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「法多山の田遊び」が指定される国の重要無形民俗文化財とは?

 文化審議会は1月19日、袋井市の「法多山の田遊び」など4件を重要無形民俗文化財に指定するよう文部科学相に答申しました。近く答申通り指定されることとなります。
 「民俗文化財」とは衣食住、生業、信仰、年中行事等に関する風俗慣習、民俗芸能、民俗技術及びこれらに用いられる衣服、器具、家屋、その他の物件など人々が日常生活の中で生み出し、継承してきた有形・無形の伝承で人々の生活の推移を示すものと定義され、そのうち特に重要なものとして国が指定したものが「重要無形民俗文化財」です。静岡県内ではこれまで11件が指定されています。それらを写真を中心にまとめます。

袋井「法多山の田遊び」国重要民俗文化財に 文化審指定答申、栃木の鋳物用具なども

 文化審議会は19日、袋井市の「法多山の田遊び」など4件を重要無形民俗文化財に、東日本の鋳物の一大産地、栃木県佐野市の「佐野の天明(てんみょう)鋳物生産用具および製品」を重要有形民俗文化財に指定するよう文部科学相に答申した。近く答申通り指定される。

暴れる牛を鎮める「田打ち・牛ほめ」=袋井市の法多山尊永寺
暴れる牛を鎮める「田打ち・牛ほめ」=袋井市の法多山尊永寺
 「法多山の田遊び」は、豊作を願い稲作の工程を模擬的に演じる「田遊び」の遠州周辺の特徴をよく伝えているとして選ばれた。
 佐野の鋳物生産は平安時代が起源とされる。指定の対象は、明治から大正期を中心に製造・使用された用具と製品1556点。溶解炉やたたら板といった一連の生産工程の用具や、羽釜や鉄瓶などの製品を含む。「鋳物師の技術の高さをうかがうことができ、わが国の鋳物生産の変遷を考える上で重要だ」とした。
 重要無形民俗文化財は他に、香川県・小豆島の「小豆島農村歌舞伎」など。指定により重要無形民俗文化財は333件(静岡県内は12件)、重要有形民俗文化財は227件(静岡県内は2件)となる。
 北海道開拓に重要な役割を果たした馬の蹄鉄(ていてつ)に関する「鷹栖の装蹄用具および関連資料」など2件を登録有形民俗文化財に、山形県の「庄内の笹巻製造技術」など2件を登録無形民俗文化財にすることも求めた。2021年の文化財保護法改正で新設された登録無形民俗文化財は6件となり、いずれも食文化関連の技術。
 また消滅の恐れがあり記録を残すべき無形の民俗文化財に、高知県津野町で伝承されている風流踊(ふりゅうおどり)の一つ「葉山の花取踊」など3件を選んだ。
■「法多山の田遊び」室町時代から 豊作祈る7段の舞
 「法多山の田遊び」は、法多山尊永寺(袋井市)で室町時代から継承されてきたと伝わる。稲作の工程を模した全7段の舞や祝詞などを奉納して、その年の五穀豊穣(ほうじょう)を祈願する。  舞は清めの「太刀の舞」で幕を開ける。中盤の「田打ち・牛ほめ」ではくわを担いだ兄弟と暴れ牛が登場し、狂言要素を含む軽妙な掛け合いを繰り広げる。最後は花がさをかぶった若衆が華やかな舞を披露する「そうとめ」で締めくくる。
 現在は同祭保存会員によって伝統が引き継がれ、毎年1月7日に本堂前で執り行われている。
〈2024.01.20 あなたの静岡新聞〉

今年も五穀豊穣を祈願し奉納
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五穀豊穣を祈って執り行われた法多山田遊祭=袋井市の法多山尊永寺

 法多山尊永寺(袋井市豊沢)の新春恒例行事「田遊祭」が(1月)7日、同寺で執り行われた。保存会員が稲作の工程を模した全7段の舞や祝詞などを奉納し、今年1年の五穀豊穣(ほうじょう)を祈願した。
 第4段「田打ち・牛ほめ」では、くわを担いだ兄弟が登場。軽妙な掛け合いを繰り広げながら、暴れ牛を鎮めて褒めたたえた。
 境内には多くの初詣客が訪れ、古くから伝わる伝統芸能に見入った。田遊祭後に行われた餅まきもにぎわった。
 法多山尊永寺の田遊祭は室町時代から継承されてきたと伝わり、国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に指定されている。
(袋井支局・北井寛人)
〈2024.01.09 あなたの静岡新聞〉

直近の静岡県内での指定は2022年の2件 沼田・大坂の湯立神楽と静岡浅間神社廿日会祭の稚児舞楽

伝統の稚児舞楽を奉納 静岡浅間神社  静岡市葵区の静岡浅間神社で(2022年4月)5日、廿日会(はつかえ)祭が行われ、3月23日に国の重要無形民俗文化財に指定された稚児舞楽(ちごぶがく)が奉納された。指定は1999年の「有東木の盆踊」に続き、市内2件目。

国の重要無形民俗文化財に指定された稚児舞楽を奉納する児童=2022年4月5日午後、静岡市葵区の静岡浅間神社
国の重要無形民俗文化財に指定された稚児舞楽を奉納する児童=2022年4月5日午後、静岡市葵区の静岡浅間神社
 稚児を務めた市川雄大さん(服織小6年)、鈴木博登さん(同5年)、大塩裕稀さん(安西小6年)、松岡晃平さん(同5年)の4人は山吹や桜を飾った冠と稚児衣装をまとい、天下太平や疫病退散などを祈る5演目を披露した。
 同舞楽は460年以上前から町人の祭りと結び付いて継承されてきた。舞楽の地方への広がりと定着を考える上で重要で、芸能の変遷の過程や地域的特色を示している点で国の文化財に認められた。今回で3回目の稚児を務めた大塩さんは「今までで一番緊張した。国の文化財を舞えたことは誇り」と語った。
(写真部・宮崎隆男)
〈2022.04.06 あなたの静岡新聞〉
獅子、湯花まき息災祈願 沼田の湯立神楽 奉納 御殿場・子之神社  御殿場市沼田地区に江戸時代から受け継がれている県指定無形民俗文化財「沼田の湯立神楽」が(2018年10月)27日夜、同地区の子之(ねの)神社で奉納された。獅子が大釜で沸かした「湯花」と呼ばれる湯を振りまき、無病息災や豊作を祈願した。地区内にある不動池で身を清めた舞い手は笛や太鼓の音が響く中、5種類の舞を力強く披露した。四つ目の舞「釜めぐり」では、幣束で煮えたぎる湯をかき回し、ササの葉を束ねた「湯たぶさ」で神前や末社、四方の観衆に湯花をかけた。
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「幣束」で煮えたぎる湯をかき回す獅子=2018年10月27日夜、御殿場市の子之神社

 沼田の湯立神楽は甲州出身の行者によって伝わり、1773年ごろに疫病を止めるために始まったとされる。当時の形のまま継承されていて、獅子が湯立てを行うのは全国的にも珍しいという。
 県指定無形民俗文化財になり、今年で50周年。奉納に先立ち、記念式典が開かれた。
(矢嶋宏行)
〈2018.10.28 静岡新聞朝刊〉

静岡県内での初めての指定は1976年の「西浦の田楽」

夜を徹し1300年の舞 浜松・水窪「西浦の田楽」  浜松市天竜区水窪町の西浦地区に伝わる国指定重要無形民俗文化財「西浦の田楽」が(2019年2月)22日夜から23日朝にかけて、同地区の観音堂で奉納された。1300年の伝統を世襲制で受け継ぐ能衆が夜を徹して舞い踊り、五穀豊穣(ほうじょう)や子孫長久を願った。

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厳かな雰囲気の中、伝統の舞を披露する祭主の別当(中央)=2019年2月22日午後9時55分ごろ、浜松市天竜区水窪町

 厳かな静けさに包まれる中、午後9時ごろ、羽織はかまをまとった能衆が太鼓を打ち鳴らして境内に登場。たいまつの明かりに照らされながら、無病息災や豊作の祈りなどを中心とした「地能」や面を付けた躍動的な動きが特徴の「はね能」を次々と繰り広げた。
 西浦の田楽は719年に僧の行基が水窪の地を訪れ、仏像と仮面を作って奉納したことが起源とされている。毎年旧暦1月18日の月の出から翌日の日の出まで行われる。
(塩谷将広)
〈2019年02月23日 静岡新聞朝刊〉
奉納前 別当宅で能衆らが「酒造り」など独特の準備  浜松市天竜区水窪町の国指定重要無形民俗文化財「西浦の田楽」を前に能衆らが(2019年2月)15日夜、同町西浦地区の別当(祭主)宅で「酒造り」を行った。
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別当宅の小屋で行われる酒造り=2019年2月15日夜、浜松市天竜区水窪町

 毎年旧暦の1月18~19日(今年は2月22~23日)にかけて、能衆が夜通し舞を繰り広げる本番に向けた準備儀式の一つ。別当の高木八郎さん(44)宅に集まった能衆ら約15人は、地域住民が献上した米3升を使って本番で口にする甘酒を造った。火をおこす、釜で米を煮るなどそれぞれの役割は厳格に定められている。
 酒は旧暦の1月16日(今年は2月20日)に口開けされる。能衆は本番までの1週間、肉や魚、乳製品などの飲食を断って身を清める。酒造りを仕切った「公文衆」の森口哲夫さん(74)は「一気に身が引き締まる。今年も邪念無く、自然体で進めたい」と話した。
 能衆は作業後、昨年から取り入れたフラッシュやストロボを使った写真撮影の禁止などの決まりも確認した。
(塩谷将広)
〈2019年02月17日 静岡新聞朝刊〉

写真で振り返る静岡県内の国の重要無形民俗文化財

藤守の田遊び(焼津市)1977年指定

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華やかな「猿田楽」の舞を披露する未婚の氏子男性たち=2018年3月17日午後9時20分ごろ、焼津市藤守の大井八幡宮

遠江森町の舞楽(周智郡森町)1982年指定
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「天宮神社十二段舞楽」を披露する小学生=2023年4月1日、森町の天宮神社
 
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児童らが奉納した「小国神社古式十二段舞楽」=2019年4月20日、森町一宮の小国神社
 
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地域の子どもたちが披露した国指定重要無形民俗文化財「山名神社天王祭舞楽」=2023年7月15日、森町飯田

徳山の盆踊(榛原郡川根本町)1987年指定
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鹿のかぶり物をして跳びはねる「鹿ん舞」=2023年8月16日午後7時20分ごろ、川根本町徳山の浅間神社

遠江のひよんどりとおくない(浜松市浜名区・天竜区)1994年指定
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「川名のひよんどり」体を張って炎を食い止める若衆=2024年1月4日、浜松市浜名区引佐町の福満寺薬師堂
 
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「寺野三日堂祭礼ひよんどり」手にしたおのでたいまつの火を打ち消す鬼=2020年1月3日、浜松市北区引佐町の直笛山宝蔵寺
 
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獅子や鬼などの舞を奉納した「懐山おくない」=2024年1月3日、浜松市天竜区懐山

有東木の盆踊(静岡市)1999年指定
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飾り灯籠を中心に踊りを舞う参加者たち=2012年8月14日午後7時ごろ、静岡市葵区有東木の東雲寺

大江八幡神社の御船神事(牧之原市)1999年指定
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地域内を勇壮に練り歩いた大江八幡宮の「御船神事」=2023年9月17日、牧之原市内

見付天神裸祭(磐田市)2000年指定
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腰みの姿で勇壮な練りを繰り広げる男衆=2023年9月23日夜、磐田市見付

蛭ヶ谷の田遊び(牧之原市)2012年指定
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五穀豊穣の願いが込められた「蛭ケ谷の田遊び」=2023年2月11日夜、牧之原市蛭ケ谷の蛭児神社
地域再生大賞