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全国一厳しい? 盛り土条例制定へ

 熱海市で7月に発生した大規模土石流を受け、静岡県は、被害を拡大させたとされる盛り土に関して新条例を作る方針を明らかにしました。罰則に地方自治法の上限となる「2年以下の懲役」を設けるなど従来より規制を厳しくする予定です。熱海のような災害が二度と起きないような実効性のある対策となるのか、注目が集まっています。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・尾原崇也〉

規制権限は県に統一 市町には移譲せず

 熱海市伊豆山の大規模土石流で被害を拡大させたとされる盛り土の規制強化に向けて、静岡県は16日、静岡市葵区で市町や県の出先機関の担当者を集めた非公開の会合を開き、制定を目指す新たな県条例案の概要を説明した。県によると、市町側から規制対象の面積を小さくするように求める要望が出たが、県条例案の概要に関しては大筋で理解を得られたという。

静岡県の担当者から新条例案の説明を聴く市町担当者=静岡市葵区
静岡県の担当者から新条例案の説明を聴く市町担当者=静岡市葵区
 静岡県は新条例案で、許可が必要になる盛り土の規模について、現行の条例と同じ「面積千平方メートル以上または土量2千立方メートル以上」を対象にする方針を明らかにした。これに対し単独の条例で面積500平方メートルを対象とする富士山麓の市町から「県条例の対象面積を市町の条例に合わせられないか」などの意見が相次いだという。
 県土地対策課によると、県の新条例案は市町条例と異なり、土壌汚染の環境基準を盛り込み、造成業者に負担が掛かるため、面積は千平方メートルが妥当だと判断しているという。
 市町への権限移譲は行わず、県が行政手続きに対応するとした新条例案の内容には、市町側から異論は出なかった。ただ、届け出の有無にかかわらず市町が把握している対象相応の盛り土が県に引き継がれるように要請する声があったという。
 会合を終えた上原啓克土地対策課長は取材に、11月中に新条例案に対するパブリックコメント(県民意見の募集)を開始する意向を示した上で「現場での市町との協力体制構築は大きな課題になる」と答え、運用面の改善も同時に進める必要性を指摘した。
 〈2021.11.17 あなたの静岡新聞〉

造成業者だけでなく土地所有者の責任も明記

 熱海市伊豆山の大規模土石流で被害を拡大させたとされる盛り土の規制強化を巡り、県の上原啓克土地対策課長は8日(※10月8日)の県議会建設委員会で、新たに制定を目指す条例で土地所有者の義務を定める方針を明らかにした。土地所有者に不適切な盛り土を造成させない監視の役割を課すのが狙い。定期的な施工状況の確認と、許可内容と異なる施工を確認した場合の県への報告などを義務化する。

盛り土の規制を強化する新条例案の主な内容
盛り土の規制を強化する新条例案の主な内容

 現行の県土採取等規制条例には土地所有者の義務が明示されていない。新条例案では、許可申請する業者に土地所有者の同意書の提出を求め、土地所有者に義務付ける事項を確認させる。上原課長は「(施工業者に)土地を貸す土地所有者にも責任を持って盛り土を監視してもらう」と趣旨を説明した。
 県によると、新条例案では、業者が不適切な工法で盛り土を造成し、県による工事中止や撤去の命令に従わない場合、土地所有者に命令を出して是正させることも盛り込む。土地所有者も命令に従わない場合は土地所有者を含めて罰則を科す内容とする方針。
 これまでの県などへの取材によると、熱海市伊豆山の土石流で起点になった盛り土は、前の土地所有者だった神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)が届け出の3倍を超える高さに造成したとみられ、土地はその後の2011年2月、現在の土地所有者に売却された。土地所有者の変更で、責任の所在が曖昧になったとする見方もある。
 県は同委員会で、一定規模以上の盛り土を許可制にする▽技術基準を定める▽地方自治法で認められる最も重い罰則にする―など新条例案の主な内容を示し、来年7月の施行を目指すと説明した。
 〈2021.10.9 あなたの静岡新聞〉

国の残土規制 法整備なく 「県条例では限界」の声も

 「残土処分場」―。熱海市伊豆山で7月、死者26人、行方不明者1人の大惨事をもたらした大規模土石流。その起点で崩落した盛り土は県の内部で、こう呼ばれていた。

不適切な工法の盛り土が崩落し、土石流が発生した熱海市伊豆山の逢初川流域=9月末(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
不適切な工法の盛り土が崩落し、土石流が発生した熱海市伊豆山の逢初川流域=9月末(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 残土とは工事に伴い発生する土砂。土石流起点の谷には10年ほど前、別の場所から残土が運び込まれ、盛り土が不適切な工法で造成された。盛り土を規制する法令は県土採取等規制条例。権限のある市が造成を止めようと業者を再三指導したが従わなかった。
 残土には全国統一の法規制がなく、残土置き場の崩落事故は以前から全国各地で相次いでいた。国土交通省の資料によると、2001年から14年までに14件発生し、09年には広島県で土砂が民家に流入し1人が死亡している。
 同省が03年にまとめた行動計画には条例の限界を踏まえた「法的対応の検討」が明記された。残土問題に詳しい桜美林大の藤倉まなみ教授(環境学)は「2000年代には法整備の議論があった」と指摘するが、その後、国会審議で取り上げられ、自治体から要望が寄せられても国は動かなかった。その背景を複数の自治体関係者は「残土を法規制すれば処分費用の高騰で元請けの業者に影響が及ぶ。国は業者に配慮しているのではないか」と推し量る。
 熱海市の斉藤栄市長は18日(※10月18日)の記者会見で「投棄を直接的に規制する法律はなく、規制の弱いエリアに悪徳業者が流れる」と強調。20日に開かれた関東地方知事会議でも「土砂は県境を越えて運ばれるので条例には限界がある」という意見が出て、法整備を求める声は高まっている。
 残土の不適正な投棄に対応する富士市の担当者は、法整備の中身が重要だとし「発注者を含めて関係者全員に責任を負わせる仕組みを」と求める。別の市の担当者は、行政が業者の放置した残土の撤去を代行すれば億単位の費用が必要だとし「業者から回収できなければ税金を使う。処理費用を抑えたい市外の土砂発生者のつけは市民に回る」と明かす。
 国は熱海市の土石流発生後、ようやく盛り土の総点検を全自治体に要請し、有識者会議も設置したが、これまでに法整備のタイミングは何度もあった。ある自治体関係者は憤る。「大惨事が起きるまで国は動かない。その不作為のしわ寄せは住民と自治体がかぶる」
 〈2021.10.26 あなたの静岡新聞 衆院選連載企画「争点を問う」① 熱海土石流で規制不備露呈 残土野放し国の不作為〉
地域再生大賞