【第2章】高校時代④ 2度目の1年生 執念の登校で“祝 進級”【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

 新型コロナ感染拡大とともに2020年4月、2度目の1年生が始まった。ネットによる遠隔授業は認められたものの、出席扱いにはなっていない。学校で授業を受けなければ、再び進級が危うくなることに変わりはなかった。病状は悪くなることはあっても、よくなることはない。県立磐田北高の寺田歩生[あゆみ]さんと家族は、背水の陣だった。

寺田歩生さんの成績通知票。がんは全身に転移し輸血もする状況だったが、学校に通って好成績を残し進級を果たした
寺田歩生さんの成績通知票。がんは全身に転移し輸血もする状況だったが、学校に通って好成績を残し進級を果たした

 歩生さんは、驚異的な頑張りを見せる。1学期は1日しか休まなかった。右足は既に失っている。肺だけでなく、腰や腎臓にも転移していた。2学期。右肺にうみがたまったり、腰への放射線治療が必要だったりして入院し、中間テストは初めて病院で受けた。痛みを抑えるための医療用麻薬や栄養を取り入れる高カロリー輸液の点滴も始めた。
 歩生さんは年末から元日にかけて貧血を起こした。1月2日、浜松医科大付属病院に駆け込み、輸血した。「右肺の病巣から出血したのではないか」と母有希子さん(54)。「右肺は機能していない。右肺のがんの塊が出血を起こすと、状態悪化がありうる」。国立がん研究センター(東京)の主治医荒川歩医師(44)から事前に言われていた。
 4日も輸血した。6日は3学期の始業式だった。歩生さんは松葉づえを突いて登校した。「行くのか」。信じられない様子の父に「卒業がかかっているから」と執念を見せた。3学期に欠席したのは2日だけ。「本当に行ってるの?」「好きなことして過ごしていいんだよ」。荒川医師から声をかけられるたびに、歩生さんは答えた。「学校、行っています」
 留年したことは、大半の同級生には伏せていた。聞かれた干支(えと)を正直に答えて同級生から不思議がられたり、同級生の前で、先輩になった元の同級生から親しげに声を掛けられて冷や汗をかいたり。エピソードがあるたびに家族で笑い合った。
 2021年3月19日付の成績通知票。国語総合や数学1、化学基礎など全14科目で必要単位を修得した。評定は5段階で4・5。クラス順位4位、学年順位275人中26位という優秀な成績を収めた。1学期に限れば学年順位は3位。「祝・進級!」。通信欄に担任の文字がある。晴れて2年生になることができた。
 「治療と違って勉強は頑張れば結果が出るし、周りも評価してくれる。お友達も『教えて』と頼りにしてくれる。歩生は助けられているけれど、助けることもできるって思ったんだと思う。勉強はあまり好きじゃなかったけど、楽しかったんじゃないかな」。母はそう考えている。

 <メモ> 寺田歩生さんが2度目の1年生の時の担任で、数学を教えた西橋大祐教諭(33)=現浜松特別支援学校=によると、テスト前の自習時、クラスの友達が、登校していた歩生さんのもとに解き方を聞きに行く姿がよくあった。学期末に各教科の教員が集まり生徒たちの成績や学習状況を振り返る際には、歩生さんの成績の良さが話題に上がった。歩生さんが遠隔で授業を受ける時は、スムーズに授業に臨めるよう事前に演習問題などのプリントを送ったという。
<続きを読む>第2章・高校時代⑤完 最後の成績通知 限界超え出席 証し刻む【青春を生きて 歩生が夢見た卒業】

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