しずおか連詩の会 11月3日~6日開催 参加5人が抱負

 「しずおか連詩の会」(県文化財団、県主催、静岡新聞社・静岡放送共催)が11月3~6日、静岡市駿河区で開かれる。23回目の今年は、3~5日の3日間で5人の詩人や作家、歌人らがリレー形式で40編を創作する。6日にグランシップで発表する。17回目の参加となる詩人の野村喜和夫さん(本紙読者文芸選者)がさばき手(まとめ役)を務め、作家でフランス文学者の堀江敏幸さん、細胞生物学者でもある詩人の田中庸介さん、若手歌人のホープ木下龍也さん、中原中也賞などに輝いた詩人の暁方ミセイさんが言葉を紡ぐ。参加する5人が抱負を寄せた。
 

細くも強い紐になる

photo01 作家 堀江敏幸さん     

 宗匠に声を掛けていただいたとき、その無謀さ、大胆さに驚きました。未経験者を支える人材はすでに揃[そろ]っているという確信があってのことでしょう。しかしそれだけでなく、連詩とは、詩作と縁のない者が含まれていても容易に崩れず、逆に弱い地盤から未知の力を引き出しうる場でもあるのだという、強い思いが伝わってきました。
 大岡信さんが実践された連詩の「うたげ」のなかで私にできるのは、見慣れた散文の中に埋もれている詩のかけらをひとつずつ拾いあげて、公の言葉に鍛え直すことだけです。持ち場の傷がなるべく目立たないように努めながら、受けて繋[つな]ぐための、細くてもきれない紐[ひも]に徹する所存です。

 ほりえ・としゆき 作家、フランス文学者。「おぱらぱん」「雪沼とその周辺」「河岸忘日抄」「なずな」「その姿の消し方」「音の糸」「曇天記」「定形外郵便」など著書多数。「しずおか連詩の会」への参加は初めて。

 

総和超え 言葉に生命

photo01 詩人 野村喜和夫さん     

 まずは今年のメンバー紹介から行こう。堀江敏幸さんは、現代の代表的な小説家のひとりだが、仏文学や日本文学に通暁[つうぎょう]した読みの名手でもある。中堅の優れた詩人田中庸介さんは、同時に、論文があの「ネイチャー」に載るほどの科学者である。暁方ミセイさんは宮澤賢治の隔世遺伝ともいうべき本格派の詩人。そして木下龍也さんは、短歌界のホープとして今をときめく。
 というわけで、今年も素晴らしい連衆をそろえることができた。彼らに私を加えた5人が、今年の連詩の「作者」となる。もちろんこの「作者」は、5人の作者の単純な総和ではなく、ひとつに溶け合った集合体でもない。なんとも捉えがたい複数的主体というほかないのだが、たしかなことは、そこから一度きりの、何ものにも代えがたい複雑精妙な言葉の生命体が生み出されるということである。ご期待ください。

 のむら・きわお 詩人。詩集に「風の配分」(高見順賞)「ニューインスピレーション」(現代詩花椿賞)「ヌードな日」(藤村記念歴程賞)「薄明のサウダージ」(現代詩人賞)「花冠日乗」、評論に「移動と律動と眩暈と」(鮎川信夫賞)など。

 

静岡に力 授けられた

photo01 詩人 暁方ミセイさん     

 6年前に初めて参加し、2回目の参加です。
 連詩を続けていると「自分の詩」なんてものがどうでもよくなり、詩という生き物の一部になるような感じがします。なのに、同時に自分の書いた詩はどうしても自分の詩で、もどかしく、気恥ずかしく、なぜかちょっと嬉[うれ]しい感じがします。そういうものが全部ひっくるまり、歪[いびつ]で愉快なものができあがる楽しさといったら。
 でも、あれが東京だったらかくも素直にできたかしら、という気もします。海も山も豊かな、生きることを土地そのものが肯定しているようなこの静岡という場所が、よそ者のわたしにも穏やかな明るい力を分けてくれたのだと思います。
 詩はやっぱり孤独なものだと思います。でも、その孤独な心は誰にでもある。連詩という「うたげ」の中で、わたしであると同時に、みんなになる。今からとても楽しみです。

 あけがた・みせい 詩人。詩集に「ウイルスちゃん」(中原中也賞)「魔法の丘」(鮎川信夫賞)「紫雲天気、嗅ぎ回る-岩手歩行詩篇-」(宮沢賢治奨励賞)など。「しずおか連詩の会」への参加は2回目。

 

定型壊し 新たな自分

photo01 歌人 木下龍也さん     

 2年前の夏に不動産会社を退職し、専業歌人になりました。それからはひたすら、短歌と向き合う生活をしています。短歌をつくるときはいつもひとりです。ひとりでいることも、五七五七七という定型も僕には向いているし、僕の武器だと思います。ですが、連詩ではそのどちらも使うことができません。両手を縛られたままボクシングをするようなものです。
 だから僕は「しずおか連詩の会」で、ひとりに慣れた自分を、定型に慣れた自分を壊し、生まれ変わらなければならないでしょう。どんな風に壊れるのか、その亀裂から何が、どんな言葉が生まれ、その後の自分にどんな影響を及ぼすのか。それがとても怖いし、同じくらい楽しみでもあります。僕がどう生まれ変わったのか、会場でご覧いただければ幸いです。

 きのした・たつや 歌人。著書は「つむじ風、ここにあります」「きみを嫌いな奴はクズだよ」「天才による凡人のための短歌教室」「あなたのための短歌集」。谷川俊太郎や岡野大嗣との共著がある。「しずおか連詩の会」は初参加。

 

思いがけぬ邂逅 期待

photo01 詩人 田中庸介さん     

 詩の醍醐味[だいごみ]はやはり、思いがけない考えとの邂逅[かいこう]にある。書き始めるときの漠然とした思いが、言葉のいたずらによって、思ってもみなかった方向に展開する。そんな裏切られ方がいつも楽しみだ。
 大岡信さんの「うたげと孤心」に影響され、詩の共同性には強い関心をもってきた。大学生のころ、高校時代の同級生との「ずかき現代詩の会」で詩の共同制作をしたり、「東京大学表象文化研究会」で高知や広島の若手詩人と連詩の創作に励んだりした。
 川崎市岡本太郎美術館の「太郎と遊ぶ」展では、来場者の方々に短冊を配り、詩の行をのばしていった。思いのほか人気が出て、650人もの方々の長い連詩が、部屋の四方をとりまいた。
 しかし、生身のプロの詩人らと連詩を巻くのは、今回まったくはじめてである。詩人たちのまったく思いもかけない発想に、小さな予想を裏切られ続けること。それを心から楽しみにしています。

 たなか・ようすけ 詩人、細胞生物学者。1989年「ユリイカの新人」としてデビュー。第四詩集『ぴんくの砂袋』で本年度の詩歌文学館賞を受賞。好きな食べ物はうなぎとエビフライ。2女の父。「しずおか連詩の会」への参加は初めて。

 

 
■11月6日に発表会 会場はグランシップ(静岡市駿河区)

 完成作品を5人が朗読、解説する発表会は11月6日午後2時から、静岡市駿河区のグランシップ11階会議ホール・風で行う。入場料は全席自由1000円。
 問い合わせはグランシップ<電054(289)9000>へ。グランシップのウェブサイトなどからも購入できる。
 3~5日の創作期間中は、SNS(交流サイト)を活用し詩40編を速報する。

 

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