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コロナ/インフル同時流行 医療現場に高まる警戒感

 新型コロナウイルスの流行第7波は沈静化しましたが、医療現場には今冬のインフルエンザとの同時流行、第8波を懸念する声があります。感染爆発が起これば、再び医療現場に危機的な状況をもたらす恐れがあります。政府も相次いで同時流行対策を打ち出しています。医療現場からのアドバイスや政府などの直近の動きを1ページにまとめました。

小児救急の逼迫懸念 両ワクチン「早め接種 検討を」

 新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行の可能性が指摘されるこの冬、医療関係者が小児救急のさらなる逼迫(ひっぱく)を懸念している。コロナが単独で流行した今夏に「災害時並み」の医療現場を経験したためだ。小児が救急医療にかかれなくなる事態の備えとして、ワクチンの重症化予防効果に期待する。24日から接種が始まる生後6カ月~4歳のコロナワクチンも念頭に「インフルエンザワクチンとともに早期接種の検討を」と訴える。

救急外来が逼迫した第7波の様子を振り返る荘司貴代医師=静岡市葵区の県立こども病院
救急外来が逼迫した第7波の様子を振り返る荘司貴代医師=静岡市葵区の県立こども病院
 医師によると、コロナもインフルエンザもほとんどは薬を飲まなくても自然に治る。一方、新規感染者が急増した夏場のコロナ第7波では、夜間休日の救急外来に軽症者の受診や問い合わせが殺到。医療従事者の欠勤も相次いだ。
 「職員は不足し、患者は次々訪れ、災害時のようだった」。重篤な患者を診る「3次救急」の機能を持つ県立こども病院(静岡市葵区)の荘司貴代感染対策室長が振り返る。同院では8月、約30人が欠勤する日が2週間ほど続いた。例年のインフルエンザ流行時でも欠勤は1日あたり数人で、人繰りは困難を極めた。一方、夜間休日の受診者と救急搬送者の合計は2020年の2・2倍、21年の1・4倍に上った。
 県内の病院では、入院が必要な子どもをすぐに入院させられない事例が発生した。荘司室長は「コロナ感染で入院治療を受ける小児はワクチン未接種者が多い。5~11歳のワクチンはオミクロン株流行期の入院を68%減らした報告がある」とし、冬場を前にした接種を呼びかける。
 ただ、小児科医の間では、救急の逼迫はコロナを他の病気と分けて診察しなければならないなど、コロナの扱いにも起因するとの見方が根強い。「重症化しにくい子どもが接種する意義を感じない」との意見もある。
 県は生後6カ月以上のコロナワクチンとインフルエンザワクチンの接種をともに推奨する。その上で後藤幹生健康福祉部参事は「県が勧める『受診相談の目安』に当てはまらなければ、時間外受診を控えてほしい」と話した。
 〈2022.10.24 あなたの静岡新聞〉

インフルは今季流行必至 ワクチン、重症化防ぐ効果

​ 新型コロナウイルスは変異を繰り返して性質が変わってきた。今年流行が続くオミクロン株は高熱やのどの痛みを訴える子が目立つ。インフルエンザと見分けがつきにくくなってきた。

宮入烈・浜松医科大教授
宮入烈・浜松医科大教授
 従来株と比べ、15歳以下の発熱と熱性けいれんの頻度が高いとの報告もある。日本小児科学会の今年1~2月の調べでは、感染者の8割に発熱が、1~4歳の9.4%、5~11歳の3.5%に熱性けいれんがみられた。
 県内では9歳以下の4人に1人、10代の5人に1人がすでにオミクロン株に感染した。いずれはほとんどの県民が感染し、「新型」だったウイルスが風邪と同じ扱いになっていくと期待される。
 インフルエンザは例年、11月から翌年3月にかけて流行するが、過去2年間は感染対策が徹底され、流行しなかった。水際対策も緩和された今季、流行は必至とみられる。流行のピークで感染すれば、救急医療を受けられなくなるかもしれない。コロナもインフルもワクチンは重症化を防ぐ効果があり、早めの接種を勧める。
 〈2022.10.24 あなたの静岡新聞〉

インフルワクチン 新型コロナと同時接種も可能

 インフルエンザワクチンの接種が10月から始まった。今シーズンから希望すれば新型コロナウイルスワクチンとの同時接種も受けられる。この冬は新型コロナとの同時流行が起こる恐れがあると国の有識者会議などで指摘されており、日本感染症学会も積極的な接種を呼びかけている。感染拡大に備え、過去最多のインフルエンザワクチンが医療機関に出回る見通し。

 9月20日から新型コロナのオミクロン株対応ワクチンの接種が始まったが、厚生労働省は同じタイミングで受けてよいとしている。どちらかを先に受けた場合も特定の間隔を空ける必要はない。

今冬の同時流行「先手準備必要」 政府対策会議で首相

 政府は13日、この冬の新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行対策を検討する会議を開き、日本医師会や日本感染症学会、全国知事会などのメンバーと流行時の診療体制などについて意見を交わした。岸田文雄首相は会議で「先手先手の準備が必要だ」と述べ、ワクチン接種など保健医療体制のさらなる拡充を進めると強調した。
 新型コロナの流行が始まって以降、インフルエンザは世界的に低水準だった。だが今年は6~7月ごろに南半球で流行があったことから、日本でも冬場の拡大が懸念されている。
 同時流行対策は12日に開かれた厚生労働省の専門家組織会合でも議論された。
 〈2022.10.13 あなたの静岡新聞から〉


政府対処方針に不安も 医療現場、懸念拭えず

第7波で通常診療や検査に追われた医療機関。インフルエンザとの同時流行に備えは欠かせない=19日、静岡市葵区
第7波で通常診療や検査に追われた医療機関。インフルエンザとの同時流行に備えは欠かせない=19日、静岡市葵区
 「医療にかかれない人が出かねない」
 静岡市葵区の鈴木研一郎医師は、新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行が起きた際に採用するとして政府が公表した対処方針に不安を隠さない。
 内容は発熱外来やかかりつけ医の受診を高齢者や妊婦ら重症化リスクの高い人に優先。それ以外の人はまずキットでコロナを自主検査し、陰性ならオンライン診療などでインフルエンザかどうか診断してもらう。
 これに鈴木医師は「(いつでもどこでも受診できる)医療のフリーアクセスに制限をかけ、患者自身にリスクを判断させる流れだ」と手厳しい。オンライン診療の手法を含め「別の重大な疾患を見落とす恐れがある」と危惧する。
 感染爆発となった新型コロナ第7波は発熱外来が逼迫(ひっぱく)し、多くの診療所が忙殺された。国は9月末、発生届の提出方法を簡略化し、医療機関の負担を軽減。今回の政府方針も医療逼迫を回避するため、受診の交通整理を示した。
 県健康福祉部の後藤幹生参事は、対策がコロナとインフルエンザの対応のみにほぼ限定され、「他の発熱する疾患を無視したやや乱暴な設定だ」と鈴木医師と同様、実効性を疑問視する。導入のタイミングなど現時点で不明な点も多い。小学生以下は受診の「優先枠」に入り、結局は第7波のように外来や救急に診察希望が殺到する懸念が拭えない。
 県はコロナとインフルエンザを同時に検査できるキットを12万個購入し、冬場に備える。政府方針で示されたオンライン診療はそもそも実践する診療所が少ないため、発熱外来の実施施設を増やすなど、あくまで対面診療できる環境整備も模索する。
 後藤参事はその上で「国はコロナの(感染症法上の)5類緩和を視野に入れたはずで、より本質部分で逼迫回避を図るべきだ」と述べ、「濃厚接触者の廃止」を提案する。
 感染症法で2類相当にあるコロナの濃厚接触者は自宅待機を強いられる一方、5類のインフルエンザには行動制限の概念がない。
 後藤参事は濃厚接触者の陽性率がさほど高くないデータも念頭に「社会を回すためにも、仮に家族に感染者が出た人はいつも以上に対策に注意しながら普段通り行動できるようにしていく時期では」と指摘。高齢者らと接する職種に限って濃厚接触者の扱いを当面残す私案も示した。
地域再生大賞