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東名あおり事故に判決 これまでの経緯は

 神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、一家4人が乗ったワゴン車があおり運転を受け、本線上で停車させられた上、後続車に追突された事故。両親が亡くなり、2人の娘がけがをするという痛ましい結果となりました。横浜地検で行われた差し戻し裁判員裁判で、被告(30)に懲役18年の判決が言い渡されました。差し戻しが判断された理由など、裁判の経緯を振り返ります。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・石岡美来〉

差し戻し審も危険運転認定 遺族安ど 裁判長期化に苦言も

 神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、あおり運転で停止させられたワゴン車にトラックが追突して静岡市清水区の一家4人が死傷した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた男(30)に対して6日、差し戻し前の一審判決と同様、懲役18年を言い渡した横浜地裁の差し戻し審判決。遺族は「裁判所はちゃんと判断してくれた」と静かに受け止めた。ただ、被告側が控訴する考えを示し、裁判はさらに長期化する見通しになった。

横浜地裁
横浜地裁
 静岡市清水区の男性=当時(45)=と妻=同(39)=が犠牲となり、娘2人がけがを負った。判決公判には男性の兄2人と妻の父親が足を運び、危険運転致死傷罪の成立を認めた裁判所の判断に耳を傾けた。
 差し戻し前の一審横浜地裁は18年、被告に懲役18年の判決を宣告した。しかし、19年の二審東京高裁判決は訴訟手続きに違法があったとして一審判決を破棄し、審理を差し戻した。
 1月に始まった差し戻し審でも地裁が公判手続きを誤り、遺族らへの証人尋問をやり直す事態が発生。公判日程が計画よりずれ込んだ。ある遺族は6日の判決公判終了後、量刑が変わらなかったことに安心した表情を見せつつ、これまでの裁判経過を踏まえ「(手続きに振り回され)被害者側は置き去りにされているように感じる」とこぼした。
 男性の親友(50)は事故から丸5年となった5日、友人と墓参りをし、「明日判決だね」と語りかけながら念入りに清掃した。差し戻し審判決の一報を受け「どんな判決だろうと(夫婦は)戻ってこないが、心から存在が消えることはない」と改めて強調。あおり運転が世の中から少しでもなくなることを願った。

 ■被告、遺族に謝罪なく
 被告の男(30)は6日の判決公判に黒色のスーツに青色のネクタイ姿で出廷した。開廷前はリラックスした様子も見受けられたが、主文を告げられた際は微動だにしなかった。
 判決文の読み上げは約1時間続いた。弁護側の主張が否定されていくと、首を回したり首筋を手でかいたりするしぐさを見せた。一方、法廷の遺族に謝罪する場面はなかった。
 一審ではあおり運転の事実をおおむね認め、遺族への謝罪の言葉を口にしていたが、今回の差し戻し審では「事故になるような危険な運転はしていません」と繰り返していた。
 閉廷後、報道陣の取材に応じた高野隆弁護士によると、被告は判決に「おかしい。証拠を理解してくれていない」と不満を述べたという。
〈2022.6.7 あなたの静岡新聞〉

どうして差し戻し? 審理手続きに違法な点

 ※2019年12月6日 静岡新聞夕刊から
 神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、あおり運転を受けた静岡市清水区の夫婦が死亡した事故で自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた無職の被告(27)の控訴審判決で、東京高裁は6日(※2019年12月)、懲役18年とした一審裁判員裁判判決を破棄し、横浜地裁に審理を差し戻した。一審に続き危険運転致死傷罪の成立を認めたが、審理手続きに違法な点があったと判断した。
 事故は17年6月5日夜に発生。被告は同区の男性=当時(45)=一家のワゴン車にあおり運転を繰り返し、ワゴン車の前で停車した。追い越し車線上に止められたワゴン車に後続の大型トラックが追突し、男性と妻=当時(39)=が死亡、同乗の娘2人も負傷した。
  一審判決は、被告の停車行為自体は危険運転に当たらないが、「直前のあおり運転と密接に関連している」と判断。追突事故を誘発したとして、あおり運転と死亡の因果関係を認めた。
  高裁の朝山芳史裁判長は、この一審判断に誤りはないとした一方、横浜地裁が公判前整理手続きで、危険運転致死傷罪は成立しないとの見解を表明したのに、見解を変更して成立を認めたのは「被告や弁護側に対する不意打ちだ。判決に影響を及ぼす違法な手続きだった」と批判した。
  差し戻し審では危険運転致死傷罪の成立もあり得ることを前提とした主張立証の機会を設けた上で「改めて裁判員裁判で審理を尽くすのが相当だ」と述べた。
  控訴審で弁護側は、一審判決は法を拡大解釈していると主張。「夫婦死亡との因果関係があるのは停車行為だけで、同罪の適用は誤りだ」としたほか、審理手続きの違法性も訴えていた。検察側は控訴棄却を求めていた。

量刑変更の可能性も 遺族に募った不安

事故で亡くなった息子夫婦の写真を手に差し戻し審への思いを語る母親=13日、静岡市清水区
事故で亡くなった息子夫婦の写真を手に差し戻し審への思いを語る母親=13日、静岡市清水区
 ※2022年1月18日 静岡新聞夕刊から
 神奈川県大井町の東名高速道路で2017年、あおり運転を受けて本線上で停車させられ、後続車に追突されて静岡市清水区の一家4人が死傷した事故を巡り、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪などに問われた無職の男(30)の差し戻し裁判員裁判が27日、横浜地裁で始まる。改めて審理が一からやり直され、懲役18年を言い渡した差し戻し前の地裁判決と量刑判断が変わることもあり得る。
 「(法廷へ)行きたくないなぁと思うこともあるけれど、行かないと(亡くなった息子夫婦に)申し訳ないなぁと思う」。事故で死亡した男性=当時(45)=の母親(81)は差し戻し裁判員裁判の初公判を前に、率直な思いを口にした。被害者参加制度を使い、審理の行方を直接見つめる。
 事故は17年6月5日の夜に発生した。直前のパーキングエリアで男性から駐車方法を注意された被告が腹を立て、男性一家のワゴン車にあおり運転を繰り返した。追い越し車線上に止めさせられたワゴン車に後続の大型トラックが追突し、男性と妻=同(39)=が死亡。同乗していた娘2人が負傷した。
 18年の横浜地裁判決は、あおり運転と死亡の因果関係を認め、危険運転致死傷罪が成立するとした。19年の二審東京高裁判決も同罪の成立を認めた一方、地裁が公判前整理手続きで「危険運転致死傷罪は成立しない」との見解を表明したのに、最終的に変更したのは「被告への不意打ち。防御の機会を失わせ、判決に影響を及ぼす違法な手続き」として一審判決を破棄し、審理を地裁に差し戻した。
 母親は、今も息子夫婦が亡くなった実感が全くないという。「何で生きて帰ってくれないっけかなぁ」との思いが募る。一審、二審と法廷に通った。被告は事故直前のパーキングエリアで、駐車場に空きがあるのに路上に車を止めていた。「何であんなところに止めていたのか。あそこにさえ止まっていなければ…と思う。反省しているように見えなかった」。悔しさが消えることはない。
地域再生大賞