下する傾向が見られました。健康経営の取り組みが「会社が従業員を大切にしている」というメッセージとして伝わることで、従業員も会社を大切にするようになり、人材定着につながると考えられます。
安田支部長:従業員の食生活に関心を持って健康支援を行う企業が増加していると感じます。また、成功する企業は「全社員禁煙」のような実現のハードルが高い目標ではなく、「全員が健診を受ける」といった手の届く目標から始めています。少しずつステップアップしていく姿勢が、成功の秘訣ではないでしょうか。

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