リニア 先進ボーリング「突発湧水」認識隔たり 静岡県有識者会議とJR東海 

 静岡県庁で4日に開かれたリニア中央新幹線トンネル工事に伴う大井川水資源問題を協議する県有識者会議の地質構造・水資源専門部会は、JR東海が山梨県から静岡県との県境を越えて実施する方針を示している高速長尺先進ボーリングについて議論した。同社が静岡県境付近に確認されている破砕帯にボーリングが差しかかっても「静岡県内の地下水に影響を与える可能性は小さい」と説明したのに対し、委員は「突発湧水につながる」と懸念を示し、認識に隔たりがあった。

静岡県有識者会議の地質構造・水資源専門部会での主な意見
静岡県有識者会議の地質構造・水資源専門部会での主な意見

 JR東海は同ボーリングに伴い静岡県内で発生する湧水量について10メートル当たり毎秒50リットルの管理値を設定し、超えた場合はボーリングを中断するとしたが、塩坂邦雄委員(地質専門家)は「堆積岩からなる南アルプスの地質では前兆なく高圧湧水が出る」と懸念を示した。同社がボーリングで開けた穴にバルブを設置して湧水量を調整するとしたことについても「突発湧水は止められない」と指摘した。
 JR東海は湧水を県内に戻す方法として、田代ダム取水抑制案の活用などを検討するとしたが、森下祐一部会長(静岡大客員教授)はリアルタイムに近い形で水を戻す必要性を強調し、同案の実現可否などを引き続き協議することになった。
 森下部会長は静岡工区の工事が進んでいない中での先進ボーリングについて「今急いでやる必要はない」と改めて疑問を呈した。

 田代ダム案 「東電の意向確認を」
 県有識者会議の専門部会では、トンネル湧水の県外流出対策としてJR東海が示している東京電力田代ダム取水抑制案についても協議した。同社が試算した取水抑制量について東電側が受け入れ可能なのか意向確認する必要性が指摘された。
 JR東海は今回、東電から提供を受けた過去10年間の大井川流量データを基に、大井川への還元に利用可能な流量が最少となったケースでも、県外流出量と同じ量の還元量を確保できると説明した。
 ただ、今回の試算では、東電が河川流量が少なくなる冬場に発電機を回すために最低限必要な取水量を考慮した形跡がなく、県の石川英寛政策推進担当部長は会議終了後の取材に「どう議論するか確認する」と述べた。
 東電は11月30日に開かれた大井川水利流量調整協議会で、2台の発電機のうち1台のみの運転でも支障がないことが確認されたとして冬場の発電施設維持流量(毎秒1・62トン)を今後不要としたが、1台運転分の取水量は確保するとしている。
 田代ダム案は河川法に抵触しないとする政府見解を巡っては、国土交通省鉄道局の担当者が検討内容を明らかにせず、森貴志副知事が「政府責任者が明確でなく、水利権の問題が解決された感覚がない」と苦言を呈した。


 記者の目 JRはリスク説明が欠如
 山梨県から静岡県境を越えて実施する高速長尺先進ボーリングは工事か調査か、県側とJR東海の見解が分かれているが、「工事の一環」と捉えるのが自然だろう。先進ボーリングを「工事実施段階における取り組み」と説明してきたのはJRで、単独のボーリング調査とは明らかに異なる。
 今回の先進ボーリングについて「破砕帯の位置を推定すること」との説明は目的を示しているに過ぎず、リスクを語っていない。「トンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の流量は維持される」とした国土交通省専門家会議の中間報告の前提に立てば、専門部会でボーリングで発生する湧水の確実な戻し方を協議するのは当然だ。
 流域首長からは今回のJRの姿勢に理解を示すような発言が目立つが、湧水のリスクやその後のボーリングによる「水抜き」の可能性についての認識が足りないことが背景にあるのではないか。県と流域市町は綿密に意思疎通を図った方がいい。十分な議論のないまま、なし崩し的に県内の地下水流出につながる工事に入ってしまう可能性があることに、流域住民はもっと怒っていい。
 (政治部・尾原崇也)

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