【多頭飼育崩壊】無責任に飼う→進む厳罰化。ペットと共に生きる道を考える

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今日のテーマは「多頭飼育崩壊」。先生役は静岡新聞ニュースセンター専任部長の市川雄一です。
※SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」で放送したものを編集しています。

(市川)6月20日に静岡新聞が独自ニュースとして報じたんですが、6月7日に、沼津市の80代の女性の住宅の前に縦横30センチ奥行き50センチの犬用ゲージが捨てられていました。住民の方が覗いてみると、中に衰弱した17匹の猫がいたと。子猫が15匹で、大人の猫2匹。尻尾が捕食されてる猫もいた、つまり中で共食いが始まっていた可能性もあり、その後4匹の猫が死んでしまったという話です。

(山田)見つけた方もびっくりされたでしょうね。

(市川)投棄された猫を保護した動物保護団体の方が言うには、「多頭飼育崩壊」ではないかと。多頭飼育崩壊とは、動物の適切な避妊や去勢手術をせずに繁殖がどんどん行われて、飼い主が飼育できないぐらい動物が増えてしまうような状態のことを言うんですね。

これに対し国も動いていて、2019年には環境省が研究会を発足して、2021年に自治体向けにガイドラインも公表している。
2021年5月には、富士市で多頭飼育崩壊の大きな事件がありました。女性が85匹の犬を飼っていましたが、飼っていたとは言えないような状態で、糞尿が垂れ流されていて、中では動物もおそらくご飯も食べられなくなっていた。このとき、動物愛護法に基づき女性は逮捕されているんですよ。

動物愛護法は昭和48年(1973年)にできた議員立法の法律ですが、基本的には全ての人が動物は命あるものってことを認識して、みだりに動物を虐待することがないように、人間と動物がともに生きていく社会を目指すというような形で定めています。動物に対する殺傷や虐待に対して、罰則まで与える法律です。法改正もされていて、最近でいうと令和元年(2019年)に改正され、動物を殺したときに懲役が上限2年だったのが5年になり、罰金刑も200万円から500万円に上がり、虐待に対しても100万円の罰金だけだったものが1年以下の懲役刑も加わるぐらい、罰則を強化してるんです。

(山田)動物愛護法って厳しくなってきてるんですね。

(市川)飼い主の方が経済的に困窮して避妊去勢手術を行えなかったり、健康上の理由でなかなか散歩に連れて行けなくなったりすることが多頭飼育の要因になります。あとは地域との関わりを絶って孤立化してしまう家が最近増えていて、人を寄せ付けなくなってくると、みんなの目が行き届かなくて多頭飼育になってしまいます。

(山田)本人も周囲に相談できないってことなんですね。

(市川)富士市のケースのように警察が動いて事件化されるのは氷山の一角で、多くの場合、行政や保健所が注意に行っても、なかなか聞き入れてもらえなかったりする。動物愛護法があったとしても、多頭飼育のような問題はその辺にごろごろ転がっているっていうのが現状だという話も聞きます。

(山田)本人に聞いたりすると意外と「私はかわいがってるの」っていう方もいらっしゃるんですよね。

想像力が共存に向けた第一歩


(市川)実は犬猫のニュースでは朗報もありまして。6月8日の静岡新聞に掲載された記事ですが、昨年度県内で殺処分された犬猫の数が、過去最少になったということです。犬は1匹だけ、猫は101匹でした。

(山田)それでも猫は101匹殺処分されちゃってるってことですか。

(市川)2015年には、1年間で猫は2000匹近くが殺処分されていたんです。それに比べるとだいぶ減ってきているというデータではあります。

(山田)僕はこれぐらい殺処分されてるってことも知らずにきましたよ。

(市川)減ってはいますが、それでもまだゼロではない。ボランティア団体の方らが、保護した犬猫の譲渡会なんかを開いていますね。先週SBSテレビの特集を見たんですが、その譲渡会には400人以上の人が来ていた。捨てられて行き場のない犬猫を新たに飼うっていう飼い主のマッチングみたいなことが行われていて、「いい取り組みだな、素晴らしいな」と思ったんですね。

(山田)猫や犬を飼う人たちもそういう考え方になってきているんですね。

(市川)ただ、こういう動物の悲惨なニュースを聞くとかわいそうだな、と思うと同時にちょっとモヤモヤする気持ちが出てきてしまいます。

森達也さんという有名なドキュメンタリー作家の「いのちの食べかた」っていう本がありまして。これは子供に語りかけるように全編が書かれているんですよね。私たちが日常食べている牛や豚がどのような過程を経て食卓に並んでいるのかをかなり克明に書いている本なんです。スーパーで売っている綺麗にパッキングされたお肉や、外食店で出される牛丼とかトンカツみたいなものを食べるときに、命を食べているっていうことを忘れがちになってしまうと思うんですが、この本は豚をどのように処分してお肉にしていくか、牛はどういうふうにしているかということを詳しく書いている。森さんは、「命を食べている」ってことだけでなく、「私たちは物事を知らなきゃいけないよ」っていうことをずっと訴えてくるんです。

僕らがやっていることというのはこういうことを伴ってるんだということを常に知らないと、思考停止になって、いろんな差別や、究極的に言えば戦争まで結びついてしまう。だから「まずは知ろうよ」っていうことをこの本で訴えている。僕は、猫が17匹悲惨な目に遭っているという話を聞くと「かわいそうだな」と思う一方で、「いろんなことをもうちょっと想像して考えなきゃいけないな」っていうことをこの本で学びました。

(山田)避けたりして考えない方が当然楽じゃないですか。でもそれだと、あらゆる方向に思考停止になって、こうした事件の悲惨さや裏側もわからなくなるわけですよね。

(市川)ペットショップにいるかわいい猫や犬っていうのはどういうルートでここに並んでいるのか。そういった想像力は大事で、人と動物が共存する社会に向けた一歩なのかなと思うんですよね。

(山田)市川さんが紹介した「いのちの食べかた」という本は番組Twitterの方にも載せてくれましたので、チェックしてみてください。命の重さっていうのをわれわれは考えて生きていかなきゃいけないです。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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