医療機関機能分担に道筋 改正法案 動向を注視【8波に備える 新型コロナ㊤】

 8月23日。静岡県は新型コロナウイルス感染者に対応していない病院に対し、入院を受け入れるよう感染症法に基づく協力要請を行った。

コロナ対応を巡り揺れた医療機関。より効率的な医療提供体制の構築が急がれる=9月下旬、浜松市南区
コロナ対応を巡り揺れた医療機関。より効率的な医療提供体制の構築が急がれる=9月下旬、浜松市南区

 「やむを得ない措置だったと思う」
 浜松市南区にあるすずかけセントラル病院の西沢茂医師(同病院感染対策委員長)が振り返る。当時の県内は1日に7千人前後の新規感染者が発生し、受け入れ病院はどこも逼迫(ひっぱく)。救急外来や通常診療の維持も危ぶまれた。急性期から慢性期までを担うケアミックスの同病院は陽性者を受け入れないとしていた従来方針を転換し、入院時の検査などで陽性が判明した患者についてそのまま対応する決断をした。
 県によると、要請に応じた施設は62病院に上った。重点医療機関などと合わせると、県内170病院のうち、117病院が何らかの形でコロナに対応する「オール静岡」に近い態勢になった。
 一方で同病院の植田芳文事務部長は「一律の受け入れでなく、病院の機能に応じた役割分担こそ望ましい」と実感を込める。感染症の侵入は患者の生命をおびやかす問題。同病院は急性期病院に比べ看護師数も少なく、従事者に感染が広がれば病棟を回せなくなる。「当院は退院基準を満たした患者を診る後方病院の立場が妥当と考える」
 病院の機能分担はコロナ禍の初期から指摘されてきた課題だ。だが、行政が医療機関に指示命令できる仕組みはなく、ずっと体系化されずにきた。8月の入院対応の要請は、そうした状況下で感染爆発をしのごうと、県が病院協会などと膝詰めの協議の末に出した奥の手だった。
 開会中の臨時国会に提出された改正感染症法案は次の感染流行に備え、機能分担の実現に向けた中身が盛り込まれた。都道府県は医療機関の機能を踏まえ、病床、発熱外来、後方支援などを新たに設定した予防計画を策定し、医療機関と事前協定を締結する。ペナルティーも伴う。
 効率的な医療提供体制の構築にようやく道筋が見え始めた格好だ。ただ、感染症の毒性や流行の規模は明示されていない。
 鈴木宏幸県感染症対策担当部長は「現時点では改正案の概要が示されたレベル。体制整備にかかる経費負担の在り方を含め、関係者の理解を得て進める必要がある。絵に描いた餅にならないよう詳細を詰めてほしい」と法案の動向を注視する。
      ◇
 新型コロナウイルス第7波が沈静化した。過去最大の感染爆発は再び医療現場に危機的な状況をもたらした。インフルエンザとの同時流行が懸念される今冬の第8波、さらにその次への備えは。現場から課題を探った。

 ◇お断り 県は7月下旬以降の感染流行を「第8波」と表現していましたが、国に合わせ、4月以降を一括して「第7波」としました。静岡新聞社も同様の扱いとします。

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