このコラムでは、SBSラジオ「鉄崎幹人のWASABI」と連動し、T活を通してユニークな定年後を謳歌している方々を紹介します。諸先輩方の生き方を知り、定年後の夢を膨らませてみませんか?

SBSラジオ「鉄崎幹人のWASABI」に生出演
山田真才さんの「自由な農的生活」
第5回のラジオインタビューではT活を実践されている静岡市にお住まいの山田真才さん(69歳)にお話を伺いました。山田さんは元々静岡市役所の職員として勤め上げられ、60歳で退職された後、ご両親から受け継いだ農地で無農薬栽培の農業を始められました。現在は、年金と農業で生計を立てていらっしゃいます。延長雇用という選択肢もあった中、あえて全く異なる農業の世界へと足を踏み入れたのは農業が「一人でできる」ことだから。「怒られない」「指示されない」「いがみ合わない」「嫌なことはやらなければ良い」「ノルマは自分が決める」という、組織に属していた時には得られなかった自由がほしかったと山田さんは語ります。

静岡市葵区竜南にある畑で
栽培規模は約50アール(5反)の農地で、お米(白米と黒米)を30アール、野菜を20アール栽培されています。年間で約40種類の野菜と6種類の果物、合わせて約50種類もの作物を無農薬で育てています。ナス、キュウリ、トマト、ピーマン、オクラなどの夏野菜や、ブルーベリーなども手掛けています。しかし口で言うほど簡単ではない無農薬栽培。山田さんも様々な課題に直面し、工夫を凝らしてきました。
一つは雑草との戦い。 除草剤を使わないため、雑草との戦いは避けられません。雑草は花が咲く前に刈り取らなければ、種がこぼれて増えるだけでなく、本体の野菜が日陰になり、光合成ができずうまく育たないという問題が生じます。
病害虫に対しては、手で虫を取る作業も行いますが、主な対策は肥料の見直しです。肥料が多すぎると虫が寄ってくるため、特に葉物野菜では窒素成分の少ない肥料に変え、全体の肥料量も約半分に減らしました。また、相性の良い作物を組み合わせて植える「コンパニオンプランツ」(例:トマトとバジル)を導入することで、虫を寄せ付けにくくし、病気にもなりにくい環境を作っています。
また近年の猛暑も大きな課題です。トマトが日焼けしてしまったり、30度を超える環境では種を蒔いても芽が出ないことがあります。これに対しては、作付け時期をずらしたり、日陰を利用して温度が低い場所で作物を育てるなどの工夫を試行錯誤しています。

酷暑と雑草の中で力強く育つ野菜たち
畑の真ん中で直接販売=「顔の見える農業」で生まれる喜び
山田さんの農業は、大量生産による経済的利益を追求するものではありません。年金があるため、「イージーで楽な農業」を目指し、栽培作物も生産量も自分で決められる自由があります。できた野菜は、当初は自宅で無人販売をしていましたが「どうせならお喋りしながら売りたい」という思いから、今では畑の真ん中で直接お客様と対話しながら販売しています。生産現場を見てもらい、生産者の顔が見えることでお客様は安心して購入でき、山田さん自身もおしゃべりが好きなので、栽培の「うんちく」を語りながら販売を楽しんでいます。

月・水・土曜の朝9:30〜12:00ころまで無農薬野菜を販売
すると山田さんの畑には、無農薬栽培に興味を持つ人々が集まるようになりました。大学で植物学を研究する教授も常連客になり、自らも作ってみたいという声に応え、今では畑の一部を「農業体験」の場として提供しています。現在約10組が参加しており、山田さんが作り方を教え、資材も全て用意するため、軍手一つで気軽に体験できます。
自分で作った野菜や果物を食べる喜びはひとしおで、輪が広がっているんだそうです。
経済的利益を超えた「ウェルビーイング」
山田さんが何よりも強調するのは、農業がもたらす精神的な豊かさです。組織に属していた頃のように怒られたり、指示されたりすることがなく、相手は自然だけ。自分の努力が形となって実ることから、「自分の努力は裏切らない」と感じており、これはまさに経済的な利益を超えた「ウェルビーイング」の実現だと言えるでしょう。「日本の食料自給率が下がっている不安定な時代だからこそ、プランターでも何でも良いので、自分の食料の一部は自分で作ってみてほしい、ちょっとした隙間時間でも食べ物は作れますよ!」
思い描いていた 定年後の生活が現実に
サラリーマンから農業に転身した現在の生活について、山田さんは「憧れていた生活が現実になった」と表現しています。残りの人生をいかに自由に楽しく生きるかという意味で、農業は素晴らしい選択肢だと感じています。肉体的にも精神的にも自由になった山田さん。定年とは、終わりではなく、新たな自由と喜びを見つける始まりなのかもしれません。