知っとこ 旬な話題を深堀り、分かりやすく。静岡の今がよく見えてきます

街の空洞化防げ かけがわランド・バンクの取り組み

 静岡県内のどこの市町でも人口減少が課題になっています。掛川市では、NPO法人「かけがわランド・バンク」が市と協力して市街地の空洞化対策に取り組んでいます。移住促進拠点やストリートテラスの設置など、ユニークな試みも。かけがわランド・バンクの取り組みをまとめました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・石岡美来〉

掛川城下に移住促進拠点 学生寮と簡易宿所を兼用、6月オープン

 掛川市と市街地空洞化対策に取り組む同市のNPO法人かけがわランド・バンクが6月、掛川城の城下に移住促進拠点「JOKA・BASE(ジョウカベース)」をオープンする。静岡理工科大の学生が居住する学生寮と観光客向け簡易宿所として活用し、交流人口の拡大を目指す。

JOKA・BASEのテラスで丸山勲理事長(左端)から説明を受ける学生=20日、掛川市城下
JOKA・BASEのテラスで丸山勲理事長(左端)から説明を受ける学生=20日、掛川市城下
 掛川城に近い3階建てビルの2、3階部分を改装した。2階はアトリエを併設した学生寮。建築を学ぶ学生3人が生活を始める。居住しながら内装に手を入れていく計画で、アイデアや学んだ知識、技術を実践する場としての側面も持たせる。
 入寮を予定する同大大学院理工学研究科2年の金子大海さん(23)ら3人は20日、JOKA・BASEに足を運び、居室の設備や手続きを確認した。金子さんは、板材がむき出しの壁に目をやり「思いつきですぐに手が付けられる状態。面白い時間を過ごせるはず」と新生活に期待を膨らませた。
 3階の簡易宿所は7月、試行的に旅館業を始める。グランドオープンは8月。観光客を受け入れるほか「お試し移住」にも対応し、移住ツアーなどの企画も検討している。
 同法人の丸山勲理事長(48)は「若者をまちに呼び込もうとしたのが出発点。空き家や空き店舗を学生の力で観光目的に転換していきたい」と、周辺に水平展開していく構想を描く。久保田崇市長は「学生のアイデアを取り入れながら改良していく。行く末が楽しみだ」と話した。
 事業には、企業版ふるさと納税の制度を活用した信金中央金庫(東京)からの寄付金を充当する。寄付は島田掛川信用金庫の推薦で実現した。
〈2022.5.23 あなたの静岡新聞〉

どのような人たち? 市と連携し空き家問題にも対応

 ※2018年10月12日の静岡新聞朝刊より

区役員が地元を定期的に巡回し、空き家になった住宅をリスト化している=掛川市葛ケ丘
区役員が地元を定期的に巡回し、空き家になった住宅をリスト化している=掛川市葛ケ丘
 空き家問題に多職種の専門家グループと市、地域が連携して取り組む珍しい試みが今年(2018年)、掛川市で始まった。市内の空き家率が全国平均を上回るペースで上昇する中、状況の把握から所有者との交渉、活用策の提案まで一体で進め、成果を挙げつつある。個人の複雑な事情が絡む空き家問題は行政主導だとこじれる場合がある。民間主導で解決を図る手法が新しいモデルになるか注目される。
  取り組みの中心は市内の1級建築士、弁護士、宅地建物取引士ら8職種の有資格者でつくるNPO法人かけがわランド・バンク(LB)。2月に市と協定を結び、市や地域、所有者からの相談に対応し始めた。既に空き家4件の除却に成功し、40件超の案件を手掛けている。
photo02
掛川市と全国平均の空き家率の推移
  除却はいずれも老朽化し、近隣に不安視されていた物件。解体資金がない、親族が売却に反対する、といった所有者の事情で放置され、市も打開策を見いだせずにいた。LBは親族や地主ら関係者を巻き込んで協議を重ね、土地活用策を提案するなどしながら話をまとめた。丸山勲理事長は「もつれた問題も専門家が分かりやすくほぐすと解決策が見えやすい」と話す。
  国が3年前に施行した空き家等対策特措法で、各市町は危険と見なした空き家について除却の代執行などの強制力を行使できる権限を得た。ただ、強制措置は手続きに時間がかかる上、所有者にも後味の悪さが残りがち。その点、ワンストップで話を進め、活用を見据えた解決を目指せるのがLBの強みで、この手法に他市町からの問い合わせも相次いでいるという。
  LBは地域と協力して空き家マップの作成にも取り組んでいる。放置期間が短いほど活用の選択肢は多く、解決しやすい傾向があるため、空き家を早期発見し、所有者に働きかけていく狙いがある。先行実施している同市葛ケ丘区は、区独自で約30軒ある空き家の情報をリスト化。所有者が戻る見込みのない物件は区で借りて集会に使ったり、近隣住民への貸し出しを持ちかけたりしている。
  国は15年後に全国の住宅の3戸に1戸が空き家になると予測している。現実になればまちづくりに深刻な影響が出る。個人の問題でなく地域の問題ととらえ、地域で有効な対策を模索していく必要があると感じる。
〈2018.10.12 静岡新聞朝刊〉

中心街ににぎわいを 若者の意見も積極的に取り入れ

 学生がデザインしたベンチなどのストリートファーニチャー(街路設備)を歩道などに置き、中心街を居心地の良い空間に変えようと、掛川市が本年度(2021年度)から社会実験を始めた。市から委託を受けたNPO法人かけがわランド・バンクが静岡理工科大と協力して実施している。若い柔軟な発想が街中の活気を取り戻す糸口になるか期待がかかる。

街路設備デザインを提案する鬼頭拓巳さん(右)=7月上旬、掛川市の大日本報徳社
街路設備デザインを提案する鬼頭拓巳さん(右)=7月上旬、掛川市の大日本報徳社
 利用者がベンチやテーブルなどを自由に組み立てられるよう棒と板を貸し出し、二宮金次郎がまきを背負うように持ち運んではどうか。7月5日に大日本報徳社で開かれたストリートファーニチャーのデザインコンペには独創的な作品が数多く出た。
 発表したのは同大の田井幹夫准教授の研究室で建築を学ぶ大学4年生と大学院生10人。最優秀賞に選ばれた4年の鬼頭拓巳さんは、「このまちをどうにかしたい。自分のアイデアが起爆剤となれば」と意欲を示した。
 審査員は家具デザイナーの藤江和子さんやテキスタイルデザイナーの安東陽子さんら7人。実用性や公共空間に合うかなど審査員それぞれの立場から評価した。今後、入賞作品のデザインで複数のベンチを作り、夏ごろから掛川城の三の丸広場や市道の歩道に点在させて人の流れを調査する。
 かけがわランド・バンクの丸山勲理事長(48)はベンチの周辺に屋台の出店も計画中。「学生の発想が新たなまちづくりのスタートになれば。結果につなげて、街中の活性化を図りたい」と社会実験への思いは強い。

photo02
本格運用を開始した、切り妻屋根をモチーフにしたベンチ=2021年11月、掛川市連雀
 「古地図に載っている店が今も数軒残るほど歴史があるが、店の数は最盛期の7分の1ほど」と話すのは連雀商店街振興組合の副理事長兼事務局長の小原栄一さん(74)。JR掛川駅前から掛川城まで中心街の空洞化は長年の課題で、将来像を描けない状態が続いている。
 城下町の風情は残したいが、にぎわいを取り戻すためには従来のやり方では突破口が開けない。小原さんは商店街の歴史や自身の思いを語った上で、「若い人の無鉄砲な発想はおもしろい」と型にはまらないデザインに期待を寄せる。
 市は国土交通省が募集する「ウォーカブル(歩きたくなる)推進都市」に参加していて、社会実験もその一環。久保田崇市長は「中心市街地のあり方を探る協議の場をつくりたい」との方針。街の未来像をどう描くか、社会実験をきっかけに市全体で考えたい。
〈2021.7.18 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞