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川勝知事、冬のボーナスなし コシヒカリ発言問題、2年越しの“給与返上”

 12月8日、静岡県内の公務員に冬のボーナスが支給されました。昨年比2・7%減となる中、知事には期末手当が支給されませんでした。知事は2021年10月の参院静岡選挙区補欠選挙の応援演説で「御殿場にはコシヒカリしかない」と発言。謝罪し給与返上の考えを表明するも、今年7月の所得公開により期末手当の支給が判明。半世紀ぶりの知事不信任決議案提出に発展しました。今回のボーナスなしで結末を迎えた「コシヒカリ発言」問題のこれまでを振り返ります。

川勝知事、ボーナスなし コシヒカリ発言ペナルティー

 静岡県内の公務員に冬のボーナスが支給された8日、川勝平太知事には期末手当311万2642円は支給されなかった。いわゆる「コシヒカリ発言」のペナルティーとして川勝知事が2021年11月に自ら表明した“給与返上”は、2年越しで始末をつけた。

 県議会9月定例会で可決した給与減額条例を受け、21年12月の給与と冬の期末手当の相当額計446万803円を減額するため、23年12月給与(130万1千円)と冬の期末手当(311万2642円)を支給せず、23年11月分給与から4万7161円を差し引いた。
 開会中の県議会12月定例会には、一般職員の給与引き上げ条例案のほか、期末手当の支給月数を国家公務員の特別職と合わせる県特別職報酬等審議会の21年度答申を踏まえ、県特別職の冬の期末手当を0・1カ月分引き上げる条例案が上程されている。可決されれば、引き上げ分の18万8645円が12月末に知事に支給される。
 川勝知事は21年10月の参院静岡選挙区補欠選挙の応援演説で「御殿場にはコシヒカリしかない」などと発言し、同11月の県議会臨時会で県政史上初となる知事辞職勧告決議案が可決された。当時知事は自らペナルティーとして給与を返上する考えを表明したが、条例案を提出しなかった。
 23年7月の所得公開で22年分の期末手当支給が判明すると、県議会6月定例会で最大会派自民改革会議が「言行不一致」と問題視し、県政半世紀ぶりの知事不信任決議案の提出に至った。知事は給与減額条例案を9月定例会に提出し、県議会総務委員会の集中審査に出席して経緯を説明した。条例案は「今後、不適切発言をした場合は辞職するとの知事発言に責任を持つ」との付帯決議とともに可決された。
〈2023.12.9 あなたの静岡新聞〉

知事「コシヒカリ発言」謝罪 御殿場訪問後、会見

 川勝平太知事が(2021年)10月の参院静岡選挙区補欠選挙の応援演説で御殿場市に関し「コシヒカリしかない」などと発言した問題で、川勝知事は10日、同市役所を訪れ、勝又正美市長と高橋靖銘市議会議長と会談して謝罪した。発言は撤回した。川勝知事は訪問後に県庁で記者会見を開き、「今回の発言で不快になり、傷ついた方、心配をかけた方がいる。まことに申し訳ない。ごめんなさい」と県民に向け、謝罪を口にした。

勝又正美御殿場市長(左)に謝罪に訪れた川勝平太知事=10日午後7時10分ごろ、同市役所
勝又正美御殿場市長(左)に謝罪に訪れた川勝平太知事=10日午後7時10分ごろ、同市役所
 会談は非公開で15分程度。川勝知事は会談の冒頭で謝罪と撤回の言葉を口にし、椅子に座ったまま頭を下げたという。発言について「あってはならない。市民の痛みはよく分かった」と語った。
 勝又市長は「心からの謝罪があった。市民の心が傷ついたことを分かっていただいた」と評価した。一方で「これだけ傷ついた心は消えるものではない。今の時点で納得したとは言えない」とも述べ、知事の今後の発言を見守る考えを示した。高橋議長は市議会が12月定例会に提出する方針を固めている「発言の撤回と謝罪を求める決議案」の取り扱いについて、知事の対応を見極めた上で判断するとした。
 県庁での会見は報道陣の求めに応じる形で、急きょ開かれた。川勝知事は謝罪の言葉を繰り返し、「御殿場市民を傷つける意図は本当になかった。しかし、傷つけてしまったのは申し訳なかった」と述べた。
 9日の記者会見で謝罪しなかったことについては「説明すれば分かってもらえると思った」と話し、10日の報道で勝又市長が公の謝罪を求めていることなどを知り、考えを改めたという。
 御殿場市をやゆしたと取られても仕方のない発言をしたことについては、選挙での応援演説だったことが原因とし、「差別を決してしないとする公務と、他方を蹴落とさなければいけない政務(選挙応援)は両立しない。政務は初めてだった。発言は問題だった」と述べた。
 一方、政務を今後も続ける考えを示し「政務のときの言葉遣いには注意しなくてはいけない。演説を組み立ててから話すようにする」とした。

 知事「コシヒカリ発言」全文
 川勝平太知事が10月23日に浜松市で行った参院静岡選挙区補欠選挙での山崎真之輔氏に対する応援演説の全文は次の通り。
 「浜松やらまいか大使」の川勝平太でございます。今回の補選は、静岡県の東の玄関口、人口は8万強しかないところ、その(御殿場)市長をやっていた人物か。この80万都市、遠州の中心浜松が生んだ、市議会議員をやり、県議会議員をやり、私の弟分。県民の県民による県民のための県民党党首川勝と自称したところ、この青年(山崎氏)は実質幹事長をしてくれた。こういう青年。どちらを選びますか?
 こちらは食材の数も430のうち3分の2以上がある。あちらはコシヒカリしかない。ただ飯だけ食って、それで農業だと思っている。こちらにはウナギがある。シラスもある。三ケ日みかんもある。肉もある。野菜もある。タマネギもある。なんでもある。もちろんギョーザもある。そういうところでですね、育んできたこの青年を選ぶのか。はっきりしてます。
 なんといっても政治家は実行力が重要ですが、彼(山崎氏)は現場を検証し、そして実行し、スピードがある。今もっとも必要なスピードは何かというとワクチン接種であります。64歳以下のワクチン接種率。彼(若林氏)が市長をしているときには30%以下しかなかった。ところがこちらは彼の恩師、康友君(鈴木康友浜松市長)はその2倍やってた。これがですね、ちゃんとこの青年の中に入っておる。だから実行力もある。その後、(御殿場市が)勝又という市長になってから私が厳しく言ったのでちゃんと上がってきた。実行力も彼です。
 ですからですね、これはよろしいですかみなさま。浜松、遠州、その中心。ここ。経済はここが引っ張ってきた。あちらは観光しかありません。それしか知らない人間。そんな人間がですね、静岡県全体の参院議員になってどうするんですか。ダメです。
 ですから浜松の代表、地域の意地を見せる、遠州の代表、そして静岡の代表、いま彼は、静岡県民クラブ(ふじのくに県民クラブ)の無所属ですが、県民クラブには元自民党の人も、民主党とか立憲民主とか国民民主とか、いろんな人が入ってる。来るものは拒まない。この青年が国会に行けば、ふじのくにづくり国民会議の代表になる。そういう意味でですね、このしんちゃんをしっかりとみなさんの代表として参議院に送ってください。よろしくお願いいたします。
〈2021.11.11 静岡新聞朝刊〉

不信任否決 1票差の“紙一重” 「非常に重い」知事陳謝

 静岡県議会最大会派の自民改革会議に知事不信任決議案を突き付けられ、わずか1票差で不信任の烙印(らくいん)を免れた川勝平太知事。採決が行われた13日未明、全県議68人が票を投じる中、本会議場の知事席で硬い表情のまま前方を見つめ、視線を動かすことはなかった。中沢公彦議長が否決の結果を告げた瞬間も無表情のままで、閉会とともに席を立った。

不信任決議案の票数確認中、じっと前方を見つめる川勝平太知事(左)=13日午前0時46分、県議会
不信任決議案の票数確認中、じっと前方を見つめる川勝平太知事(左)=13日午前0時46分、県議会
 12日午前から13日未明にかけて開かれた県議会6月定例会最終本会議は、知事不信任案の提出を巡って自民内の協議が長引く中、会議再開と休憩を繰り返した。庁内の知事室と議場の間を幾度も行き来した知事は、報道陣から質問をぶつけられても無言を貫いた。当初、採決後に設定されていた取材対応をキャンセルし、公用車で知事公舎に戻った。
 県庁で報道陣の取材に応じたのは昼近くの13日午前11時ごろ。「非常に重い」。際どい結果への受け止めを答えた。「今回、多くの方が賛成したことは、辞職勧告に勝るとも劣らない大きな意見」と語った。審議が深夜、未明に及んだことに「県民に心配をかけ、深くおわびする」と陳謝した。
 一方で、「職務に専念する決意は変わらない」と語り、知事職は辞さずに全うする決意を示した。自身への反発と溝の深さを決定づける自民の不信任案提出には「筋を通した」と評しつつ、「保身のために虚偽説明」との指摘は「当たらない」と強く否定した。
 最終本会議はいわゆる「コシヒカリ発言」を巡って川勝知事が給与返上を表明したまま条例案を提出していない問題で紛糾した。県幹部の一人は「知事は長時間の審議で疲弊し、弱気になっていた」とおもんぱかり、「可決されていたら、失職を選択したかもしれない」と話した。
〈2023.7.14 あなたの静岡新聞〉

視座(7月10日)自身の言葉けじめなく 川勝知事の「給与返上」ほご

 静岡県の川勝平太知事が2021年参院補選の応援演説で放った不適切な発言を巡り、同年11月に自身への「ペナルティー」として給料や期末手当を返上すると宣言したのに実行していなかったとして批判を浴びている。給与返上には新たな条例が必要だが、当時、辞職勧告決議案を可決したばかりだった県議会から賛同を得られるはずもなく、直後の21年12月定例会に条例案を提出するに至らなかった。今月3日に公表された22年分の所得報告書をきっかけに、再びこの問題に焦点が当たった。

 知事は21年末の記者会見で、条例案の提出に向けた県議会との調整がうまくいかなかったことに言及したものの、その後、条例案の提出断念や返上方針の撤回について明確に説明しないままだった。参院補選での不適切発言にも通じることだが、重責を担う政治家としてあまりに言葉が軽いと言わざるを得ない。給与返上は知事にとっては既に「終わったこと」だったかもしれないが、自分の言葉にけじめをつけず放置していたことが、今回、批判を招いた一因になっていることは否定できまい。知事は批判を受け、条例案を提出することにしたようだ。今からでも真摯[しんし]に説明するしかないだろう。
 リニア問題を巡って本県に全国的な注目が集まり、特に知事は「建設を邪魔している」との批判にもさらされている。そうした状況を反映してインターネット上などでは「こっそり給料と期末手当を受け取っていた」などとして辞職を求める厳しい論調が目立ち、知事攻撃の格好の材料になっている。リニア問題に臨む知事の難しい立場を考えれば、隙を生まないよう言動には細心の注意を払うことが必要だろうが、「給与返上」への対応は甘かったという印象がぬぐえない。
 ただ、ここで少し冷静に経緯を振り返る必要もあるのではないか。知事は給与返上を宣言した当時、21年12月と22年2月の県議会定例会で条例を成立させるべく、水面下で議会側との調整に動いたが、了承を得られなかった。否決されるのを承知で条例案を提出することもできたが、そうしたパフォーマンスをしなかったのは、辞職勧告決議案を通した県議会、特に最大会派の自民改革会議とこれ以上の対立を避けるためだったとみられる。
 条例が成立していない以上、給与が返上できないのは自明の理だ。このことは議会側も承知していたはずだが、これまで追及してこなかった。静岡新聞は知事が給与を返上できなかった事実を節目節目で報じてきたが、今回、所得報告書の公表によって明らかになったように取り上げられていることには違和感を覚える。調整段階で条例案を受け入れなかった自民が、もし今回の批判に便乗する形で「返上しなかったのは問題だ」と責任追及に走るとすれば、それはお門違いというものだろう。
 ヤマ場を迎えているリニアの水問題をはじめ、新型コロナウイルス禍後の県内経済を確実な回復基調に乗せるための施策、移住増加などのプラス材料はあるものの思うような効果が出ない人口減少対策、長く懸案となっている浜松市への県営球場建設をどうするかなど、県政の重要課題が山積みだ。知事と県議会が政局にエネルギーを費やし、こうした課題に関する議論をおろそかにするようなことがあってはならない。
(論説委員長・橋本和之)
〈2023.7.10 あなたの静岡新聞〉
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