1923年、ドームに星空を映す光学式プラネタリウムが誕生
今年はドーム型の天井に星空を投影する光学式プラネタリウムの誕生から100年の節目。10月21日は、1923年にドイツで初公開されてちょうど100年の記念日です。
静岡新聞社が発行する子ども向け新聞「yomoっと静岡」で星や宇宙に関する連載を執筆するディスカバリーパーク焼津天文科学館職員の松永歩さんが、プラネタリウム誕生の地ドイツなどを休暇で訪問。現地の様子のほか、10月21日、同29日に同館で開かれる特別イベントについてもご紹介します。
スケールの大きさがケタ違い! ドイツ博物館の展示
みなさん、こんにちは。
私は焼津市にあるディスカバリーパーク焼津天文科学館でプラネタリウムや天文台などを主に担当し、プラネタリウムで上映するオリジナル番組の制作なども行っています。
このほど休暇を使い、プラネタリウム誕生の地ドイツと、オランダを訪ねてきました。
20世紀初頭のドイツ、新しい科学館(現在のドイツ博物館)を準備していたオスカー・フォン・ミラーは、宇宙の見せ方に苦慮していました。そこで製作を依頼したのが、レンズなどで知られる光学メーカー「カール・ツァイス社」です。
そして1923年10月21日、ミュンヘンでお披露目されたのが光学式プラネタリウム「ツァイスⅠ型」です。
地上に星空を作り出す近代的プラネタリウムの発明は、ツァイス社がある町の名称から「イエナの驚異」と呼ばれました。
世界で初めての光学式プラネタリウム「ツァイスⅠ型」
2024年5月まで特別展を開催
ドイツ博物館では現在、歴代の投影機器が見られる特別展「プラネタリウムの100年」を2024年5月まで開催しています。
こちらは世界トップクラスの規模を誇る科学とテクノロジーの博物館。本物の飛行機が並んでいたり、楽器紹介コーナーではパイプオルガンの演奏があったりと、スケールが桁違いに大きくて驚きました。
ドイツのミュンヘンにあるドイツ博物館は、科学技術の博物館として世界でトップクラスを誇る。
会場には10メートルのドームがあり、最新のプラネタリウムも体験できます。レストランやカフェを利用しながら、丸一日ゆっくりとさまざまな展示を見ることができます。
直径10メートルのドーム型の仮設プラネタリウム。写真右側に歴代のプラネタリウムが並ぶ。
ドームの中にあるのが最新の光学式プラネタリウム「アステリオン」。アステリオンとは「輝く星」を意味する。
9月に世界遺産に認定!世界で初めてプラネタリウムと名付けられた施設
ドイツ・イエナの「ツァイスⅠ型」の誕生より140年も前の1781年、「プラネタリウム」と名づけられた巨大な施設がオランダ北部・フラネケル市に完成しました。
それが「王立アイゼ・アイジンガー・プラネタリウム」です。機械式のプラネタリウムで、2023年9月19日にユネスコの「世界遺産」に認定されました。
右の建物正面に「PLANETARIUM」と書かれている。「PLANET(惑星)」と「RIUM(何かを体験する場所)」を合わせた造語。
人々を迷信や恐怖から救った美しい「プラネタリウム」
1744年生まれのオランダ人、アイゼ・アイジンガーは腕利きの羊毛職人で、天文学は独学で学んで身に付けたアマチュア天文家でした。
1774年、当時30歳だった彼は、朝焼けの空に4つの惑星と月が並ぶ珍しい天文現象を「不吉の前触れ」として恐れる市民を見て、天文に関する正しい知識を伝えたいと一念発起。自宅の天井を大改造し、宇宙の姿を見せる装置を世界で初めて作るという偉業を成し遂げました。
太陽、水星、金星、地球、火星、木星、土星の6惑星と月の動きを忠実に再現した装置を彼は「プラネタリウム」と名付けました。
このプラネタリウムが素晴らしいのは、精密さと美しさが共存していること。アイジンガーは、美しくなければ誰も見に来てくれないだろうと考えたそうです。
自宅の天井にアイジンガ−が作り上げた「宇宙」。 金色の太陽を中心に、惑星が正確に回る仕組み。
計器の表示も芸術的な美しさ
天井裏は上がることができ、6000本以上のくぎを使った複雑な「からくり」を見学できます。たった一つの振り子を動力に、240年以上経った今も現役で動き続けていることに驚きます。
科学的価値のみならず、美術的価値も高く、建設後まもなく国有化されました。王立の施設として広く一般市民に公開されています。
天井裏の複雑な仕組み。6000本以上の釘を使って正確に惑星の動きを再現している。
見学後は併設のカフェで一杯。
進化し続けるプラネタリウム
1980年代になると、コンピュータから送られるデータをプロジェクターでドームに映し出す「デジタル式」のプラネタリウムが誕生しました。実は、私が勤めている「ディスカバリーパーク焼津天文科学館」は1997年、「光学式」と「デジタル式」を共に制御して映し出す「世界初の統合型プラネタリウム」としてオープンしました。
現在は全国の多くのプラネタリウムがこの「統合型」を採用しています。
統合型は、星空の映像だけでなく、デジタル技術を駆使したさまざまな自然科学や歴史などに関する映像コンテンツも映し出すことができるのがメリットです。
当館では11月26日(日)まで、プラネタリウムの歴史と発展、そして未来を紹介する番組「進化するプラネタリウム」を投影中です。
100年の節目にぜひ多くの皆さんにご覧いただければうれしいです。
スペシャルライブ配信「みんなで見上げよう!100年前の星空」。ハイライトは全国一斉投影「100年前のミュンヘンの星空」
10月21日(土)は、日本プラネタリウム協議会が企画した「スペシャルライブ配信 みんなで見上げよう!100年前の星空」が開かれます。全国のプラネタリウムをオンラインで繋ぐものです。当館は18:00~19:50(途中休憩あり)と少し長いイベントとなりますが、前述した「進化するプラネタリウム」投影に加え、オンラインイベントにも参加します。ハイライトは、全国一斉に行われる「100年前のミュンヘンの星空」の解説です。
詳細はホームページをご覧ください。
10月29日、リニューアル前に感謝を込めて「今日は一日生解説まつり」開催!

ディスカバリーパーク焼津天文科学館のプラネタリウム
100周年記念イヤーの今年、当館は現行のプラネタリウム「ジェミニスターⅢ」から新しい機器に刷新するリニューアル工事を行います。現行機器での最終投影日となる10月29日(日)、投影スタッフからプラネタリウムに感謝と愛を込めて特別イベント「今日は一日生解説まつり」を開催します。
4人の解説員がそれぞれイチ推しの番組を選び、5種類の生解説番組を投影します。
解説員それぞれの星空紹介の違いや個性を、ぜひお楽しみください!
特別イベント「今日は一日生解説まつり」
(ディスカバリーパーク焼津天文科学館 松永 歩)