~対応編~ 大地震が発生したら何をすべきか?避難所生活は? 新聞連載で一緒に考えましょう【東海さん一家の防災日記】
1日に最大震度7を観測した能登半島地震が発生してから3日が経過しました。被災地では余震が続き、今もなお多くの人が避難所生活しています。大地震が発生したら、私たちは何をすべきか。避難所生活ではどのようなことに気を付ければよいか。静岡新聞連載中の「東海さん一家の防災日記」で一緒に考えましょう。
保護者引き渡し模索 「安全確保」の判断難しく
「避難場所まで落ち着いていましたし、待っている間も静かでしたよ」。竜洋君(7)の小学校で南海トラフ地震を想定して行われた引き渡し訓練。迎えに来た遠州さん(36)と三保さん(34)は訓練中の様子を聞き、「頑張ったじゃん」と竜洋君をほめた。竜洋君の学校は校庭の南半分までが津波浸水区域に入っている。昨年度までは校舎の3階以上を津波の避難場所としていたが、今年度からは完成したばかりの校舎裏の命山に変更した。校舎が老朽化し、余震が続いた場合には危険だと判断した。
![](/news/images/n139/1387361/IP231123TAN900041000_0000_COBJ.png)
東日本大震災では、子どもを迎えに来た保護者やきょうだいが津波に巻き込まれたり、引き渡し後に亡くなったりするケースがあった。県教育委員会は震災後、危機管理マニュアルを改定し、子どもや保護者の安全が確保されるまでは引き渡しをしない方針を明記した。判断の基準は大津波、津波警報の解除、周辺の浸水状況―などを挙げている。遠州さんは「訓練ではいつも警報が解除され、安全確保できた前提になっているけど、今通ってきた道も安全かは分からないな」と懸念する。そもそも、学校が情報を収集し、安全かどうか判断できる余力があるのか…。
「被災状況によっては1日以上たってもたどりつけない可能性もあるわね」とため息を漏らす三保さんに竜洋君は「今日みたいに学校の先生や友達と安全な場所に避難するから心配しないで」と笑顔を見せた。「学校がちゃんと見てくれている。そう信じるしかないな」「仕事先から迎えに行く経路やばらばらで被災した時に落ち合う場所を家族で決めておくことも大事ね」。そう話しているうちに自宅にたどり着いた。
別の日。富士子さん(33)が勤める小学校で行われた引き渡し訓練。訓練を知らせる放送とともに、児童が一斉に机の下に潜って身の安全を守った。「慌てないで、運動場に避難を」。しばらくして担任の富士子さんは子どもたちに声をかけた。児童らは運動場まで列をなし、早歩きで避難した。
学校は浸水区域外だが、浸水区域にある自宅から通っている児童もいる。迎えに来た保護者の一人は「自宅周辺に戻った方が危ないかもしれない。そのまま学校にとどまっても大丈夫でしょうか」と訪ねた。富士子さんは、安全が確認されるまで保護者も学校に留め置くという学校の方針を伝えた。「市教育委員会とも密に連絡を取って情報収集をしていきます」と強調した。
![photo03](/news/others/images/IP231123TAN900092000_0000_COBJ.png)
引き渡し訓練後、富士子さんは同僚と当日の様子を振り返った。引き渡しは安全が確認されてからとマニュアルではなっているが、「それでも心配ですぐに来てしまう保護者もいる」「南海トラフ地震では支援が届くまでに時間がかかる。備蓄は十分か」。さまざまな課題が出てきた。
富士子さんは校外研修で聞いた東日本大震災の例を紹介した。仙台市中心部のある小学校では、地震直後から無線が使えなくなり、災害対策本部との連絡が途絶えた。停電やライフラインの被害で保護者へのメール、電話も不通に。学校近くには駅やショッピングモールもあり、一時は2千人以上の帰宅困難者が詰めかけた。備蓄は指定避難所利用者分として約1800食分しかなかった。
富士子さんは「市と連絡を取り合いながら、周辺の被災状況などを把握していく予定だが、行政からの情報収集は難しいことも想定した方がいいかもしれません」と強調する。富士子さんの学校付近にも駅がある。児童だけでなく、帰宅困難者の対応も必要となれば、学校職員だけで周辺の安全を確認する余力はない。教頭は「避難してくる地域住民からの情報が大事になる」と見据えた。
「児童の分は別で用意しているが、迎えに来た保護者の分、あるいは保護者が数日たっても迎えに来られないことも考えると足りない」「しかし、備蓄を増やした場合、保管場所はすでにかなりいっぱいになっている」。教員は活発に意見交換したが、どれもすぐに答えが出なかった。「何が起こりうるのか、想像力を働かせて、地道に対策していくしかない」と富士子さんは気を引き締めた。
※2023年11月26日 あなたの静岡新聞【いのち守る 防災しずおか】から
避難所の体育館、冷房進まず 熱中症対策急いで
10月のある週末の晩。東海駿河さんと妻の伊豆美さん(66)は、同居している小学校教諭の長女富士子さん(33)と3人で食卓を囲んでいた。
![photo03](/news/others/images/IP231008ZZA153200000_O.jpg)
東海さんは最近読んだ新聞記事を思い出した。「静岡県内の公立小中学校って、体育館の冷房設置率が1・9%(昨年9月現在)しかないらしいね。普通教室や特別教室を優先的に整備しているから、体育館はまだ先になるんだとか。そのため、スポットクーラー(可搬式冷風機)を活用している学校もあるようだ」
![photo03](/news/others/images/IP231005TAN900015000_O.jpg)
9月の総合防災訓練で、東海さんが会長を務める自主防災会も近所の小学校で避難所の運営訓練を行った。参加した伊豆美さんは「体育館に大型扇風機はあったけど、各家族のスペースはパーティション(間仕切り)で囲われていて風通しが悪く、蒸し暑かった。私、夏場に何日間も寝泊まりできる自信がないわ」と不安を漏らした。学校体育館の多くは天井板がなく、屋根の裏側から日光を浴びた屋根の熱気がフロアに直接伝わってくる感じがしたという。
災害時を想像し、いろいろと疑問が湧いてきた東海さんと伊豆美さんは地元市役所の危機管理課を訪ね、担当職員に質問した。「学校の普通教室や特別教室にはエアコンがあるのだから夏場は教室を避難所として使えないんでしょうか」。担当職員は申し訳なさそうな顔で答えた。「災害が起きた場合でも学校はなるべく早期に教育活動の再開に努めるよう求められるので、教室と避難所はなるべく分けておく必要があります。ただ、感染症や熱中症で体調不良の避難者が発生した場合などは、エアコンのある教室で静養してもらうといった対応は可能と思われます」
![photo03](/news/others/images/IP231005TAN900016000_O.jpg)
伊豆美さんは指定避難所の一覧を見ながら「地域の生涯学習センターとかはエアコンありますよね。学校より遠くにあるそういった施設に避難するのはだめですか」と質問した。担当職員は「地域によっては特定の避難所に行くよう決められている場合もあれば、選べる場合もあります。平時から確認しておいた方がいいでしょう」と助言した。
帰宅した東海さんは、ふと気付いた。大きな地震や台風で停電が続けば、そもそもエアコンが使えない可能性もあるだろう、と。電池式の手持ち扇風機や、首回りを冷やすネッククーラー、肌に貼る冷却シートなど、「停電時でも熱中症を予防できる備蓄品をそろえておく必要があるな」と伊豆美さんと話し合った。
※2023年10月8日 あなたの静岡新聞【いのち守る 防災しずおか】から
「避難所運営に不安」6割超 地域に応じた避難所マニュアル作りを
2022年度の静岡県の自主防災組織実態調査で「避難所運営に不安がある」との回答は63・8%で前年度に比べて3・9%増加した。東海さんと同様に不安を持つ自主防が増えたのは「コロナ禍で十分な訓練ができていない影響と考えられる」(静岡県危機情報課)。
![photo03](/news/others/images/IP230906TAN000095000_O.jpg)
![photo03](/news/others/images/IP230910ZZA145200000_O.jpg)
東海さんが住む地区は高齢化が進み、ペットを飼っている世帯も多い。「妊婦や乳幼児が避難してくることもあるだろう」と東海さん。「避難所運営の方法を見直すなど、地域の防災力を向上させるため、もう一度真剣に考え直さないといけないな」と意気込んだ。
※2023年9月10日 あなたの静岡新聞【いのち守る 防災しずおか】から
【被害想定】県内7割が震度6弱以上、50万人が避難所へ
静岡県第4次地震被害想定によれば、南海トラフ地震はレベル1(100~150年に1回の地震)、レベル2(あらゆる可能性を考慮した最大クラスの地震)のいずれでも県内の7割以上の地域で震度6弱~7の激しい揺れが予想される。自宅が被災するなどして避難所に集まる住民は県内で50万人以上と見積もられる。
![photo03](/news/others/images/IP231008ZZA170100000_0000_COBJ.jpg)
市は避難者を17万人余りとみて、1人当たり1日5回で3日分のトイレ使用に対応できるよう、携帯トイレや、段ボール箱が便座になる簡易トイレなどを備蓄済み。備蓄品のうち、個室を組み立てて排便をタンクに貯留する仮設トイレは1995年の阪神・淡路大震災後に購入されたもので大半が和式便座という。小さな階段を上る構造も含め、子どもや高齢者がやや使いづらい面もある。
「県内でも学校によっては体育館にトイレ自体がなかったり、洋式やバリアフリーのトイレが少なかったりする場合もあるわ。老若男女のさまざまな避難者が安心して使えるかしら」と富士子さん。東海さんは翌日、近所に住む大学教員で元県職員の岩井山仁さん(68)に避難所の環境改善について意見を聞いてみた。
岩井山さんは「災害時は緊急なのだから避難所は劣悪な環境でも仕方ない、という非文化的な発想はそろそろやめるべきです。高齢化も進んでいるし、一定の経費を投資するのは当然でしょう」と明快に説いた。
「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定める憲法25条の生存権は、災害時や戦争中であっても国民が有する基本的権利だと岩井山さんは強調した。
※2023年10月8日 あなたの静岡新聞【いのち守る 防災しずおか】から