愛する我が家へ「戻る」「戻らない」被災者それぞれの決断【熱海土石流災害3年】
2021年、災害関連死を含め28人が犠牲になった静岡県熱海市伊豆山地区の土石流災害から3年。少しずつ変わりゆく被災地と「復興を継続させよう」という住民の変わらぬ思いがあります。一方で、被災地には、復興が遅れている現状もあります。
進捗状況を数字で振り返ります。伊豆山の復旧復興事業をめぐっては、地区を流れる逢初川の拡幅工事を静岡県が道路整備を熱海市が手掛けることになっています。
しかし、工事に必要な用地の買収率は、静岡県が58%、熱海市が75%にとどまっていて、整備完了は、「2026年度末まで」と当初予定より2年遅れる見込みです。復興後の街の姿が見通せないと、被災地に戻ることをためらう住民も多く、避難した132世帯227人のうち、元の場所で生活を再建したのは、現時点で、わずか22世帯47人となっています。
では、「戻る」「戻らない」それぞれの選択をした人たちは、今何を思うのか。
田中公一さんは自宅が流され、妻・路子さんを亡くしました。
<田中公一さん>
「毎朝、水とご飯と。自分が食べるご飯の一部を供えて生活してます」
自宅があった場所は、立ち入り禁止だった「警戒区域」にあったため、数百メートル離れた場所に建て直しました。
<田中公一さん>
「気分的に全然違うよね。やっぱり向こうはもう完全なる仮住まい。そういう感覚でいて、いや、今度はここからいろんな生活をしなきゃいけねえって」
自宅のあった場所は、新しい道路と河川の工事の対象ですが、3年経ったいまも、残された土地は手つかずのままです。
<田中公一さん>
「結局、風化していくんだろうなとは思っているけど」
それでも、田中さんは前を向いています。
<田中公一さん>「(義援金など)声援をくれた人たちに元気で頑張ってるよという所が見せれればいいなと思って」
一方、帰還できた住民もいます。小松昭一さん92歳です。自宅は被災地にありましたが、2023年9月の警戒区域解除とライフラインが整備されたことで、ようやく自宅に戻ることができました。
自宅には戻れたものの、妻の藤子さんは軽い認知症と診断され、昭一さんも肺の病気で入院していました。
<小松昭一さん>
「向こう(違う場所)に行って、家を求めて住んだとしたって、何年も住めないですよね。どうしてもここに残る。残るからには楽しく行こう、という気持ちで帰ってきたんですけれども、体がついてこない」
伊豆山は再生しているのか…、「警戒区域未来の会」の中島秀人さんは、被災者の立場から熱海市に対して地域再生のための要望や提案を続けてきました。
復興の遅れにもどかしさを感じながらも中島さんは伊豆山の再生を信じています。
<中島秀人さん>
「少しずつ少しずつ復興していくしか、今の伊豆山のこの環境では(それしか)ないのかもしれない。とにかく道さえ早くできればいいのかなと。そうしたらみんな帰って来れる環境が整うのかなと思う」
<LIVEしずおか 滝澤悠希キャスター>
さまざまな判断がありましたが、元の場所に戻る選択をした、小松昭一さんにお話を伺います。なかなか住民が戻らないという現状があります。近所の様子を見て、今どんなことを感じていますか。
<小松昭一さん>
9月1日に警戒区域が解除されて、9月に帰ってきた人は2軒だけ。その後はだんだん帰ってきている組の中で7軒が帰ってきています。ただ、帰ってきたけれども、みなさんと顔を合わせる機会というのはまったくないですね。
それで、ほとんど会話がない。会話するのがこの3軒だけというような状態でまったく寂しいです。それと同時に、岸谷地区内で災害に遭って、その後どのくらいの人が帰ってきているのか、それもまったく情報が伝わってきませんから、どのくらいの人がいるのかというのがわからないという状況ですね。
<LIVEしずおか 滝澤悠希キャスター>
コミュニティーがなかなか再生していないということですよね。そうした中でも小松さんはあえて、伊豆山に戻ることを選択されました。それだけ伊豆山を愛しているということだと思います。この伊豆山が今後どうなってほしいという思いがあるでしょうか。
<小松昭一さん>
伊豆山は見た通りの状況ですから、復興が全然進んでいないという状況ですね。それと同時に、災害に遭った人がどのくらいの人が帰ってくるのか全く見当がつかない。聞くところによると、半分は帰ってくるだろうと言っていますけれども、おそらくそんなには帰ってこないだろう。それが本当に寂しいですね。1日も早く皆さんと一緒に元の生活ができるようになればいいなというような思いですね。
<LIVEしずおか 滝澤悠希キャスター>
改めて伊豆山に戻られたのは、それだけ伊豆山を愛しているということなんでしょうか。
<小松昭一さん>
お墓もあるしね。小さい時から一緒に凧揚げたり、コマ回したりして遊びましたね。亡くなった人もいますけれども、そういった人がみんなが再会できて関わって、一緒に生活できればいいなという想いですね。
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