【時評】被災地における選挙の実施 投票権担保に準備必要(河村和徳/東北大大学院情報科学研究科准教授)

 2024年1月1日に令和6年能登半島地震が発生し、続く余震の中、避難所生活を余儀なくされている方は数多くいる。そうした状況がある一方、東京のほうからは、4月の統一補欠選挙の状況次第で岸田文雄首相は解散をするのではないか、という話も聞こえてくる。

河村和徳氏
河村和徳氏

 能登半島地震の被災者が仮設住宅(みなし住宅を含む)に入居できない状況下で解散総選挙の話をするのは被災者に寄り添う話ではないし、被災地で公正な選挙を実施するにはそれなりの条件が整っている必要がある。
 被災地で公正な選挙を行うには、選挙管理委員会が選挙管理できる環境が整っていることと、投票弱者となった被災者に寄り添った投票環境がそろっている必要がある。被災地で公正な選挙が行える条件を挙げてみると、次の三つとなる。①有権者がきちんと把握でき、投票に関する事務手続きが可能な状況になっている、②被災した有権者への情報提供について選管が対応できる状況にある、③被災者が投票しやすい環境づくりを検討・実践する体制づくりもできている。阪神・淡路大震災や東日本大震災の際、法律によって被災地の選挙は延期されることになったが、それは先ほどの条件が短期的にはそろわないので、延期を正当化する法律をつくったということである。
 日本の盲点は、①である。日本は、有権者登録を選管が職権主義で行うため、一般の有権者は、有権者登録の重要性をあまり考えないからである。しかし大規模災害直後では、被害が大きいために有権者が住民票のある市町村の外へ広域避難をしてしまうことが多い。親戚や知人を頼って自治体の外に避難したり、自主的にアパートを借りて避難生活を送ったりしている被災者を把握することは難しいのである。最近話題のマイナンバーカードは、住民票のあるところは分かるが、避難先の居所は分からない。
 東日本大震災の被災自治体では、これがネックとなった。令和6年能登半島地震の被災者の中には、県庁所在地の金沢市よりも近い富山県高岡市に避難している者もいると聞く。同じ状況が生ずることは目に見えている。選挙実施のためには、被災者の居所把握が一つの鍵なのである。
 加えて、自然災害の被災者は、望まない形で投票弱者となってしまった者と言える。彼ら/彼女らは、政治に頼らざるをえない投票弱者と言い換えることもできる。東日本大震災の被災自治体は被災者の投票権を担保するために、避難所を巡回する期日前投票所を設置したり、投票所への移動支援を行ったりした。能登半島でもそうした対策をとる必要がある。しかし、これをするには一定の準備期間が必要であり、この準備期間も実は選挙実施を考える上でのポイントである。
 今回は能登半島での地震であったが、将来の首都直下地震や南海トラフ地震が起これば静岡も同じ道をたどることになる。能登半島地震は人ごとではない、という視点で考えてもらえればと思う。
(河村和徳/東北大大学院情報科学研究科准教授)

 かわむら・かずのり 1971年、焼津市出身。藤枝東高卒業後、慶応大、同大学院に進学。金沢大法学部助教授などを経て、2007年4月から現職。専門は政治学、日本政治論。21年1月から都道府県議会デジタル化専門委員会座長を務める。

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