後を絶たない犬や猫の遺棄 ペットを飼う責任とは?
大切な家族の一員として、犬や猫などのペットと楽しい日々を過ごしているご家庭も多いと思います。「飼い主の責任」を果たし最期まで共に歩む方々がほとんどですが、一方で一部の人たちが「途中で飼えなくなった」「繁殖で増えてしまった」という理由で、犬や猫を遺棄してしまう事件も後を絶ちません。「小さな命」ですが「大切な命」。沼津で起きた猫の遺棄事件をきっかけに、捨て犬・捨て猫、野良犬・野良猫の現状、保護活動に取り組む方々の思いを考えてみたいと思います。
「飼いきれなくなって」猫を遺棄 沼津の母娘を書類送検
沼津市の住宅前に衰弱した複数の猫を遺棄したとして、沼津署は18日、市内の母親(65)と娘(41)を動物愛護法違反の疑いで静岡地検沼津支部に書類送致した。同署によると、親子はそれぞれ容疑を認め、娘は「猫が増えすぎてしまい、飼いきれなくなって捨てた」、母親は「(娘に)頼まれて一緒に捨てに行った」などと話しているという。
同署によると、猫を見つけた住人から通報を受け、防犯カメラや近隣住民、動物病院などに話を聞くなどして捜査。6月の事案に娘が関わった疑いが浮上し、その後に母親の関与や2月の遺棄を立件したとみられる。
〈2023.8.18 あなたの静岡新聞〉
住宅前に衰弱した猫17匹 何者かが犬用ケージに入れ
沼津市内の一般住宅前に、衰弱した猫17匹を何者かがケージに入れて投棄していたことが19日までに、関係者などへの取材で分かった。投棄された猫は県東部の団体が保護している。団体関係者は「飼えなくなる前に相談してほしい」と訴える。
女性は「まさか猫を置いていく人がいるなんて思わなかった。私が猫を飼っていることを知っている人が置いたのかも」と話した。
同団体によると、投棄されたのは成猫2匹と子猫15匹。成猫を囲むように子猫が折り重なっていた。ふん尿臭がひどく、しっぽが捕食されていた猫もいたという。一部の猫は衰弱が激しく、19日までに子猫4匹が死んだ。
団体の代表者は、投棄した人物が不妊や去勢手術をしなかったために繁殖し、十分に飼育ができない「多頭飼育崩壊」の可能性があると指摘している。
猫は「いずのくにねこの会」(伊豆の国市)と「NPOくすのき」(熱海市)でも保護した。
〈2023.6.20 あなたの静岡新聞〉
犬殺処分1頭 猫101頭も過去最少 22年度の静岡県内 関係団体の努力が成果
昨年度静岡県内で殺処分された犬の数は1頭、猫は101頭で、いずれも過去最少となったことが7日までに県への取材で分かった。動物を飼うことへの責任感の高まりや法整備などペットを取り巻く環境の改善、ボランティア団体の努力が成果につながっているとみられる。関係者は「殺処分ゼロを目指して活動を続けたい」と話す。
猫については、野良猫に不妊去勢手術をして地域に返す「TNR活動」などが奏功し、殺処分の多くを占めてきた親のいない子猫の持ち込みが減ったことで、殺処分数も減少した。今後は、地域によって状況が違う中でどう共存していくかが課題という。
やむをえず保健所に保護されたものの、一般向けの譲渡が困難と判定された犬や猫はボランティア団体が引き取るケースも多い。静岡市を拠点に活動するラディアンテ静岡の三津山有加代表理事は、ペットを飼う責任意識の高まりや、保護犬・猫を引き取ることへの理解が以前より進んでいると感じるという。
一方で、高齢で飼えなくなり親族などにも引き取り手がいなかったり、飼い始めた後で子どもの動物アレルギーが判明したりして保護に至る事例もあり、ペットを飼う前に自分や家族の状況をよく確認することが必要だとする。三津山代表理事は「安易に飼い始めないことと、最後まで飼うこと。この2点を守ってほしい」と強く呼びかける。(社会部・大村花)
〈2023.6.8 あなたの静岡新聞〉
「目の前の猫の幸せ」 保護活動続ける浜松の男性の思い
「元気なうちに、パートナーの茶トラに会わせてやりたい」。ケージの中に横たわる保護猫「翔平」に目をやりながら、浜松市東区で猫の保護活動を行う任意団体「浜松ねこシェルター」を運営する服部優二さん(60)はそうつぶやいた。翔平の顔の右半分は大きく腫れて血がにじみ、目のありかも分からない。
服部さんにとって、猫は「いとしい」と同時に「哀れ」な存在だ。「翔平のような猫を引き取ってくれる人はおそらくいないだろう。人の都合でかわいがられたり、かわいがられなくなったり。昨日までご飯があったのに、急に飢えたりするのは哀れだ」
保護活動は、建築設計会社の経営との二足のわらじ。布団製造販売会社やハウスメーカーでの勤務を経て20年ほど前に独立した。ペットとは無縁の生活をしてきたが、独立から数年後、小学1年生だった長男が、自宅近くの神社に捨てられていた子猫をアパートの物陰にかくまって世話したことが転機になった。
発覚後、妻の春代さん(54)に「元の場所に戻してきなさい」と諭された長男は火が付いたように怒った。「何でだよ。死んじゃうだろ、くそばばあ」。日頃は発しない激しい言葉。心を動かされ、子猫を家に迎えた。数年後にはペット店で売れ残っていた犬も加わった。犬猫について調べると、野良犬はほとんど見かけなくなった一方で、野良猫は取り残されていると思えた。
野良猫を保護して飼い主を探す活動を始め、既に20年以上。春先からはあちこちで生まれる子猫の保護依頼がひっきりなしで、会社の事務所2階と自宅で世話する猫は現在、160匹以上にもなる。
猫との出合いは仕事にも影響した。3年ほど前から事業の柱として「猫や犬とともに暮らす家づくり」を提案。ペットと暮らしやすい生活空間を作るための住宅リフォームや、新築の設計施工を手がけている。
猫の保護にあたっては、検査や処置の費用として依頼主に1匹当たり3万円の負担を求めるが、保護期間が長くなればまかない切れない。春代さんと事務所スタッフ、数人のボランティアが協力し、本業の利益で何とか活動を維持する。「収益事業とセットでなければ活動は続かない。そこも含めた保護活動のモデルが必要」と痛感している。
活動の基準は「目の前の猫の幸せ」。年間50匹という決して多くない譲渡実績は、引き取り先を慎重に審査した結果だ。「単にかわいいと思うことと、本質的な愛情は違う」。見栄えやかわいさが重視されることに抵抗もある。不幸な猫をなくすために、人と猫はどんな関係を築くべきか、自問を続けている。(生活報道部・西條朋子)
〈2023.6.28 あなたの静岡新聞〉