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不適切盛り土196カ所 非公表から一転 経緯をおさらい

 静岡県内に造成されている196カ所の不適切盛り土。県は当初、場所を示した資料を黒塗りで提供していました。一部は周辺人家に被害が及ぶ危険性もある場所です。しかし県議会2月定例会で、一転して公表する方針を示しました。これまでの経緯をまとめました。

不適切盛り土 196カ所公表へ 静岡県、公益性認め方針転換

 静岡県は2日の県議会危機管理くらし環境委員会で、県内の不適切な盛り土196カ所の具体的な場所について今後、公表する方針を明らかにした。これまでは土地所有者が特定されることなどを理由に非公表としていたが、不法行為の抑止効果など公表がもたらす公益性を認め、方針転換した。

静岡県庁
静岡県庁
 望月満盛土対策課長は、盛り土規制法が5月に施行されるのに合わせ、国が不適切な盛り土の公表ガイドライン案を県に示していると説明した。この案を参考に県の公表基準をつくり、来週にも開催予定の関係部局長による対策会議で諮りたいとした。
 関係者によると、不適切な盛り土の場所を地図上に掲載する形での公表を予定していて、具体的な位置を確認できるようになるという。
 県内の不適切な盛り土196カ所は熱海土石流後の盛り土総点検で判明した。県は東部、中部、西部と伊豆の各地域別の箇所数のみ発表し、報道機関の開示請求には所在地は市町名までとし、字名や地番は非公開だった。周辺住民には豪雨時などに避難を促すためとして情報を周知していた。(政治部・尾原崇也)
〈2023.3.3 あなたの静岡新聞〉
 

熱海土石流後に総点検 被害の可能性ある「危険渓流」に9カ所

 熱海土石流後の盛り土総点検で判明した静岡県内の不適切盛り土196カ所のうち、少なくとも9カ所(熱海を含む)が、下流の人家に被害の及ぶ危険性がある「土石流危険渓流」に造成されていたことが23日、県への取材で分かった。このうち7カ所は、熱海と同様に砂防法の盛り土規制区域「砂防指定地」に指定されていない土石流危険渓流で、下流域の人家を守る目的のある砂防法とは異なる法令で対応していた。

県内の不適切盛り土196カ所
県内の不適切盛り土196カ所
 県が不適切盛り土196カ所の中で危険度の高い上位30カ所に絞って調べたところ、砂防指定地に指定されていない土石流危険渓流が7カ所あった。いずれの場所も、元々崩れやすい地質で急勾配の沢などに人為的に盛り土が造成されたことになる。土石流危険渓流は砂防指定地の指定基準に該当し、国は砂防指定地に含めるよう都道府県に繰り返し促していた。
 一方、砂防指定地に指定された土石流危険渓流は、県警が造成業者への捜査に今月着手した静岡市葵区杉尾地区など2カ所だった。
 砂防指定地でない土石流危険渓流の箇所数は今後の残り166カ所の追加調査で増える可能性がある。県砂防課は「2月中に調査を完了し、砂防法としての対応を検討したい」とコメントした。
 2021年7月の熱海土石流で崩落した盛り土が土石流危険渓流に造成されたことは22年5月に本紙が報じた。県は盛り土総点検を21年8月から同年12月にかけて実施したが、不適切盛り土の造成地が土石流危険渓流に該当するか調べていなかった。

 土石流危険渓流と砂防指定地 地盤の勾配が2度以上で下流に人家や公共施設がある沢などは自然の土砂だけで土石流が発生しやすく、土石流危険渓流と都道府県が定めている。土石流危険渓流の出口付近には、下流の人家を守るために砂防ダムが設けられる場合が多い。ダム上流域は原則として砂防指定地にするように都道府県に求められていて、盛り土などで土砂を余計に発生させる行為を規制し、砂防ダムの機能を確保している。
〈2023.1.24 あなたの静岡新聞〉

静岡県 当初は場所黒塗り非公表 所有者特定、訴訟懸念を理由に

 熱海土石流後の盛り土総点検で判明した静岡県内の不適切な盛り土196カ所に関し、静岡新聞社が具体的な場所の情報を開示するよう県に求めたところ、県は16日までに、「土地所有者が特定される」ことを理由に非公表とした。所有者や開発業者から訴訟を起こされる恐れもあるとするが、熱海土石流では盛り土の存在が下流域の住民に事前に知らされず、逃げ遅れた27人と関連死1人の犠牲につながった。国土交通省は「自治体には公表をお願いしている」としている。

県が具体的な場所を黒塗りにして提示した「不適切な盛り土」の一覧表。土地所有者が特定されることを理由に挙げた(右上)
県が具体的な場所を黒塗りにして提示した「不適切な盛り土」の一覧表。土地所有者が特定されることを理由に挙げた(右上)

 盛り土総点検は一昨年の土石流後に全国で実施。本県は排水施設の不備や届け出と異なる造成などの盛り土が196カ所あるとし、関係法令別と地域別(東中西部と伊豆)の箇所数を発表したが、個別の場所や危険度の評価、是正状況などを公表していない。

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 本紙の請求に対し、県は不適切盛り土の一覧表を開示したものの、盛り土の所在地を市町名までしか示さず、字名や地番を黒塗りにして伏せた。県盛土対策課の担当者は「公表基準を現時点で整備していない。今後、検討したい」と説明している。
 県によると、緊急性のある盛り土の場所は市町が地元自治会などに周知したという。ただ、徹底されているかは不明で、どのように緊急性を判断したのかも示していない。
 国交省の吉田信博参事官(宅地・盛土防災担当)は取材に「公表しても法的に問題はない。住民避難に役立つなど、個人情報を出すだけの公益性があると自治体が判断するかどうかだ」と述べた。(社会部・大橋弘典)

「大規模造成地」は地図掲載 静岡県内市町 対応に矛盾

 同じ盛り土でも、一定規模以上など国の要件に当てはまる「大規模盛土造成地」は地震対策として全国的に公表済みだ。造成地のある県内の市町は具体的な場所を地図上に掲載して各市町のホームページで明らかにしている。業者などから訴訟を起こされた事例は確認されていない。
 法令に抵触する可能性がある「不適切な盛り土」に関しては、県が訴訟リスクを理由に非公表としたが、対応の矛盾が浮き彫りになっている。
 大規模盛土造成地を公表する静岡市の担当者は取材に「違法性はなく、危険であることを示しているのではない」と断った上で「今のところ公表の弊害はない。今後、経年劣化の状況や耐震性などを調査して結果を発信したい」と答えた。

公表は是正の促進・誘導につながる  元県危機管理監の岩田孝仁静岡大防災総合センター特任教授の話 付近の住民に場所を周知しているのなら、土地所有者の個人情報を理由に非公表とする県の対応はおかしくないか。公表すれば、住民が自発的に避難する際の判断材料になるほか、所有者に対し不適切な盛り土の是正を促進・誘導することにもつながる。熱海土石流が発生した本県は全国に先駆け、率先して公表すべき立場にある。
〈2023.2.27 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞