​【ZINE「生存報告誌BEACON vol.4」】 「RIOT」の作者塚田ゆうたさんが対談に登場。アイジとシャンハイの物語が重なる

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は奥付記載が2025年12月6日発行のZINE「生存報告誌BEACON」第4号を題材に。静岡県出身の石垣慧さん編集。

2年ぶり発行の第4号は「SO FAR SO GOOD」がテーマ。編集担当の石垣さんの後記によると、この間に「心身の不調」や生活拠点の移動があったようだ。「生存報告誌」という副題に切実さが漂う。

話が飛ぶが、ことし6月7日に静岡市葵区のひばりBOOKSで開かれた「小さなローカル出版社フェア」のトークイベントが頭に浮かんだ。BEACON第4号の印刷場所としてクレジットされている「本屋・生活綴方」(横浜市)を運営する中岡祐介代表が出演した。

その日は「ひとり出版社」やZINEがテーマで、中岡さんは自社に備えた理想科学工業の印刷機「リソグラフ」の仕上がりの美しさに何度か言及していた。特に印象的だったのが「ショッキングピンクの発色がいい」という話。BEACON第4号を開いてそのことを思い出した。あちこちにショッキングピンクが使われている。実に美しい。

「SO FAR SO GOOD」は、記事をいろいろ読んだ上でざっくり言えば「最近、どう?」ということだ。石垣さん自身は、2024年に地震と豪雨に見舞われた能登半島で会った若い建築家2人と再会している。音楽家の井手健介さんはインタビューで新しい作品や、自身がADHDだったことが分かったことについて語っている。服飾制作をなりわいとする太田啓介さんはカメラやオペラ「蝶々夫人」に傾倒していて、東京・世田谷の書店兼喫茶店「common house」の店主2人はオープンしたばかりの店のあれこれに忙しい。

筆者はこの人たちのことを知らないけれど、ページをめくるにつれて、なんだかずっと前から存じ上げているような気がしてきた。きちんとしたつくりのZINEを読んでいるとよくあることだ。

「おっ」と目を引く記事の書き手プロフィルを見ると、なぜだか静岡の人が多い。古着屋「SCOBY」店主の山梨CODYさんの「アメリカ脱線紀行」は米国横断の顛末記。若き日と現在を対比させている。個人的に好きだったのが立花実咲さんの「ラトビア日記」。バルト三国の一角で就学した2年間についてつづっているが、とても色彩的に感じられた。

目を引いたのは先日第3巻が発売された漫画「RIOT」作者の塚田ゆうたさんと石垣さんの対談である。塚田さんも静岡県出身。そもそもBEACONは2020年8月にお二人が出会ったことで生まれたものだという。

RIOTは静岡県内の田舎町で高校生がZINEをつくる話だ。塚田さんは「自分が今まで体験して感じてきたことが表れている感じもあって」と言うにとどめていて断言してはいないけれど、どうしても「BEACON体験」がRIOTを生み出したように思えてくる。

二人が語る初期のBEACON制作時のエピソードが、RIOTのアイジとシャンハイに重なって見えた。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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