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静岡市の山間地 巨大盛り土巡る問題 行政の対応鈍さ露呈

 静岡市葵区の中山間地2カ所に土砂災害の危険性がある巨大な盛り土が造られていた問題で、静岡県が存在を知った後も造成業者に対し、撤去命令を出していなかったことが分かりました。これまでの取材で、熱海市伊豆山に造成された盛り土の5倍を超える大きさであることや、人的被害の及ぶ可能性の高い渓流地域に造成されていたことも明らかになりました。なぜ県の対応は後手に回ってしまったのでしょうか。問題の経緯を1ページでまとめます。

土砂投棄、県が17年「放置」 なぜ撤去命令を出さない? 

 静岡市葵区の藁科川上流域で砂防法の規制区域「砂防指定地」に無許可の巨大盛り土が造成されていた問題で、県が存在を知った2005年以降、17年間にわたって土砂の撤去命令を造成業者に出していなかったことが13日までの県への取材で分かった。盛り土崩落で28人が死亡・行方不明になった熱海市の土石流でも県は砂防法の対応を放置していて、土砂災害を防ぐ役割を担う砂防担当者の開発に対する警戒感の鈍さが浮き彫りになった。

県警が実測調査を行った日向地区の盛り土現場=1月中旬、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
県警が実測調査を行った日向地区の盛り土現場=1月中旬、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 静岡市の市街地から約20キロ離れ、川根本町との境界に程近い静かな山あい。県警による今月中旬の実測調査では、捜査員が急斜面に造成された広大な開発地で写真を撮影したり、面積を測量したりする様子が見られた。

代執行に二の足か
 同じ業者が造成した藁科川上流域の盛り土2カ所のうち、日向地区の巨大盛り土は住民の通報をきっかけに県が05年6月、無許可の土砂投棄を確認した。県によると、06年1月に業者に文書で土砂の撤去を指導したが、業者側は「自分の土地に土砂を捨てて、なぜ許可が必要なのか」と許可申請を出さなかった。
 県はその後、口頭でも指導したとしているが、強制力のある命令は出さず、業者による土砂の搬入は止まらなかった。熱海土石流後に指導を再開したが、命令は発出されず土砂は撤去されていない。対応を放置した理由について県河川砂防管理課は「分からない」とし、関係職員への聴取も予定していない。ある県幹部は「命令を出せば、土砂の撤去費用に多額の税金投入が想定される行政代執行が視野に入り、二の足を踏んだのではないか」と推し量る。

独自解釈で運用?
 砂防法は急勾配に堆積した土砂の流出によって土石流が発生するのを防ぎ、下流側の人家を守る法律。熱海土石流が起きた逢初川上流域は危険度の高い「土石流危険渓流」で国から同法の適用を求められていたが、県は規制力の弱い他の法令で対応して土石流を防げなかった。
 盛り土への県の対応は、なぜ鈍いのか。杉本敏彦砂防課長は昨年6月の県議会で「(砂防法は)自然現象に対応する法律。盛り土という人工物の土砂流出に関しては開発行為を規制する他の法令で対応すべきだった」と答弁した。出先機関の担当職員も「砂防法で対応するのはあくまで自然土砂という意識が強かった」と明かす。しかし、国は盛り土などの開発行為は砂防法の規制対象になり得るとの見解を示していて、県が独自の法解釈で運用していた疑いが出ている。
 〈2023.1.14 あなたの静岡新聞〉

静岡市、中山間地2カ所に確認 市、具体策講じず

土砂災害の危険性がある盛り土=静岡市葵区杉尾、日向両地区
土砂災害の危険性がある盛り土=静岡市葵区杉尾、日向両地区
 ※2022年10月14日 あなたの静岡新聞から
 静岡市葵区の中山間地の杉尾、日向両地区で土砂災害の危険性がある盛り土が造成されていることが(2022年10月)13日、市への取材で分かった。市は県と情報を共有し、県の現地調査を待つ姿勢で、盛り土や造成業者への具体的な対応策は打ち出していない。県は県砂防指定地管理条例で定めた地域内への無許可造成と判断。年内に安定性などを確認する現地調査を終えたいとしている。
 市治山林道課によると、杉尾地区の盛り土は2019年2月ごろに把握した。森林法に基づき1ヘクタール以下の森林伐採は市への届け出が必要で、届け出がない場合は業者を指導することになる。
 盛り土を造成した地元の業者は現在も届け出をしていない。一方で市は盛り土の現場は農地と森林が混在し、伐採部分の位置と面積が確定していないとして「指導するに当たっての根拠がない」(同課)と説明。登記上の公図と県の森林地図が符合せず「現場の確定作業に時間を要している」と釈明する。
 日向地区の盛り土は同じ業者が造成し、市は04年ごろ確認した。同課によると、業者は当初、森林法に基づく届け出をせず、06年までに市の指導を受け届け出た。その後、林地開発許可を必要とする1ヘクタール超の開発行為をした可能性がある。同課は杉尾地区と同様に、現場の状況が未確定だとの理由で具体策を講じていない。
 両地区の盛り土を巡っては、県は市からの通報で現地を確認し、19年11月に文書で業者に盛り土の中止を指導した。ただ、盛り土は違法状態のまま改善されず、21年10月に応急措置を求め、同11月に完了した。9月の台風15号で盛り土の一部が崩れたため、追加の応急措置を求めた。
 市は両地区とも独自の現地調査はせず「県の調査結果を基に早期の対応をしたい」(同課)としている。
 ※内容は当時のまま

規模は熱海市伊豆山の5倍超 静岡県警、造成業者への捜査着手

 藁科川上流域の静岡市葵区杉尾、日向両地区で土砂災害の危険性がある巨大な盛り土が造られていた問題で、静岡県警は13日までに、砂防法の規制区域「砂防指定地」に無許可で土地改変行為をした疑いがあるとして、造成業者への捜査に着手した。県砂防指定地管理条例など砂防法関連の法令違反の摘発を視野に現地の実測調査や業者への聴取を進めている。捜査関係者への取材で分かった。

「砂防指定地」に造成された巨大な盛り土。写真手前が日向地区で、奥が杉尾地区=1月中旬、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
「砂防指定地」に造成された巨大な盛り土。写真手前が日向地区で、奥が杉尾地区=1月中旬、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 県警は今月中旬、造成などをした疑いのある業者の立ち会いの下、現地で実測を行い、改変面積を確定する作業を進めた。県や静岡市の職員も県警の要請を受けて一部作業に加わった。杉尾地区の盛り土は国道362号沿いの休憩所の裏側にある崖斜面に広がり、森林伐採された中に残土が段々状に形成されていた。計測にはドローンなども活用した。
 捜査関係者によると、砂防法関連の法令違反による摘発は県警では前例がないという。搬入や造成行為は2022年にも確認されているが、県は現在までに撤去命令を出していない。県警は盛り土の状況や土砂の運搬・搬入手口を正確に把握し、適用できる法令などを判断した上で、業者の責任を追及するとみられる。
 関係者によると、土地改変で造成された広さは概算で日向地区が約6万平方メートル、杉尾地区は約2万平方メートル。土砂量は日向が約37万立方メートル、杉尾は約5万立方メートルで、合わせると熱海市伊豆山に造成された盛り土の5倍超になる。県内の同一業者が、自ら所有する土地に長年土砂を搬入し続けたとみられ、全国的にみても最大級の規模になる可能性が高い。
 県は21年7月に起きた伊豆山の大規模土石流を受け、同8月~22年3月に県内の盛り土総点検を実施した。伊豆山で崩れ残っている盛り土に次いで緊急性の高い盛り土として抽出した7カ所に、静岡市葵区の2カ所を含めている。
 〈2023.1.14 あなたの静岡新聞〉

杉尾地区の盛り土造成地 熱海と同じ「土石流危険渓流」だった

 静岡県警が砂防法関連の法令違反容疑で捜査に着手した藁科川上流域の静岡市葵区杉尾地区の巨大な盛り土(残土処分場)が、人的被害の及ぶ危険性の高い「土石流危険渓流」に造成されていたことが16日までの静岡県などへの取材で分かった。県は造成業者が防災工事に対応しているとして盛り土の撤去命令を出していない。2021年7月に起きた熱海市の土石流では同様の理由で土石流危険渓流の盛り土を撤去させず、大惨事を防げなかった。

土石流危険渓流に造成された杉尾地区の盛り土=1月中旬、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
土石流危険渓流に造成された杉尾地区の盛り土=1月中旬、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 静岡県によると、杉尾の盛り土は19年2月、静岡市からの通報で発覚。19年11月に文書で原状回復を求める指導をしたが業者は応じず、残土の搬入が続いた。22年5月にも文書で是正措置を要請したが、残土を撤去する動きはなかった。
 ただ、県は「業者は応急的な防災工事を実施済みで、恒久的な防災工事にも対応しようとしている」として強制力のある撤去命令を出していない。下流側には人家があり、流出土砂の堆積が予想される「土石流危険区域」にも設定されている。
 熱海の場合、業者側が防災工事に応じたとして行政が土石流危険渓流の盛り土を撤去させなかった結果、約10年後に上流域の盛り土崩落に伴う土石流で下流域の28人が死亡・行方不明になった。
 県は熱海土石流後の盛り土総点検で不適切な盛り土を県内196カ所で確認しているが、このうち土石流危険渓流に何カ所あるのかは公表していない。

 <メモ>土石流危険渓流 勾配3度以上で土石流発生の危険があり、下流に人家や公共施設のある沢などを都道府県が調査して定める。住民への危険性の周知が目的だが、国は砂防法の規制区域「砂防指定地」に含めるよう都道府県に促している。1966年に梅ケ島(静岡市葵区)や山梨県で発生した土石流をきっかけに全国調査が行われ、75年に起きた青森県岩木山の土石流などを受けて調査が進んだ。
 〈2023.1.17 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞