【富士の山ビエンナーレ2024】 取り壊されつつある建物そのものをキャンバスに

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は12月8日まで(第1会場。第2会場は22日まで)富士市内各所で開かれている「富士の山ビエンナーレ2024」を題材に。
2014年にスタートした「富士の山ビエンナーレ」は5回目の開催。今回は「記録と記憶 そして物語へ」をテーマに掲げ、現代アーティスト12人が参加した。
JR富士駅北口再開発事業に伴って解体予定のビル群を第1会場、これまでも開催していた静岡市の旧蒲原エリアを第2会場とする。三角形の敷地に高度経済成長期に建設されたビルの中に設置された、第1会場の作品を巡った。

個人的に同ビエンナーレのキーマンの一人として認識している大輪龍志さん。2018年は富士市内の雑居ビル屋上に「龍」を思わせる竹製の壮麗なうねりを創り出し、2020年は東海道筋の大テントの中に細密な「森」を出現させた。今回は廃業したバーを使ったインスタレーション「追憶のキャバレー」。酒瓶を配したカウンターにスツールが4脚。そのうち一つが少しずれているのがいい。こけと落葉の香りが漂う中、誰か知らない人の「良き夢」の中に入り込んだような気持ちになった。

菅隆紀さんの「Hogan#5」は、本人のキャプションをそのまま引用するがまさに「取り壊されつつある建物そのものをキャンバス」とした、生と死の対比を強烈に感じさせる作品。アメリカ合衆国先住民のコミュニティーでの制作活動経験を背景に、彼らの伝統家屋「ホーガン」に由来する「絵」を描いた。壁や床、天井からあらゆるものが剥ぎ取られた一室に、忽然と「美」が現れるスリリングさ。

原倫太郎さんの「マリンバピンポン」。体験型の作品に取り組む原さんは、卓球の台にピンポン球が落ちる際の音に、多大な興味を引かれたようだ。長さが異なる板材を組み合わせた卓球台は、落ちる場所によって音の高さが異なる。まるで楽器を演奏しているようだ。

吉野祥太郎さんはかつての「クラブ」の空間をそのまま作品化した。ミラーシートを敷いたエリアに、ふんわりした布をつるし、来場者の動きに応じて光が変化する。ふんわりと揺れる布を見つめていると、かつてこの場所にいた男女の嬌声が聞こえてくるような気がするから不思議だ。いかにも人工的な香りが残っているのもいい。(は)

<DATA>
■富士の山ビエンナーレ2024 
第1会場
場所:JR富士駅北口解体予定ビル群
会期:11月23日(土)~12月8日(日)
時間:午前10時~午後4時
観覧料:無料

第2会場
小休本陣常盤邸
富士川民俗資料館
光福山 新豊院※11月25日から公開制作
会期:11月2日(土)~12月22日(日)土日祝のみ
時間:午前10時~午後4時
観覧料:無料

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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