その地域を表す言葉「方言」。静岡県の方言は大まかに西部・中部・東部、そして、旧井川村、いまの静岡市葵区の井川地区の4つに分類できるといわれています。
その貴重な方言を残すため、言語学者が「井川方言」で語る紙芝居を作りました。
ダム湖が見える、南アルプスの麓の静岡市の井川地区です。
紙芝居にしたのは「三十人力」と言われる井川の英雄「てしゃまんく」の逸話です。

<静岡理工科大学情報学部 谷口ジョイ教授>
「崖からつっとんだ」
言語学者の谷口ジョイ教授が手がけました。この紙芝居の狙いは「井川方言」の特徴をできるだけ盛り込んで、子どもたちに伝えることです。
谷口教授が井川で長く暮らす人に聞き取りをして、セリフを書き上げました。
<井川に暮らす夫妻>
「落っこいたじゃなくて、つっとんだ。つっとんだだよ」

<遠藤弘子さん>
「ぱしらざーって言う。行こうってことを」
<野路毅彦アナウンサー>
「レッツゴーは『ぱしらざー』ですか?」
<静岡理工科大学情報学部 谷口ジョイ教授>
「ハヒフヘホで始まる主に動詞がパピプペポになる」
谷口教授が「方言の先生」と呼ぶ、遠藤弘子さん。井川の昔ながらの言い方を、聞けばその場で教えてくれる存在です。
<遠藤弘子さん>
「普通に使ってるんだよ。使ってるんだけどね。『今日は忙しくて行けのうもんで』」
「のう」は奈良時代に広く使われていた否定の言い方。これが井川には、現代まで残されてきたのです。

この日は全校児童3人の静岡市立井川小中学校で、遠藤さんが読み聞かせをしました。
<遠藤弘子さん>
「てしゃまんくさん、ありがとうさん!さ、急いで家へぱしらざー!みんな待ってるでな。大井川にかかった橋が落ちてしまった。向こうへ行きたくても、行けのうもんで困ったなあ」
<野路毅彦アナウンサー>
「家へ『ぱしらざー』はどんな意味?」
<小学3年生>
「家へ帰れない」
惜しい!正しくは「家へ行こう。帰ろう」です。
<小学2年生>
「はさんだ時にわざと『ぱさむ』って言う」
<野路毅彦アナウンサー>
「誰が言うの?」
<小学2年生>
「私が」
井川独特の言葉を、子どもたちがすべて理解しているわけではありませんが、地元の方言に関心を持っていることがよく分かりました。

しかし、谷口教授の共同研究者で静岡市の人口の動きも専門分野の山岸祐己准教授は「いまの井川地区の人口が300人台。このまま何も策がなければ、2050年には人口は半分ほどになり、若い人がいなくなってしまう懸念がある」と指摘します。
井川の方言が残るかどうか以前に、人口が減り続けている井川の集落そのものの将来がどうなるのか、心配なデータです。
こども園での読み聞かせは、谷口教授が担当します。井川地区で唯一のこども園に通うのは年長の子どもわずか1人です。

この日は、地域の人と交流する日で、赤ちゃんを連れたお母さんが2人来ていました。2人は静岡県外や海外から移住してきた人です。
<金原みつみさん>
「地域おこし協力隊で、東京から移住してきました」
<インドから移住>
「夫は(井川の)温泉で働いている。井川はプリティエリア」

<静岡理工科大学情報学部 谷口ジョイ教授>
「他所から来た人も井川の言葉や文化に興味を持ってくれてうれしい。赤ちゃんに期待しかない。井川のネイティブスピーカーになれる」
井川方言の紙芝居は50セット印刷され、静岡市内の図書館やオクシズの小学校に配られる予定です。WEBで見られるようにする計画もあります。