日常へ一歩 心境複雑...熱海土石流の一部被災者が帰宅 依然避難続く住民思い

 熱海市伊豆山の大規模土石流で、被災者が身を寄せていた市内の熱海ニューフジヤホテルの貸し切り期間が終了した20日、立ち入りが可能な区域に住む一部被災者が帰宅した。「やっと戻ってこられた」。久しぶりに家に帰り、安堵(あんど)する一方で、家屋の流失や損壊、ライフラインの遮断などで避難生活が続く被災者をおもんぱかる声も。複雑な思いを抱えながら、日常生活の一歩を踏み出した。

自宅付近の立ち入り禁止地区を確認する住民=20日午後、熱海市伊豆山
自宅付近の立ち入り禁止地区を確認する住民=20日午後、熱海市伊豆山

 「やっぱりわが家はいい。だけど…」。立ち入り禁止区域から約300メートルの自宅に戻った漁業島久生さん(58)は言葉を詰まらせた。避難先のホテルでは今朝まで、土石流に家がのみ込まれた知人らと過ごしていた。「『悪いけど先に帰るね』と伝えるしかなかった。心の整理ができず、家で何をしようかまとまらない」と話す。
 市によると、同ホテルに避難していた被災者のうち約100人が帰宅し、約350人は別のホテルに滞在する。捜索活動の拠点やライフラインの復旧に時間を要する地域の住民は、いまだ自宅付近に立ち入ることができない。家族での避難生活が続く会社員小松紀代美さん(47)は「衣食住が守られていてありがたい。ただ、いつ家に帰れるのか分からず、精神的な疲れもある」と漏らす。
 帰宅できた住民も、通行規制や立ち入り禁止区域などの制限を余儀なくされ、被災前の日常が遠いことを痛感している。家族6人で家に戻った高橋富江さん(68)は、土煙を上げながら自宅近くを往来する緊急車両やトラックを見つめた。「復旧や捜索活動はまだ続いている。妨げにならないように生活しようと強く意識している」と話す。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞