原発60年超運転了承 安全対策の検討先送り 規制委「時間かけ議論」

 原子力規制委員会は21日、原発の60年を超える長期運転を可能にする安全規制の見直し案を了承した。運転開始30年後からは、10年以内ごとに劣化状況を繰り返し確認する。原発を最大限活用する政府方針を追認する形で、東京電力福島第1原発事故を教訓に定められた規制制度を転換する。

記者会見で質問に答える原子力規制委の山中伸介委員長=21日午後、東京都港区
記者会見で質問に答える原子力規制委の山中伸介委員長=21日午後、東京都港区

 政府が年末に原発活用の具体的な方針を取りまとめる直前での了承。政府方針の後押しになりかねず、規制委の独立性にも疑問が生じかねない。
 山中伸介委員長は同日の会見で「詳細はこれから見ていく。設計の古さへの対応をどう盛り込むかなど、時間をかけて議論しなければならない」と述べた。60年超原発の安全性を確認する方法など具体的な検討は先送りする考えを示した。
 規制委は意見公募や電力会社との意見交換を経て、運転期間を「原則40年、最長60年」と定めた原子炉等規制法の改正案をまとめる。来年の通常国会への提出を目指す。
 国内の原発で運転60年を迎えるのは今後10年以上先になるため、山中氏は「少し時間的な余裕がある」と指摘。いつ検討を始めるかは「それほど遠い将来ではない」として明言を避けた。
 新制度案では、運転開始30年を迎える原発は、劣化管理の対応を明記する長期施設管理計画を策定し、規制委の認可を得るよう義務付ける。原発は停止中でもさまざまな設備の劣化が進むため、規制委は運転開始からの経過年数で評価する審査方法は維持する。
 60年までは、ほぼ従来通りの方法で評価する。60年超は設計の古さも課題になるため、必要な性能を満たすか最新知見を踏まえて確認する方針。

 ■浜岡地元は賛否 中電「影響注視」
 原子力規制委員会が原発の60年超運転を認める新たな規制制度案を了承したことについて、中部電力浜岡原発が立地する御前崎市では前向きな受け止めの一方、安全性への懸念や議論の不透明さを指摘する声も上がった。
 柳沢重夫市長は「安定したエネルギーを確保するために方針を切り替えたということだろう。市民の理解を得られるよう、国はしっかりと説明を尽くしてほしい」と話した。
 再稼働に向けて規制委による新規制基準適合性確認審査が続く3号機と4号機はそれぞれ、運転開始から35年と29年が経過。「原則40年、最長60年」の現行制度下で3号機は、今後5年の間に審査に合格しなければ廃炉になる可能性があった。
 新制度では未合格で40年を迎えても廃炉にはならず、再稼働と運転延長の二つの審査に合格すれば稼働ができるようになる。同市担当者は「税収面や雇用面で地元にとってプラス」と、“タイムリミット”をなくす方針を前向きに受け止める。
 一方、浜岡原発を考える会の伊藤実代表(81)は「規制委の方針は残念。(現行制度を定める契機となった)東京電力福島第1原発の事故が風化してしまうのではないか」と懸念する。自営業の福田伸次さん(59)は「これまでの議論を可視化してほしかった。もやもや感は残る」と率直な思いを口にする。
 中電は原発の安全性について「科学的、技術的な観点から個々のプラントごとに確認されることが望ましい」と主張。「規制委などの今後の検討を注視し、浜岡への影響を確認していく」とした。

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