オクタゴンブリューイング(浜松市中区)千葉恭広さん 運命変えた一冊の本 醸造家志しドイツへ【しずおかクラフトビール新世代①】

 小規模醸造所がつくるクラフトビールが人気を高めている。静岡県は20以上の醸造所がひしめく国内屈指のビール大国。近年醸造を始めたブリュワー(醸造家)を訪ね、それぞれの“ビール人生”をひもとく。

仕込んだビールの状態を確認する千葉恭広さん=4月、浜松市中区のオクタゴンブリューイング
仕込んだビールの状態を確認する千葉恭広さん=4月、浜松市中区のオクタゴンブリューイング
ジューシーフルーツ(左)とジャスミンエール
ジューシーフルーツ(左)とジャスミンエール
仕込んだビールの状態を確認する千葉恭広さん=4月、浜松市中区のオクタゴンブリューイング
ジューシーフルーツ(左)とジャスミンエール

  2018年1月に醸造を始めたオクタゴンブリューイング(浜松市中区)の醸造責任者千葉恭広さん(45)は、05年からドイツのミュンヘン工科大ビール醸造工学部で理論と実践を学んだ。
  出発点は1990年代半ばに出合った一冊の本だった。英国人ビール評論家のマイケル・ジャクソンが著した「地ビールの世界」。ウィートエールやトラピスト系など、多種多様なベルギーのビールを知った。
  当時住んでいた大阪府内の百貨店の地下食品売り場で、ジャクソンが紹介していたビールを買いあさった。「色、香り、味、アルコール度が全部違う。衝撃を受けた。大学で電子物性工学を専攻していたが、卒業後はビールの造り方を学ぼうと決めた」
  留学資金をため、2002年に渡独。ドイツ語を習得した後、大学に入った。「醸造作業の手の動かし方だけでなく、裏付けとなる理論、ビール造りに関する学術的なことをきちんと学べたのが収穫」。学内の醸造所や研究所で、16世紀に制定された「ビール純粋令」に基づく「水、麦芽、ホップ、酵母」だけを用いる造り方を吸収した。
  ビールが生活に密着する、欧州ならではの文化も目に焼き付けた。「『とりあえずビール』ではない。みんな、その日の気分で幅広いラインアップからビールを選ぶ。五感で感じられるビールの魅力が広く理解されている」。日本にもビール文化を広めたい。思いが募った。
  17年12月、オクタゴンブリューイングを運営する丸八不動産(浜松市中区)に、醸造責任者として迎えられた。300リットルの熟成タンクが5基。当初はアルコール度数が高めのIPAがつくりにくかったが、配管に工夫を施すなどして課題解消に努めた。
  これまで40種以上を醸造。天竜区の林業従事者の提案で香木を取り入れるなど、市民との交流から生まれたビールも多い。「自由な発想を現実化できるのがビールの良さ。醸造を通じて浜松の魅力を発信したい」
  (文化生活部・橋爪充)
 
 ■ジューシーフルーツ
 ■ジャスミンエール

 現在の定番3種の中で最初に完成したのがセッションIPAの「ジューシーフルーツ」。2018年夏、“クラフトビールの聖地”とされる米ポートランドの醸造所「カルミネーション・ブリューイング」の醸造担当者と共同開発した。浜松市の都田地区で採れたミカンの果汁を入れている。爽やかな香りを強調し、比較的軽い飲み口に仕上げた。
  「ジャスミンエール」は、18年秋の開発。乾燥させたジャスミンの花を麦汁煮沸の最終段階で投入している。口中にふわりと広がる香りが特徴。

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