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作家の森村誠一さん追悼 ゆかりの熱海市民から感謝の声

 作家の森村誠一さんが24日、90歳で亡くなりました。森村さんとゆかりの深い熱海市では、気さくで温かい人柄を惜しむ声をはじめ、観光や文化の振興を支えてくれたことへの感謝の言葉が聞かれました。森村さんの熱海市とのつながりを紹介します。

代表作に「人間の証明」など 映画と小説で一躍人気作家に

 映画化されたベストセラー小説「人間の証明」や、ノンフィクション「悪魔の飽食」などで知られる作家の森村誠一(もりむら・せいいち)さんが24日午前4時37分、肺炎のため東京都内の病院で死去した。90歳。埼玉県出身。葬儀は家族葬で行う。後日お別れの会を開く予定。

森村誠一さん
森村誠一さん
 青山学院大を卒業後、大阪や東京のホテルに勤務する傍ら小説を書き、1969年に「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞、本格的な作家活動に入った。73年に「腐蝕の構造」で日本推理作家協会賞を受け地歩を固めた。
 
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森村誠一さんの主な作品(数字は刊行年)

 都心のホテルで起きた殺人事件を題材に人と人との絆を描いた代表作「人間の証明」(76年)が翌年映画化された。「野性の証明」(77年)も高倉健さん、薬師丸ひろ子さんの共演で大ヒット。映画と小説の相乗効果で一躍人気作家になった。「棟居刑事」シリーズ、「牛尾刑事・事件簿」シリーズなどテレビドラマ化された作品も多い。
 社会派ミステリーで高く評価されたほか、歴史・時代小説なども執筆。旧日本軍の「731部隊」を通して細菌兵器など戦争の暗部に迫ったノンフィクション「悪魔の飽食」も話題になった。反戦と護憲への思いが強いことでも知られた。
 長年の功績に対して日本ミステリー文学大賞を受けたほか、2011年には「悪道」で吉川英治文学賞を受賞。老人性うつ病に苦しんだ体験をつづった「老いる意味」を刊行するなど、晩年まで精力的に執筆を続けた。
 他の作品に「新幹線殺人事件」「駅」「悪の狩人」「地果て海尽きるまで」など。
〈2023.7.25〉

熱海への誘客、小説で支える

 作家の森村誠一さんの死去が報じられた24日、森村さんとゆかりの深い熱海市では、気さくで温かい人柄を惜しむ声や、同市の観光や文化の振興を支えてくれた文豪への感謝の声が聞かれた。

カフェ・ド・シュマンで杉本憲治さんと記念撮影する森村誠一さん(左)=2019年1月、熱海市(杉本さん提供)
カフェ・ド・シュマンで杉本憲治さんと記念撮影する森村誠一さん(左)=2019年1月、熱海市(杉本さん提供)
 森村さんは1970年代から同市中心街のマンションに仕事場を構え、執筆活動に打ち込んだ。月の半分ぐらいは熱海で生活していたという。仕事の合間に足しげく通った飲食店「カフェ・ド・シュマン」の杉本憲治さん(74)は突然の訃報に、「もうお会いできないと思うと寂しくてならない」と肩を落とした。
 
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森村誠一さんが好んだコーヒーを入れながら思い出を語る杉本憲治さん=24日午後、熱海市

 コロナ禍前の2019年までは毎年正月に杉本さんや従業員と写真を撮るのが恒例だった。杉本さんは、森村さんお気に入りのコーヒーを入れながら「熱海の街を歩き回り、住民との出会いを作品のヒントにしていた。とても好奇心が旺盛な方だった」と悼んだ。
 森村さんは、1500冊近い著書を同市立図書館に寄贈したほか、市の観光事業にも協力した。03年から10年ほど続いた誘客企画「アタミステリー紀行」では、市内の観光スポットが登場するミステリー小説を森村さんが毎年書き下ろし、観光客が作品を基に街歩きしながら謎解きに挑んだ。事業を担当した市観光建設部の立見修司次長(55)は「当時の熱海は観光客が減少し、非常に苦しい時だった。そんな時に少しでも街を盛り上げようと支えてくれた」と感謝の言葉を繰り返した。
 (熱海支局・豊竹喬)
〈2023.7.25 あなたの静岡新聞〉

2017年、市立図書館に著作寄贈 「森村誠一文庫」オープン

 ※2017年10月12日朝刊より

森村さんの著書が並ぶ「森村誠一文庫」=熱海市立図書館(2017年当時)
森村さんの著書が並ぶ「森村誠一文庫」=熱海市立図書館(2017年当時)
 熱海市を舞台にした小説を執筆するなど、同市とゆかりの深い作家森村誠一さんがこのほど、自身の著作1469冊を市に寄贈した。市は12月から、市立図書館の一角に専用コーナー「森村文庫(仮称)」を設け、寄贈を受けた図書の貸し出しなどを始める。
  専用コーナーは市立図書館のカウンター付近に設置する。寄贈図書を収納するほか、森村さん愛用の品なども展示する予定。
  市立図書館によると、5月に森村さんから寄贈の申し出を受け、職員が市内の森村さんの別荘にあった図書の移動や整理作業を行ってきた。森村さんの話ではミステリーや時代小説をはじめ、自身の作品を網羅しているという。
  感謝状贈呈のため10月5日、東京都内の自宅に森村さんを訪ねた山田真士館長は「図書は有意義に活用していきたい。今回の寄贈をきっかけに、多くの人に森村先生の作品に触れてほしい」と話している。
  (草茅出)

著書808冊貸し出し ファンの注目を集めた
 
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森村さんゆかりの品を紹介する展示コーナー=熱海市立図書館

 熱海市ゆかりの作家森村誠一さん寄贈の書籍を集めた「森村誠一文庫」が2日、熱海市立図書館にオープンした。「人間の証明」などの作品で知られる森村さんの著書を幅広く網羅していて、来館者やファンの注目を集めている。
  5月に森村さんから市へ著書の寄贈の申し出があり、1469冊を譲り受けた。同図書館が整理作業を進め、808冊を貸し出し用に選んだ。
  森村さんが図書館に託した自筆の俳句色紙、著書を原作にしたテレビドラマの台本などを展示するコーナーも設置。書棚や展示ケースには熱海、多賀両中の美術部員が手掛けた装飾用の看板を取り付けた。
  山田真士館長は「森村先生の作品を多くの人に知ってもらうと同時に、図書館の新たな魅力として発信していきたい」と語った。
〈2023.12.4 あなたの静岡新聞〉
※年齢、肩書き等当時のままです
地域再生大賞