東日本大震災12年 関西で舞う、岩手の虎 震災の記憶風化にあらがう 「芸能移植」被災地つなぐ【スクランブル】

 東日本大震災で被災した岩手県沿岸部の郷土芸能「虎舞」を関西に根付かせようと、同県大槌町の団体に師事した若手ダンサーらが「阪神虎舞」として活躍している。震災から11日で12年半。阪神大震災の被災地、神戸市長田区にあるダンススタジオを拠点につながりを紡ぎ、記憶の風化にあらがう。発起人の民俗学者橋本裕之さん(62)=大阪府豊中市=は「芸能の移植による保存」の可能性も模索する。

神戸市で写真に納まる「阪神虎舞」のメンバー。後列右から2人目は発起人の橋本裕之さん
神戸市で写真に納まる「阪神虎舞」のメンバー。後列右から2人目は発起人の橋本裕之さん
神戸市で写真撮影に応じる「阪神虎舞」の踊り手
神戸市で写真撮影に応じる「阪神虎舞」の踊り手
「阪神虎舞」発起人の橋本裕之さん(右)とメンバーの山本和馬さん=神戸市
「阪神虎舞」発起人の橋本裕之さん(右)とメンバーの山本和馬さん=神戸市
神戸市で写真に納まる「阪神虎舞」のメンバー。後列右から2人目は発起人の橋本裕之さん
神戸市で写真撮影に応じる「阪神虎舞」の踊り手
「阪神虎舞」発起人の橋本裕之さん(右)とメンバーの山本和馬さん=神戸市

 橋本さんは2011年の東日本大震災当時、盛岡大(岩手県滝沢市)の教授で、沿岸部の郷土芸能支援活動に奔走した。漁の安全を祈願し、張り子の虎頭と胴幕を2人で操り、太鼓や笛に合わせて舞う、虎舞に出合った。12年に仕事の都合で関西に移住し、神戸市の知人らと虎舞を移植するプロジェクトに着手した。
 大槌町の「城山虎舞」の菊池忠彦総会長(57)が指導を引き受けた。「虎舞を見るたびに自分たちや震災のことを思い出してくれる」との期待からだった。
 震災で故郷はがれきに埋もれ、道具のほとんどは流失した。「こんな時期に」との批判も覚悟したが、若手の声に押され、1カ月ほどで演舞。被災した地域の人から涙で歓迎された。家族や家財を失ったメンバーにとっても、心の支えになった。菊池さんは「芸能だけは震災前のままだった」と振り返る。
 18年、関心を持った若手ダンサーらによる阪神虎舞が発足した。踊り手が行き来し、互いの地で披露するなど交流を深めている。
 現在8人の阪神虎舞メンバーは、出身地も、動機もさまざまだ。新潟市出身の山本和馬さん(32)=神戸市=はダンサーとしての技術の幅を広げるために参加した。岩手県沿岸部を訪問し「虎舞をやる責任や思いが強くなった」と語る。同県釜石市出身の川端克則さん(26)=大阪府高槻市=は幼少期から地元の団体で舞っていたといい「メンバーが本気でやってくれてうれしい」と話す。
 現地ではいないとされる、女性の踊り手を育てるなど独自性を模索している。菊池さんも「まねでなく、関西なり」を目指すよう助言した。
 橋本さんによると、郷土芸能の保護は道具の保存や映像記録が中心だ。阪神虎舞には、今後の災害や人口減少を見据え「遠隔地に動態として残す、生きているアーカイブ」としての実験的な意味合いもある。
 阪神虎舞は毎年、東日本大震災のあった3月11日に神戸市で追悼の舞を行い、22年には兵庫県西宮市の神社で開かれた阪神大震災の追悼式で奉納披露した。関西が拠点になったのは偶然だが、橋本さんは活動が二つの被災地の架け橋になれたら、との思いを抱く。

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