知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

競歩「銀」池田 マネジャー兼務から急成長

 東京五輪陸上男子20キロ競歩で池田向希選手(23)=浜松日体高出身=が、同種目で日本勢初となる銀メダルを獲得しました。強豪の東洋大にマネジャー兼務で入部した池田選手。同じ実業団所属の川野将虎選手(22)=御殿場南高出身=とともに練習を重ね、五輪が延期された期間も生かして一気に飛躍しました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・尾原崇也〉
 ※6日午前に行われた陸上男子50キロ競歩で、川野選手は3時間51分56秒で日本勢最高の6位でした。

競技7年目 努力結実 池田「コーチ、家族に恩返しするんだ」 残り1キロ、力振り絞ぼり

 競歩を始めて7年目。ついに己の殻を破った。札幌大通公園で5日に行われた東京五輪陸上男子20キロ競歩の決勝。初出場で銀メダルを獲得した池田向希(23)=旭化成、浜松日体高出=からようやく笑顔が見えた。「メダルという形を残せて素直にうれしい」。何度負けても、悔しい思いをしても、ひたむきな姿勢で乗り越えてきた。その努力が結実した。

男子20キロ競歩 2位となった池田向希=5日午後、札幌市の大通公園付近
男子20キロ競歩 2位となった池田向希=5日午後、札幌市の大通公園付近
 残り1キロ、今まで支えてくれた全ての人の顔が頭に浮かんだ。「どんなに苦しい時も一緒に戦ってくれた酒井瑞穂コーチ、応援してくれた家族に恩返しするんだ」。最後の力を振り絞り、雄たけびを上げてゴールした。
 競歩を始めたのは高校2年の時。専門だった長距離種目で成績が伸び悩んでいた。「何かのヒントになるかもしれない」と試しに競歩で大会に出場したことがきっかけだった。
 3年時は全国総体5000メートル競歩で5位。東洋大時代は2年時に2018年の世界チーム競歩で優勝するなど世界一の称号を手にした。「練習すればするほど成績が上がる。純粋に楽しい」。競歩を愛する気持ちが、飛躍の原動力でもある。
 日本競歩界初の五輪金メダルには惜しくも届かなかったが、池田には心強い仲間がいる。大学、社会人の同期で6日に男子50キロ競歩に出場する同郷の川野将虎(22)=旭化成、御殿場南高出=だ。「川野が自分を超えてくれると信じている。最後は2人で笑って終わりたい」。思いをライバルに託した。
〈2021.8.6 あなたの静岡新聞〉 ⇒元記事

目標の世界王者山西に勝利 徹底した熱中症対策も奏功

 ついに世界王者との勝負に勝った。陸上男子20キロ競歩の池田向希(旭化成、浜松日体高出)は、2019年ドーハ世界選手権金メダリストの山西利和(愛知製鋼、静岡西豊田小出)の仕掛けを見逃さなかった。

男子20キロ競歩で2位となった池田向希(右)と3位の山西利和=5日午後、札幌市
男子20キロ競歩で2位となった池田向希(右)と3位の山西利和=5日午後、札幌市
  残り3キロ。山西がペースを上げた。「ここで付かなかったら勝ち目はない」。7人で形成していた先頭集団からは4人が脱落したが、池田は山西の後ろにぴたりと付いた。表情や息づかいを確認しながら歩型の乱れに注意し、好機をうかがった。
  残り2キロを過ぎて山西が遅れ、池田は後ろを振り向いた。「まだ仕掛けてくる。順位は確実なものにしたい」。世界選手権や日本選手権で負け続けてきた。その悔しさと経験を糧に、ただ前を目指して歩を進めた。
  コロナ禍の1年間は課題だった暑熱対策も徹底してきた。レース中は帽子の中に氷を入れ、手首にも保冷剤を巻いて冷却した。最も暑いと警戒するウオーミングアップ中も、クーラーベストを着用して体温の上昇を防いだ。「自信を持って対応できたことが大きかった」とうなずいた。
  東洋大にはマネジャー兼務で入部。そこから飛躍を遂げ、世界の表彰台に上り詰めた。「自分一人ではこの結果は出せなかった」。支えてくれた全ての人に感謝を込めて、ゴール後は深々と頭を下げた。
 〈2021.8.6 静岡新聞朝刊〉

マネジャー兼務で入部の東洋大で急成長 練習の虫 戦略準備も徹底

 東京五輪の陸上男子20キロ競歩決勝が5日に札幌大通公園で行われる。池田向希(23)=旭化成、浜松日体高出=の前に大きく立ちはだかるのは、2019年世界選手権覇者の山西利和(愛知製鋼)だ。世界選手権や20、21年日本選手権はいずれも苦杯をなめた。「山西さんにどうすれば追いつけるかが一つの指標」。好敵手に照準を合わせ、メダル獲得を見据える。

東京五輪でメダル獲得を見据える池田向希=7月下旬、北海道千歳市内(日本陸上競技連盟提供)
東京五輪でメダル獲得を見据える池田向希=7月下旬、北海道千歳市内(日本陸上競技連盟提供)
 負けん気の強さは誰にも負けない。競歩を始める前、浜松積志中時代は長距離種目が専門だった。予選敗退など結果が出ないことが多かったが、ひたすら練習に励んだ努力家。時には熱中症になるほど追い込んだ。
 強気なレース展開が武器だが、決して準備を怠らない。「競歩はレース結果が最後の最後まで分からない」。言葉通り、トップでゴールしても警告を3回受けると失格になるのが競歩。「がむしゃらに歩くだけでは勝てない」と勝つための戦略を常に練っている。レース当日の天候をはじめ、他選手の記録や長所などあらゆる要素を頭に入れて試合に臨んできた。
 マネジャー兼務で入部した東洋大で飛躍を遂げ、いよいよ大舞台に立つ。競歩種目で五輪金メダルを手にした日本人選手はまだいない。最も近い存在と注目される山西に勝たなければ、世界の頂点は見えない。「日本の競歩は世界レベル。メダル争いに加わりたい」。世界王者に挑む覚悟はできている。
〈2021.8.3 あなたの静岡新聞〉 ⇒元記事

川野とは高校時代から高め合うライバル 今春東洋大を卒業、そろって旭化成入り 

 男子競歩で切磋琢磨(せっさたくま)してきた2人が今春そろって旭化成入りし、開幕まで100日を切った東京五輪へ、ともに歩む。表彰台を期待される50キロ代表の川野将虎(御殿場南高出)と20キロ代表の池田向希(浜松日体高出)。母校の東洋大を拠点に川野はスピード、池田はスタミナの強化を一緒の練習で図る。「いい部分を吸収し合えるような取り組みをしていきたい」(池田)と思い描く。

2020年9月、日本学生対校選手権男子1万メートル競歩で優勝した池田向希(左)と3位だった川野将虎=デンカビッグスワンスタジアム
2020年9月、日本学生対校選手権男子1万メートル競歩で優勝した池田向希(左)と3位だった川野将虎=デンカビッグスワンスタジアム
  抜きつ抜かれつ、高め合ってきた。県内の異なる高校に通った時代は川野が全国の舞台で活躍。実績の乏しかった池田は大学へマネジャー兼務で進んだが、誰より早く起きて体を動かすなどひた向きに努力を積み重ね、2018年の世界競歩チーム選手権で優勝した。
  立場を逆転された川野は「完全に取り残されてしまった」と気落ちもしたが、酒井瑞穂コーチに「成長スピードが違う」と励まされて立ち直り、最後までぶれないフォームづくりに着手。筋量は4年間で5キロほど増加したという。「今度は自分が」と19年10月に五輪切符を先に手にし、日本記録も更新してみせた。
  新型コロナウイルス禍の自粛期間には、そろってヨガを始めて柔軟性やバランスを整え、昨夏には五輪が実施されるはずの日時に、札幌と気候の似た福島県猪苗代町で“仮想五輪”を実施。暑熱対策の課題をしっかり持ち帰った。大学の寮では同部屋で、同じ企業を選んだ2人を「本当にいい関係」と池田は照れずに語る。五輪での活躍は酒井コーチらへの「恩返し」と口をそろえた。
 〈2021.4.15 静岡新聞朝刊〉 
地域再生大賞