非日常的なロケーションで多様な音楽 FUJI&SUN’24 32組熱演

photo03 富士山を背後に置いた「FUJI&SUN ’24」の「サンステージ」=5月11日、富士市の富士山こどもの国
 富士市の「富士山こどもの国」で11、12の両日、野外フェスティバル「FUJI&SUN’24」(実行委員会主催)が開かれ、大中小の3ステージに32組が出演した。初夏の光に恵まれた初日、高地らしいひんやりとした空気に包まれた2日目。富士山を見上げる非日常的なロケーションで、のべ6500人が多様な音楽を楽しんだ。
 フェスの幕開けを務めた「TOP DOCA&吉原祇園太鼓セッションズ」は、富士市の吉原地区の商店主や祭り仲間で結成したバンドに、DJのTOP DOCAがキーボードで加わった特別編成。「天気がいいですねえ」とリーダー内藤佑樹が第一声を放った。地元の「吉原祇園祭」で用いる太鼓や鉦(かね)を軸に、ファンキーなギターカッティングが「おはやしグルーブ」を先導した。シンガーのナツ・サマーを客演に迎え、シティポップ色が強い新曲も聴かせた。
photo03 TOP DOCA&吉原祇園太鼓セッションズ
 大ステージではトップバッターに大ベテランの「クレイジーケンバンド」が登場。ホーンセクション3人を含む9人と共に現れた横山剣は、「ランタン」を皮切りにソウルやファンクの要素が満載の楽曲を次々歌い上げた。ヒット曲「タイガー&ドラゴン」「GT」や最新アルバム「世界」収録のバングラビートを効かせた「観光」でたたみかけ、女性賛歌「VIVA女性」で締めた。
photo03 クレイジーケンバンド
 昨年に続く出演のシンガー・ソングライター優河はギタリスト岡田拓郎ら「魔法バンド」との共演。ともに音源を制作した「さざ波よ」「fifteen」など、米国ルーツ音楽の影響を感じさせる楽曲をゆったりとしたテンポで演奏した。昨年の同フェス出演後に作ったという「遠い朝」では「FUJI&SUNの景色と直結しています」と楽曲を紹介し、スーッと空間に溶け込む親密な歌声を軽やかなビートに乗せて届けた。
photo03 優河with魔法バンド ©FUJI&SUN ’24
 ブラジル人ギタリストのファビアーノ・ド・ナシメントは7弦のギターを操り、ドラマー石若駿と複雑なアンサンブルを構築した。ハーモニクスや開放弦を効果的に使い、石若とアイコンタクトしながら11拍子、7拍子の楽曲に濁りのない和音を響かせた。バロック音楽とサンバを混交したかのような楽曲に、フェスには珍しく客席から「ブラボー」の声が上がった。
photo03 ファビアーノ・ド・ナシメント(右)と石若駿
 同フェスではおなじみの原田郁子(クラムボン)と角銅真実によるユニット「くくく」は、究極のベッドルームミュージックの趣。ティーバッグを浸したカップを手にした原田のキーボードと角銅のマリンバを主体に、「あれあれ」「どこどこ」など旋律をまとったオノマトペがステージを飛び交った。
 初日夜はロックバンドが主役だった。3年ぶり出演の「くるり」は伊東市の「伊豆スタジオ」で録音した最新アルバム「感覚は道標」からの「In Your Life」「California Coconuts」を立て続けに演奏。「東京」「琥珀色の街、上海蟹の朝」「ばらの花」などフェス仕様のセットリストにフレンチジャズ風の「京都の大学生」を忍ばせ、ファンを喜ばせた。
photo03 くるり ©FUJI&SUN ’24
 Suchmosの河西洋介をフロントに据える5人組「Hedigan’s」は70年代ロック色が濃厚な骨太なサウンド。ルー・リードをほうふつとさせる河西のボーカルは、どこか投げやりな歌詞をダークなメロディーに乗せているにもかかわらず、色彩とつやが存分に感じられた。
 「never young beach」は「なんかさ」を皮切りに青春の蹉跌(さてつ)を描いた短編小説のような楽曲をテンポよく繰り出した。結成10周年記念の法被をまとったボーカルの安部勇磨は「フェスに出る時は大体昼間。暗い時間の照明に憧れていた」と語り、客席との交歓を楽しみながら笑顔でギターをかき鳴らした。
photo03 never young beach
 キャンプ泊の観客を対象にした石野卓球(静岡市出身)のDJは1時間半ノンストップ。心拍のような四つ打ちビートの上で巧妙に音を抜き差しし、徐々に景色が移り変わっていくような感覚を観客にもたらした。最終盤には自身が所属する「電気グルーヴ」の「富士山」を挿入し、喝采を浴びた。
    ◇
 2日目は、午前中に内外の新進バンドがオリジナリティーあふれるサウンドを競った。
 湘南エリアで結成した3人組「maya ongaku」はシーケンサーが紡ぐゆったりしたリズムの上で、ギターやベースがたゆたうように2コードを循環させた。ステージ背後の新緑が風に揺れる中、その美しさを増幅させる環境音楽として機能していた。
 インドネシアの2人組「KUNTARI」は2年連続出演。リーダーのテスラ・マナフは6弦ベースをコントローラーに使い、ダウンピッキングで硬質な音の「塊」を客席に投げつけた。高い音域にチューニングされたフロアタムやシンバルが、合いの手よろしく応答した。規則的な音階やリズムがなくても「音楽的な高揚」が生み出せることを実証した。
photo03 KUNTARI ©FUJI&SUN ’24
 東京のシンガー・ソングライターHIMIは、細く高く伸びる声を、響きに奥行きがあるギターに乗せた。1960年代の黒人音楽グループ「The Impressions」のカバー「People Get Ready」も披露し、聖歌のような3和音のコーラスが会場を優しく包み込んだ。
 午後のハイライトは、ステージをまたいだラッパーたちの連続出演だった。名古屋市が拠点のCampanellaは「プロペラみたいに回るベロ」を誇る歯切れのいいラップを見せつけた。3~4小節続くライムを息も切らさず歌いきり、ステージ前を埋めたヒップホップ好きの期待に応えた。
photo03 Campanella ©FUJI&SUN ’24
 Campanellaのステージに〝飛び入り〟した東京の鎮座DOPENESSは、続く自らのステージでもラッパーとしての高いスキルを発揮した。DJ機器を自分で操り、丁寧に曲紹介しつつステージを進行。客席を徘徊(はいかい)してラップする一幕もあり、見る者に強烈なインパクトを与えた。
photo03 鎮座DOPENESS(手前右) ©FUJI&SUN ’24
 三者三様の声質を持つ3人による「Dos Monos」は、トラックにギター2本とサックスの生音を混ぜ込み、混沌(こんとん)を増幅させた。ハードコアパンクやグラインドコアを想起させるスピード感あふれる音がステージに充満し、黒の上下に身を包んだメンバーがラップしながら暴れ回った。音源では大友良英が参加した「QUE GI」も披露し、ノイズの中に知的なリリックを埋め込んだ。
photo03 Dos Monos
 シンガー・ソングライターの柴田聡子は、ギターやキーボードの弾き語りで「Reebok」「素直」など、2月発表の新作アルバム「Your Favorite Things」の収録曲を次々演奏した。乾いたトーンのギターを奏でながら、複雑な起伏のメロディーをいともたやすく歌い上げる姿に、客席からため息が漏れた。
photo03 柴田聡子
 2日間の締めくくりを任されたのは、21年の出演時に続き森山直太朗だった。霧が立ちこめる中、「あっためて行きましょうね」と客席に声をかけ、ファルセットと地声を自在に操る高度な歌唱技術で一体感を生み出した。フィドル、チェロ、バンジョーが加わったバンドは、トラッドやニューオーリンズ音楽の色を強く打ち出し、祝祭の雰囲気を盛り上げた。「生きてることが辛いなら」の弾き語りが最終曲。感極まった観客から大きな拍手が湧き起こった。会場内にフェス終了を告げる音楽が流れ、ステージの解体作業が始まってもそれが長く続いた。
photo03 森山直太朗 ©FUJI&SUN ’24
(教育文化部・橋爪充)

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