知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

静岡県内自動車産業EV化の要 活動5年、次世代自動車センター浜松の取り組みは

 地域企業のEV(電気自動車)化などの取り組みを支援する次世代自動車センター浜松は、始動から丸5年が経過しました。一大変革期に挑む静岡県内自動車産業の持続的成長を支えていますが、具体的な開発や量産化に向けた設備投資などの動きを着々と進める“トップランナー”が存在する一方、1回も支援事業への参加が無い企業もあるなど、課題もあります。

会員数は発足時の5倍に 供給網を構成する小規模企業にも注力

 輸送機器に関わる地域企業のEV(電気自動車)シフト対応などの取り組みを支援する浜松地域イノベーション推進機構の次世代自動車センター浜松(浜松市中区)は、始動から丸5年が経過した。会員数は発足時の約5倍となる静岡県内外の498社(3月末)に増加。入会後、次世代自動車部品の開発に携わった企業は徐々に拡大した。2023年度は既存の支援メニューの継続強化に加え、新たにサプライチェーン(供給網)を構成する小規模企業の支援に注力する。支援機関として、一大変革期に挑む県内自動車産業の持続的成長を支える。

分解された欧州メーカー製EV部品や車体骨格などに見入る会員企業の担当者=3月下旬、浜松市中区のアクトシティ浜松
分解された欧州メーカー製EV部品や車体骨格などに見入る会員企業の担当者=3月下旬、浜松市中区のアクトシティ浜松
 3月下旬、浜松市中区で開かれた欧州メーカーの最新EVの分解活動報告会。市内外の102社から技術担当者ら170人が参加した。熱マネジメント部品や車体の骨格断面などが展示され、顔を近づけて構造をのぞきこんだり、熱心に写真に収めたりする出席者の姿が見られた。
 「自社だけではできないこと。生き残るため、EV関連の部品に自社がどう絡むのか模索している」。市内で四輪部品金属加工を手がける企業の担当者(47)は表情を引き締めた。
 部品点数減など電動化普及が与える影響度の高さ、製造品出荷額の落ち込みなど、地域の危機感が後押しする形で次世代自動車センターは設立された(市や県などが出資する推進機構内)。搭載される部品の試作や工法開発と「提案力向上」に向け、直近の22年度は53の支援事業を展開した。
 チャート作成を通じて自社技術の強みを引き出す「固有技術探索」を入り口に、EVの車両分解調査、分解部品を展示して貸し出しを行うベンチマーク活動、販路マッチングなど、初年度の18年度(12事業)から徐々に積み上げた。入会後に「CASE(ケース)」(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の関連部品を「開発中」「量産中」とする企業は、5年間で161社(初年度は40社)に上る。
 センターによると、具体的な開発や量産化に向けた設備投資などの動きを着々と進める“トップランナー”が存在する一方、1回も支援事業への参加が無い企業もあるなど、取り組み姿勢は分かれている。開設当初から組織を率いる望月英二センター長(スズキ参与)は「モデルケースを示していくことも必要だと考える。支援を通じ、次世代自動車ビジネスを獲得する循環をつくる」と話す。

 現場改善後押し
 次世代自動車センター浜松は2023年度、新たな支援の柱として、部品加工などを受注する小規模企業の経営改善支援に乗り出す。従来中心だった開発型の中堅・中小企業の活動後押しと併せ、サプライチェーンの基盤強化を図る。
 取引先がEVなどの次世代自動車部品にシフトした際、受注を維持できるとは限らない。目先の経営にしか手が回らない企業もある中、「まずは現場の改善から。基礎体力をつけ、選ばれる企業になる」(望月センター長)ことが狙いだ。5月以降、整理・整頓など「5Sへの再挑戦」を掲げ、講座などを展開する。
 対象企業の発掘に力を発揮するのが地域金融機関。3月に浜松いわた、遠州の両信用金庫と、静岡銀行、県信用保証協会に呼びかけ、説明会で工場内のモノの置き方や運搬の流れなど、企業訪問時の着眼点を行員や職員に伝えた。企業の一つ、静銀西部カンパニーの加藤祐二理事部長は「専門的知見を持つセンターと連携し、産業変革の波に直面する企業の個別のアプローチに生かしたい」と話す。
 本年度はほかに、浜松商工会議所会館1階に開設している車両分解部品展示の「ベンチマークルーム」の面積を倍増し、夏をめどに展示内容の充実も図る。
(浜松総局・山本雅子)
〈2023.4.25 あなたの静岡新聞〉

 

欧州EVの分解部品展示 アクトシティ浜松で報告会

 浜松地域イノベーション推進機構の次世代自動車センター浜松は22日、欧州製の最新EV(電気自動車)を活用した車両分解調査の活動報告会を浜松市中区のアクトシティ浜松で開いた。次世代自動車に搭載する部品試作や工法開発に役立ててもらうのが狙い。県内外の100社から技術担当者ら約170人が参加した。

分解したEV車両の車体骨格や部品に見入る参加者=22日、浜松市中区のアクトシティ浜松
分解したEV車両の車体骨格や部品に見入る参加者=22日、浜松市中区のアクトシティ浜松
 車両はフォルクスワーゲン(VW)の「ID.3」。望月英二センター長が講師を務め、2021年度から進めてきた分解調査のうち、22年度重点的に実施した熱マネジメントシステムと車体を中心に、構成部品や構造の特徴を説明した。
 エンジンの排熱が使えないEVでは、航続距離を伸ばすため、空調などの効率の良い熱管理が重要視されている。会場には分解部品や車体骨格が展示され、受講者が熱心に説明パネルに見入ったり、写真に収めたりした。望月センター長は「報告資料や展示を参考に、固有技術に磨きをかけ、取引先への提案につなげてほしい」と呼びかけた。
 同センターは現在、中国製EVの分解も進めている。
(経済部・山本雅子)
〈2023.3.24 あなたの静岡新聞〉

サイバー防御へ一丸 メーカーと部品供給網

 トヨタ系の主要部品メーカーがサイバー攻撃を受け、トヨタ自動車の国内全工場が一時停止した事態から約1年。スズキ、ヤマハ発動機の四輪、二輪完成車メーカーと関連産業が集積する静岡県の製造業界でも、サプライチェーン(供給網)全体の対策強化が加速している。支援機関が中心となり、対策が遅れがちな中小企業向けの情報提供や、攻撃の未然防止、影響の最小化に向けた現実的な対策を伝える試みが進む。

サイバー攻撃発生を想定して対応などを模擬体験した企業の参加者=浜松市中区
サイバー攻撃発生を想定して対応などを模擬体験した企業の参加者=浜松市中区
 2月中旬、浜松地域イノベーション推進機構の次世代自動車センター浜松が主催したサイバーセキュリティー対策ワークショップ。部品製造業4社から経営者とIT担当の計8人が参加。架空のサイバー攻撃事案が発生したとの想定で、被害への対処方法をディスカッションで模擬体験した。
 机上ながら、実践スタイルで経営者や管理者層を巻き込んだのが特徴。講師を務めた同センターの担当者は「一企業のセキュリティーレベルの低さが供給網全体の弱みになる。被害軽減と復旧迅速化には、事前の社内体制把握と対応手順の整備が不可欠だ」と強調した。
 セミナーに参加した中小企業の警戒意識は高い。金属製品加工業マルイチ(同市南区)は社長をトップとする社内委員会を中心に、ソフトとハード両面で対策を整備中。担当者は「全社で対策の重要性を共有しなければ」と実感を込めた。
 供給網の頂点に立つメーカー側は、日本自動車工業会などが作成したガイドラインを活用し、取引先に注意を喚起する。スズキは協力協同組合と連携した勉強会を開催し、ヤマハ発動機は昨年実施した取引先へのアンケートを通じて把握した現況を基に、必要な対策の検討を進める。
 次世代自動車センター浜松が昨年7月に会員企業に行った調査では、経営規模が小さい会社ほど対策に遅れが見られ、自社の問題としての認識が低い現状が浮き彫りになった。望月英二センター長は「“守りの投資”の捉え方ではなく、BCPの項目に含めるなど経営層と一体でできる対策から着手してほしい」と話す。センターとしても新年度は開催を拡充する考えだ。
(浜松総局・山本雅子)
〈2023.2.25 あなたの静岡新聞〉

中国最新EV分解調査へ コストダウン学ぶ

 浜松地域イノベーション推進機構次世代自動車センター浜松(浜松市中区)は、中国大手自動車メーカー「長城汽車」の最新電気自動車(EV)の車両分解調査を始める。価格競争力が高い中国車から、EVシフト対応に向けたアイデアを得る狙い。調査を前に12日、車両展示会を同市中区のアクトシティ浜松で開いた。

中国大手自動車会社の最新EVを観察する参加者=12日午前、浜松市中区のアクトシティ浜松
中国大手自動車会社の最新EVを観察する参加者=12日午前、浜松市中区のアクトシティ浜松
 日本国内では未発売の4ドアハッチバックコンパクトカー「ORA GOOD CAT」を、輸送費などを除いて約250万円で購入した。同車は1回の充電で400キロ以上走行可能で、中国国内やタイで販売しているほか、欧州でも今秋に発売を予定している。
 展示会では、会員企業の地元製造業関係者ら約140人がボンネット内や室内を観察した。運転手の顔認識機能を持つシステムや電動シート、静粛性を確保するドア周りの構造などを確認した。
 同センターは10月にかけて試乗会を開き、11月ごろに分解調査に着手する。結果は来春に報告予定。望月英二センター長は「設計や構造を調べ、コストダウンにつながるヒントを得たい」と話した。
 同センターは昨秋から、フォルクスワーゲン(VW)のEV「ID.3」の分解調査も進めている。
(浜松総局・白本俊樹)
〈2022.9.13 あなたの静岡新聞〉


 
地域再生大賞