社説(5月7日)コロナ5類移行 戻る日常、国民が判断

 政府は新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを8日から5類に移行する。結核などと並び原則として患者を隔離してきた医療対応は、季節性インフルエンザと同等の扱いになる。
 国は感染症対策本部を廃止し、新規感染者数や死者数の随時発表は行わない。特別措置法の適用外となり、緊急事態宣言やまん延防止の特別措置の発令はできなくなる。医療費は経過措置を経て、他の疾患と同様に患者の自己負担が生じる。
 厚生労働省は都道府県などと連携して医療提供体制の見直しを進めている。今後は地域の診療所が初診を担い、全病院の約9割が高度治療と入院を受け入れる見通し。

 新型コロナウイルスの医療対応は、法に基づく政府や自治体の手厚い関与から、国民の選択を尊重する仕組みへと変わる。約3年に及んだ対策は重大な転換点を迎えた。
 法適用の変更は、新型コロナウイルスが終息したからではない。毒性や感染力の変異、医療提供体制を総合的に判断した結果であり、抵抗力が弱い高齢者や重症化リスクの高い人への配慮は不可欠だ。日常生活をどのようにコロナ禍前に戻すのか、政府方針を踏まえ、国民一人一人が判断していくことになる。
 文部科学省は、学校でのマスク着用や給食での「黙食」は原則不要と全国の教育関係機関に通知した。平常の教育活動は戻るが、戸惑う保護者がいるだろう。社会生活のさまざまな場面でもコロナ対応への判断が分かれる可能性がある。ただ、マスク着用の可否や集団行動の在り方など、各家庭や個人の価値観を他人に押しつけてはならない。
 医師法は、医師が患者の診察治療の求めを正当な事由なく拒むことを禁止する。応召義務と称され、隔離措置を伴う新型コロナウイルスは応召義務の例外だった。厚労省は5類移行に当たり、コロナの罹患[りかん]やその疑いのみを理由とした診療拒否は「正当な事由」に該当しないと整理した。
 静岡県は、内科や小児科、耳鼻科など通常診療で発熱を伴う疾患への対応が見込まれる全医療機関を抽出し、新型コロナ患者に未対応だった施設に対応の可否を確認した。新たに39施設がコロナ患者に対応すると回答し、計1220になる見通し。
 やむを得ない事情でコロナ患者に対応できない医療機関が残るため、受診には事前の確認が必要だ。県はホームページの市区町別「発熱等診療医療機関」を8日以降修正し、広報する。

 政府と、対策本部に関与した感染症の専門家は5類移行を機に、国としてのコロナ対応を徹底検証すべきだ。
 政府対策は「社会経済活動の回復」と「感染拡大対策」の間で揺れ動いた。観光支援事業などを巡り、感染症対策の専門家が政府方針を事実上差配する発言が常態化した。政治家の責任放棄があったとの批判は免れない。
 一方、日本医師会が訴えてきた診療所と拠点病院が役割を分担する病診連携は一部地域で機能不全を露呈した。発熱外来を担う診療所が限られ、病院が軽症患者を診る事態が起こり、救急対応に支障が生じた。
 自己検証により医療提供体制を再構築する取り組みは、政府や自治体の危機管理対応全般を点検することにもつながり、意義深い。
 厚労省専門家組織の脇田隆字座長ら有志は、感染の流行第8波を上回る規模の第9波が起こり、他国より感染者数が多い状況で推移する可能性があると警戒を呼びかけた。根拠は、感染することで獲得し免疫機能で重要な役割を果たす抗体の保有率が諸外国に比べ低いためという。
 ただ、この見解によれば、予防策を徹底して感染を抑え込めば警戒すべき期間が長期化することにつながり、国民は戸惑う。感染の終息見通しを含め、政府は丁寧に説明する必要がある。

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