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静岡特産クラウンメロン 「里帰り」で世界進出また一歩前進

 静岡県が全国に誇る特産品のひとつに挙げられる温室メロン。栽培されている品種名の「アールスフェボリット」とは「伯爵のお気に入り」という意味で、この伯爵は19世紀後半、英国のラドナー伯爵ことをいいます。今春、英国・ロンドンの高級百貨店「ハロッズ」でクラウンメロンの本格的な販売が始まりました。約100年前に起源となる品種の種が静岡に伝わったことから考えれば、いわば「里帰り」です。クラウンメロンは、2015年から本格的に海外展開を始め、世界に羽ばたこうとしています。その動きをまとめました。

“古里”英国で本格販売開始 高級百貨店で1玉3万円、バイヤー「王室にも」

 静岡県特産の「クラウンメロン」。大正時代に英国から、起源となる品種の種が伝わったとされ、生産者が長い年月をかけて改良を重ね、優れた栽培技術でブランドを築き上げてきた。約100年を経て今春、ロンドンの高級百貨店「ハロッズ」でクラウンメロンの本格的な販売が始まった。口当たり、甘さが現地で好評という。県温室農業協同組合クラウンメロン支所(袋井市)の鈴木陽介経営戦略部長は「英国での販売は、いわば“里帰り”。特別な思い入れがある」と喜びをかみしめた。

ロンドンの高級百貨店「ハロッズ」の棚に並ぶクラウンメロン
ロンドンの高級百貨店「ハロッズ」の棚に並ぶクラウンメロン
 3月中旬、クラウンメロン支所では英国果物バイヤーとの販売戦略の最終確認が進められていた。鈴木部長が向き合ったのは、日本産の果物を中心に扱い、ハロッズとの交渉を手がけた「アバンチ・アジア」(ロンドン)のゲイリー・ファンさん(39)。日本貿易振興機構(ジェトロ)の協力を受け、英国でクラウンメロンの魅力を発信するために産地の視察に訪れた。
 クラウンメロンはハロッズが扱う他の製品と比較しても、見劣りしない「高級品」。手に取ってもらうには、コンセプトや他の果実との違いを明確にする必要がある。ファンさんはハウス内を見学し、値段の理由を取材。鈴木部長が、糖度や肉質など厳しい品質基準をクリアするため徹底した管理で生育していることを自信を持って説明した。
 ファンさんは「高品質な理由と価値を知ることができた。英国の高級ホテルなどにも売り込んで販路を拡大し、最終的には王室で食べてもらうことを目標にしたい」と手応えを語った。
 4月下旬、ハロッズの店頭にクラウンメロンが並んだ。1玉150ポンド(日本円で約3万円)。「高級果実」は英国では日本ほどなじみがなく、挑戦的な価格設定だったが、売れ行きは好調。ジェトロによると、現地の試食コーナーでは、「口の中で、こんなに甘さが続くメロンは初めて」などと驚く声も聞かれた。
 一方、英国でのクラウンメロンの浸透は道半ば。ジェトロ浜松の永盛明洋所長は「高価でも自信を持って売り出せるブランド力がある。日本の果実の代表格として生育技術の高さを発信し、他の果実の販路拡大にもつながる成功事例となれば」と期待を寄せた。
(袋井支局・北井寛人)
〈2024.05.03 あなたの静岡新聞〉

タイ輸出4年ぶり再開 厳格な検疫クリア 袋井の生産者、努力結実 

 袋井市特産の「クラウンメロン」が厳しい検査を突破し、タイで4年ぶりに販売される。かつては人気を誇っていたが、規制の厳格化により、輸出が停止となった。11月中旬、同市内で輸出再開に向けてタイの検査官らを招いた合同輸出検査が実施され、検査官らがメロンの温室と出荷梱包(こんぽう)現場を検査し、同国へ輸出できる基準を満たしていることを確認した。

クラウンメロンがタイへの輸出基準を満たしているか確認した合同輸出検査=11月中旬、袋井市内
クラウンメロンがタイへの輸出基準を満たしているか確認した合同輸出検査=11月中旬、袋井市内
 静岡県温室農業協同組合クラウンメロン支所によると、クラウンメロンは年間生産量の2割弱がアジアを中心に中東、ヨーロッパなど国外へ輸出されている。タイへの輸出は2012年に始まり、主要輸出国の一角となったが、19年にタイ側の日本産メロンへの規制が厳格化。さらに、コロナ禍で検査官を招くことができない状況も重なり、輸出が滞っていた。
 タイが厳しく規制する一因は、幼虫がウリ科作物の果実内部を食害する「カボチャミバエ」という害虫。クラウンメロンがこれまでに被害を受けたことはないが、輸出を再開するために今年、同市山科の生産者寺田直人さんの温室でタイ側の条件を満たす環境を整えメロンを栽培した。結実から収穫までの約50日間、誘引剤でカボチャミバエをおびき寄せるわな調査を実施し、害虫がいないことを示した。
 合同輸出検査には、タイの植物防疫検査官のほか、名古屋植物防疫所職員、農林水産省職員らが参加した。温室の視察後、梱包施設で60個のメロンを目視で検査。害虫がいないことを確認し、タイへの輸出を許可した。タイの検査官チャワリット・チッタナンさんは「クラウンメロンは品質も良く、おいしいことをタイの多くの人が知っている。問題なく輸入できることがうれしい」と笑顔を浮かべた。
 タイでの販売は22日からを予定し、販売に合わせて同支所担当者が現地に渡航して販売促進活動を実施する。同支所の鈴木陽介経営戦略部長は「タイの検査官に品質の良さをアピールすることができた。現地のファンに改めておいしさを知ってもらい、今後の販路拡大の糸口となれば」と輸出再開を喜んだ。
(袋井支局・北井寛人)
〈2023.11.20 あなたの静岡新聞〉

動 画

  • 【SBSテレビニュース】「厳しい基準をクリアできた?『クラウンメロン』をタイに輸出へ 歴史的な円安で今がチャンス プロモーション活動も=静岡県袋井市」

袋井クラウンメロン学ぶ スペインの飲食店経営者、栽培や流通視察

 静岡県温室農協クラウンメロン支所(袋井市小山)に14日、ヨーロッパで唯一クラウンメロンを取り扱う、スペインの日本食レストラングループ「Akaneya」のオーナー夫妻が訪れた。栽培から出荷まで、同メロンの生産現場を視察した。

メロンの品質管理について確認するエリアスさん(左)と村田さん夫妻=袋井市のクラウンメロン支所
メロンの品質管理について確認するエリアスさん(左)と村田さん夫妻=袋井市のクラウンメロン支所
 訪問したのはイグナズィ・エリアスさん(47)と、村田知穂さん(26)=同市出身=。村田さんが故郷の特産品の使用を提案し、コース料理のデザートとして提供している。2人は同支所で出荷作業などを見学し、職員から等級の規格について説明を受けた。市内の栽培ハウスを視察したほか、市役所を訪ねて大場規之市長とも面会した。
 エリアスさんは以前から産地袋井への来訪を希望していて、フランス・パリへの出店が決まった節目に、報告を兼ねて訪問した。3号店でもクラウンメロンを使用する予定という。エリアスさんは「扱う上でたくさんの資料で勉強してきたが、現場を見学できてうれしい。メロンの成長を見られたのが印象的だった」と話した。
 同支所によると、現在、スペインを含めて九つの国、地域にクラウンメロンを輸出している。
〈2022.07.15 あなたの静岡新聞〉

静岡県西部クラウンメロン 海外輸出を強化 高級感と美味 売り込み

 県温室農業協同組合クラウンメロン支所(袋井市)が、浜松支所(浜松市浜北区)を吸収統合した。旧浜松支所の作柄転換で県内特産の最高級品種として知られる「クラウンメロン」の産地は浜松市を含む5市町に広がり、出荷量は2割増える見通し。増産を踏まえ、クラウンメロン支所は海外への輸出を強化する方針で、高級品としてのイメージ定着と普及方法の確立が鍵を握る。

浜松産の出荷が始まったクラウンメロン。県内の生産量は2割増え、海外展開を加速させる=7月下旬、浜松市浜北区
浜松産の出荷が始まったクラウンメロン。県内の生産量は2割増え、海外展開を加速させる=7月下旬、浜松市浜北区
 統合の背景には、生産者の高齢化と後継者不足がある。1970年代に270人前後だった旧浜松支所の会員は50人以下に減少した。生き残りをかけ、同じ最高級マスクメロンの「アローマメロン」から、市場取引価格のより高いクラウンメロンに切り替えた。
 浜松市内の生産者42人が加わり、クラウンメロン支所の会員は袋井、掛川、磐田、浜松市と森町の約240人に増えた。年間出荷量は30万ケース(1ケース6玉換算)から36万ケースに増える見込みだが、同支所も将来的な生産者の減少が懸念されている。
 積極的なブランド戦略で知名度が上がり、加工品開発も相次ぐクラウンメロン。一方、人口減で国内需要の先細りが確実視され、産地活性化には海外市場の開拓が求められる。
 クラウンメロン支所は2015年から本格的な海外展開を始め、東アジアや東南アジア、中東に進出している。浜松支所との統合を契機に、フランスや英国など欧州市場の開拓を計画。米国進出の第一歩としてハワイへの輸出も目指す。
 世界的な日本食ブームは追い風だが、廉価な海外産メロンとの価格競争は厳しい。富裕層をターゲットに贈答用、現地の高級デパート、日本食レストランなどが活路になりそうだ。
 同支所によると、海外ではメロンを熟成させてから食べる習慣が日本ほど広まっていないという。濃厚な甘みと豊かな果汁、上品な香りが特徴のクラウンメロンだが、食べ頃を逸すればその魅力は十分に伝わらない。海外での商談会や試食会を通して販売関係者に銘柄をPRするとともに、現地語で食べ頃を表記するなど消費者に最良の味を知ってもらう努力が必要だ。
 新たな産地となった浜松市は特産のミカンや高級ブドウ、ジャガイモなどを中心に全国有数の農業生産高を誇る。クラウンメロンと他の農産物が連携した海外での販売戦略にも期待したい。
(杉山諭)
2017年07月31日 静岡新聞朝刊
※内容は初出掲載時のまま
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