命の道渋滞、救援阻む 緊急輸送路の強化急務【能登半島 最大震度7 静岡新聞社現地ルポ①】

 ひび割れや段差、陥没などで荒れた“悪路”に長蛇の車列ができていた―。最大震度7を観測した石川県能登半島地震では、甚大な被害を受けた奥能登地方と金沢市街地を結ぶ幹線道路が寸断されて被災地へのアクセスルートが限られた。被災地を救う「命の道」で深刻な交通渋滞が発生し、緊急車両の到着や物資輸送が滞る原因となった。
珠洲市や輪島市に向かう際の結節点となった穴水町を目指す車で渋滞する道路=8日、石川県七尾市
 「進出拠点の金沢市から17時間かけて珠洲市に入った」。静岡県緊急消防援助隊の第1陣として4日に現地入りした浜松市消防局中特別高度救助隊の松尾晋明隊長(44)は、発災当初の苦労を振り返った。平時の所要時間は2~3時間。東日本大震災や2015年のネパール地震でも現地で活動したが、今回は土砂で閉鎖された道路や隆起、陥没、液状化などが目立ち、大型の消防車両での通行は困難を極めたという。「進入が難しい道路状況を想定し、先遣隊は大型車ではなく機動力のある車両を選定するなどの対策が必要と感じた」
のと里山海道
 能登半島の交通の大動脈である自動車専用道路「のと里山海道」や、沿岸を囲むように通る国道249号が大規模崩落などで通行不能になった。迂回(うかい)路も破損が相次ぎ、数少ないアクセス道路に緊急車両や被災者の関係者、ボランティアなどの一般車両が全国から集中した。珠洲市や輪島市に向かう際の結節点となった穴水町や七尾市周辺では連日のように大渋滞が発生した。発生から1週間以上が経過してなお、片側交互通行も多く、誘導人員がいない場所では双方から車が進入して立ち往生する場面も見られた。
 石川県の馳浩知事は5日、救助活動や被災地支援を迅速に進めるため「民間ボランティアや個人的な通行は控えてほしい」と国民に呼びかけ、7日からは一部道路で一般車両の通行を規制した。しかし、今度は大雪に見舞われて道路状況は悪化。混雑解消は遠のいた。
 主要な幹線道路が限られる半島特有の特性や、山間部の迂回路が土砂崩れなどの被害を受けやすい道路事情は救助活動の困難も招いている。静岡県内でも伊豆半島や北遠地域などで同様のリスクが懸念され、緊急輸送路の強化が急がれる。
 対口(こう)支援先の穴水町で災害対応をサポートした県東部地域局の板坂孝司危機管理課長(54)は「高規格で耐震性のある道路が1本は必要」と、伊豆縦貫道の早期全線開通が鍵になると指摘。南海トラフ地震に備え、復旧活動の軸となる道路を起点に道路を啓開して緊急輸送路を確保する「くしの歯作戦」の再検証の必要性を強調した。
     ◇
 元日に発生した最大震度7の能登半島地震。被災地は今なお、2万人以上が避難生活を続け、ライフラインの復旧ができていない地域もある。被災地を歩き、南海トラフ地震でも対策が迫られる課題を追った。

 <メモ>静岡県は地震・津波対策アクションプログラムで、緊急輸送路の道路の拡幅やバイパス整備などの整備率80%を目標に掲げているが、2022年度末の実績は62.9%だった。輸送路上の要対策箇所の整備や、災害時の迂回(うかい)路となる農道の改良、林道の新設なども進めている。輸送路沿いのブロック塀は耐震改修を促進するため、建て替えや除却などで年間100件の助成を目指している。地震で倒壊して緊急輸送ルートをふさぐ恐れのある建物が静岡県内に300棟以上あるとの調査結果も23年1月に公表された。
 (社会部・中川琳、細江支局・大石真聖、写真部・小糸恵介が担当します)
 

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